第5話 坑道の入口を岩で閉鎖する

マットとシカルがやって来た。


2人はグレイから説明を聞くと、簡単な食料と飲み物を取りに、来た道を急いで屋敷へと戻って行った。


遅れてピートとロイがやって来た。


グレイは、ジェイコブと話した内容を2人に説明した。


「ここらで、岩っころがたくさんあるところはどこだか?」説明を聞き終えると、ロイが質問した。


「このレールを辿って行った先に、岩置き場がある。すぐそこだ。」ピートが答え、走って先導する。


ロイも後に続いていった。




残されたグレイは最悪の事態のことを考えた。


坑道の出口を塞ぐことに失敗し、森の警備兵に坑道の存在が知られること。


そしてそのことがジーランド国王の耳に入ること。


そうなれば私は反逆罪に問われるだろう。


国王軍が攻めて来ることも否定は出来ない。


戦いをしても我々に勝ち目はなく、甚大な犠牲者が出てしまう。戦いだけは避けなければならない。 




グレイの頭にある誘惑が浮かんだ。


「姉上の嫁いだゴルラン国王に頼めば、我が領地を守るのに、手を貸してくれるかもしれぬ。」


しかしグレイは頭を横に振った。


「これは良からぬ考えだ。自らの失策は、自ら責任をとらねば。」




グレイがそのように思い悩んでいるとき、ロイがトロッコ3両に、大きな岩を山盛りに載せて、押して走ってきた。


「なんという力だ・・・」


グレイは、予想をはるかに越えるロイの力に心から驚いた。


ロイは鉄格子の扉の前までトロッコを押し進めると、自分の巨体よりも一回り大きな岩を持ち上げた。ドスン、ドスンと、トロッコから岩を取り出しては次々に扉の前に投げ飛ばす。


周りのものは呆気にとられるばかりである。


そして、空になったトロッコを岩置き場に戻し、また岩を山盛りに載せて来るのである。


それを5回繰り返し、とうとう坑道入口に岩を積み上げたロイは、グレイに言う。


「今、扉の前にわずかな隙間があるだが、わしらが中に入ったら、大きな岩を上から落とし、あとは小さな岩で塞いでくれ。


それで森からの侵入者はこちらに来れなくなるだ。」


ちょうどその時、荷物をかついだマットとシカルが走って戻って来た。


「うわ、すげー岩の山だな。どうやってこんな大きな岩を動かしたんだよ。みんな大変だったろう。」


マットが驚いて言う。


「いや、これはロイ一人でやったことだ。」 グレイが応える。


「本当かよ・・・」マットはあきれてロイを見る。




マットとシカルが屋敷から持って来た物は、前日にロイが選んだ武器と盾、そしてわずかな食料と水と酒と縄の入った鞄だ。


ロイは装備を整えて、その鞄を背負う。


3にんは岩を乗り越えて、坑道に入ったところで、ピートが外側から鉄格子の扉の鍵をかけた。




「よし、後は上に積んである岩をこの隙間に落として、完全に塞ぐといいだ。」ロイが声を上げる。


「わかった。太陽の光も入らないように塞ぐ。その代わり、この場所にはいつでも誰かが待機しているから、戻ったら必ず声で知らせてくれ。」グレイが応える。


「ほら。松明だ。みんな一つずつ持ってね。


高級な鯨の油を染み込ませてあるんだ。煙も出ないし、長持ちするよ。」


そう言ってシカルが、ロイとマットに松明とは思えぬほどの、細い棒を手渡した。


そして、どのような仕掛けかはわからないが、魔法のように杖の先から小さな火を出すと、3本の松明に火が灯った。


「準備は出来たな。


グレイ!じゃあ、俺たちは行くぜ!」


マットが最後の別れの言葉を発すると、3人は坑道の奥へと向かって行った。


そして従者たちとピートが大岩を落とし、坑道の入口を完全に塞ぐのを、グレイは憂慮を抱きながら見届けた。




グレイは3人の従者のうち2人を見張りに残し、ウェドと従者1人と共に下山した。


この残された従者2人とピートが交代で、岩で塞がれた坑道大門の前に座り、見張り番をすることとなった。


常に2人が16時間聞き耳を立てて、1人は8時間屋敷で休む、という任務を3人で規則正しく回した。但しピートは、自分の休み時間に、グレイから預かった望遠鏡を持って領境へ走り、森の様子を伺いに行った。


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