第8話 地下2階 暗闇での奇妙な鳥

――地下2階――




長い階段を降りると、広い場所に出た。


広い場所と言っても、もちろんこの暗闇では広さは把握出来ない。


3人は音の反響と降りた階段の長さで、幅の広がりと天井の高さを知る。


「かなり広いな。この辺りは銀が大量に採れたのかもな。」


マットがつぶやく。


「ありがたいことに、レールが進むべき方向を示してくれているね。」


シカルが地面を照らす。


鉄のレールがグニャリと大きなと波を打ち、始点か或いは終点を意味するものとなっている。


横には役目を終えたトロッコが3台、静かに佇んでいる。


石を運び出すのに、休みなく使われたのだろう。多くの傷を負っている。


3人はレールに沿って広間を渡る。


間もなく、坑道の穴が姿を現した。




「この坑道の中をレールが通っているね。地下1階の坑道と比べたらちょっと小さいみたいだけど、小坑道ってわけでもないか。」と、シカルは坑道を見定める。




3人のパーティは坑道に入る。


気のせいか下り坂になっているのではなかろうか。


地下1階と同じように、坑道の横壁には小坑道がいくつかある。


しかしレールは分かれることもなく、真っ直ぐに進んでいる。




「やっぱり下り勾配になっているな。」


沈黙を嫌ってか、マットが口を開く。


「そうだね。気付くか気付かないかくらいで下ってる。」


シカルも合わせる。


ロイは相変わらず沈黙を守ったまま、一番後ろを歩く。




「コウモリさんも、さすがにここまでは来てないようだ。


しかし、あいつら一体何を食べて生きているんだろうな。」


マットの暇つぶしの疑問は、誰も答えないまま、闇の中へと置き去られる。


もしかしたら、ロイが「昆虫だ」と、声を出さずに口を動かしたかもしれないが、その唇の動きはあまりにも小さく、この物語の読者にも読みとれぬものだったであろう。


今まで気を張っていたので、その反動がおそってきたのか、眠りにも似たゆったりとした空気がパーティをおそう。


マットがあくびを噛みしめる。




横壁に掘削されている、いくつもの小坑道も、もはやマットでさえ見向きもしない。


単調な歩みが支配し、今まで張りつめていた緊張を闇に忘れ去る。


そんな眠りにも似た行進が、一瞬にして破られた。




「キュビー!」




「くそっ!」


マットの顔を何者かが引っかき、飛び去って行った。


マットは素早く背中に手を伸ばした。


一瞬でムチを取り出したかと思うと、闇の中に消えようとする飛行生物に向けて振る。




シュパバッ!




ムチの巻き付く音が暗闇に響く。


「つかまえたぜ、コウモリ野郎」


マットはムチを引き寄せると・・・コウモリではない、何か鳥のような生き物が巻き付いていた。


「キュビー!キュビー!」


暴れる生き物を足で踏みつけ、その頭部をよく見ると、マットは驚きのあまり言葉がつまった。




「・・・おい、これは」




シカルとロイも松明を近づける。




「なんなんだ、この生き物は・・・」


シカルがあきれたような声で言う。


「頭が2つあるだ。


鳥の体に、へびの頭が2つくっついてるだ。」 


ロイは驚きのあまり、声を震わせている。




ロイの説明するように、この生き物は自然界では考えられぬ形態をしており、胴体部分は鳥であるが、頭部が蛇の頭なのだ。


しかも頭が2つあるのだから、彼らが驚くのも無理はない。




もはや化け物と呼んでもいいと思うが、この化け物は奇妙な鳴き声をたてながら、もがいている。


マットは気味が悪いと感じながらも、だからといって踏みつけている足を上げるわけにもいかない。


2つの蛇頭は、マットの足に噛みつこうと必死にもがいている。




「マット、どこをやられたんだ?傷は大丈夫だか?」


ロイが冷静さを取り戻し、マットを心配する。


「ああ。足の爪で引っかかれたようだ。まさか、毒じゃないだろうな。」


マットは心配し、ムチを持った手で頬の傷を指でなぞる。


うっすらとではあるが、出血している。


「一応消毒しとくといいだ。」


ロイはそう言って、背負っている巨大な鞄を下ろすと、手を突っ込んでジンを取り出した。


「ありがとうよ、ロイ。


まあ感触として毒じゃないし、ただのカスリ傷だな。」


感謝するマットの頬に、ロイがジンを垂らす。


「傷口は腫れてないだ。大丈夫だ。毒じゃないだよ。」




二頭蛇鳥(とでも名付けようか?)をどう処分するか話し合った結果、松明の火で焼き殺すことにした。


耳障りな鳴き声を残した二頭蛇鳥の処分が終わった後、パーティは坑道を進んでいく。


睡魔のようなどんよりした空気はなくなり、ひんやりとした緊張感に包まれる。


マットは松明を左手に持ちかえて、右手にムチを握っている。


シカルは杖、ロイは大剣を闇に向けている。


小坑道にも気を配り、足の運びも速く、耳を澄ませて襲ってくるかもしれぬ鳥に備える。


次第に坑道は直線を保たず、銀脈のおもむくままにクネクネと曲がり、小さな坑道の分かれ道も多くなる。


レールのみがパーティの進むべき方向を示してくれる。




「ギュピー!ギュピー!」


闇の中で二頭蛇鳥らしき鳴き声が響く。


鳴き声から察すれば2羽いそうだが、なにせ頭が二つあるので、もしかしたら1羽という可能性もある。


「そこだ!」


叫ぶと同時にマットがムチを振る。


またしても、ムチがヒットする。


その正確さに、シカルとロイは感嘆せずにはおられない。


「またこいつだ。」


二頭蛇鳥。


ロイが躊躇せず2つの首を剣で切り落とし、マットが松明の火で焼き殺す。


肉のこんがりとした香りがひろがる。


ロイはその匂いで、食用に使えると判断する。


しかし、それはあくまでロイの勘であることを注意しておかなくてはならないであろう。


その肉の香りがロイの胃袋を刺激する。


マットとシカルにとっては、食べるなど考えられぬことであった。


そんなわけで、マットは焼け焦げた二頭蛇鳥を脇に蹴飛ばすと、ムチを握りしめて先を急ぐのであった。




「キュキュ」


と、近くで微かな鳴き声がする。


やはり、もう1羽ひそんでいたのだ。


「口が2つあっても、肺がひとつだから、別々に鳴き声は出せないのかな。」シカルは考える。


「いやいや、肺が2つある可能性もあるかもしれないぞ。今度はじっくり見てみよう。」そんなシカルの考えをよそに、マットは泣き声の方角へ、松明をかかげて二頭蛇鳥を探す。


見つけたと思うが早いか、一瞬でムチが飛ぶ。


今度は鳴き声を出す間もなく、ムチが二頭蛇鳥の肺を締め付ける。


地面に強く叩き付けられ気を失い、ロイが首の付け根から尻尾まで真っ二つに切り、松明の火をつける。


シカルはそのとき、二頭蛇鳥の断面を観察する。


二つの身体に分かれて血にまみれた内蔵には、肺があるのかどうかもわからない状態だ。


「あれでは肺は確認出来ないな。切られた時に、肺は風船のようにパンって割れたのかもしれないぞ。いやまてよ。そもそも肺は左右に分かれて二つあるものだ。鳥だってそうだ。ということは、どういうことなんだ?


どうして肺は一つじゃなくて二つあるのだろうか?鼻の穴が二つあるのと、関係があるのだろうか?」そんなシカルの頭の中の疑問は、マットの大声によってかき消される。


「よっしゃ、先へ進むぞ!」


マットは火の付いたままの二頭蛇鳥を脇へ蹴飛ばし、元気よく進むのであった。


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