第4話 坑道の大門
ピートを先頭に、一同は坑道の門まで急いだ。
坑道の門は屋敷の近くなので、結局、来た道を戻る形だ。
ただ、マットだけは尿意を我慢出来ず、地面に尿を十分染み込ませた後、やっとみんなに追いついた。
ジェイコブは、グレイがどのような計画を立てるだろうかと考えていた。
こちら側の坑道の入口を塞ぐこと。それと森の側の坑道の出口を塞ぐこと。この二つをやってしまえば、騒ぎは収まるかもしれない。森の警備兵にも気付かれずにすむかもしれない。
それと同時に、グレイの父を捜すことは出来るのだろうか?
さすがのグレイでも、父のことはあきらめるだろう。これだけ森に異変がおきれば、国王側がいつ気付いてもおかしくないのだ。
森とつながる坑道の存在が知られてしまえば、グレイの立場は悪くなる。時が経つほど、坑道出口の存在が知られる危険性も高まってくる―
「恐ろしいことだが、認めざるを得ない・・・化け物が坑道に入った可能性を・・・。
もしそうだとしたら、俺は足手まといだ。お前たちだけで行ってもらうことになると思う。」
走りながら、ピートがいきなり話し出した。
「基本的に、この鉱山の坑道は階層があると考えてくれ。
トロッコ用のレールが敷いてある大きな道が、それぞれの階にある。
その大きな道から、銀脈をたどって小さな道が無数に伸びているのだ。
それらの小さな道のほとんどは行き止まりになっているから入るな。
下の階に行くには、大きな道の突き当たりかその付近に、必ず昇降機がある。
その横に必ず階段があるので、そこから降りられる。
地下6階まで行けば簡単だ。地下10階まで昇降機がつながっている。
後は、谷間の川の下を行く道を探さねばならん。
その道へ行くには、複雑なので説明しにくいが、簡単に言うと、斜めに下がって進む小さな道がひとつだけある。その道だ。
進むごとに下への勾配が大きくなり、川を通過したあたりから、上りの勾配にかわる。森の出口まで一本道だ。」
一同は走りながら、ピートの話すことを頭に入れた。
屋敷から来た道を外れると、ピートが言った。
「この道の先が、坑道の大門に突き当たる。」
それを聞くと、ジェイコブが速さを切り替えて、無言で真っ先に飛び出した。
「俺たちも先に行ってるぜ。」
巨体のロイとピートを残し、マットとシカルが、ジェイコブの後を追った。
しかし、矢のような速さで走るジェイコブの背中は、あっと言う間に見えなくなってしまった。
ジェイコブが坑道の大門に到着すると、早くも5人の先客がいた。
ユキとグレイとグレイの側近と見られる3人だ。
坑道の入口は大きな半円で、横幅8メートル、高さは4メートルといったところだ。
ジェイコブが安心したことに、入口には鉄格子の扉が閉まっており、鍵がかかっていた。
「話はきいた。」グレイが真剣な面持ちでジェイコブに話す。
「私も一緒に、森にある坑道の出口を塞ぎにいこうと思う。もはや一刻の猶予もない。」
「そうだ。塞がねばならないな。」ジェイコブが頷く。
「しかし、それは俺たちにやらせてくれないか。今こそあんたは、平常心で国王に会いに行かねばならない状況だ。」
グレイは厳しい顔をする。
「この太陽の下に、二度と帰って来れぬ仕事になるかもしれないぞ。」
「ああ、わかっている。俺たちの命に代えてもやり遂げなくてはならん。辛いだろうが、あんたの命はここで無駄にすべきじゃない。」
グレイは拳を握りしめ、悔しそうにうつむく。
「すまぬ。頼んだぞ・・・」
「いいってことよ。むしろやりがいがあるくらいだ。それで、あんたの父さんのことは後回しでいいのか?」
「そうしてくれ。こうなってしまっては、森にある坑道の出口を塞ぐのが何よりも最優先だ。」
「わかった。じゃあ、俺の言うことを聞いてくれないか。
まず今から俺とユキが入る。
大体の道はピートから聞いているから、急いで先に進む。
そして、もうすぐマットとシカルとロイがここに到着する。
彼らに、この入口を岩で塞ぐように言ってくれ。」
「やはりここの入口を塞ぐことも必要か。しかし、いいのか・・・?」
「ああ。大きな岩を集めて、この入口を固めてくれ。
もちろん、完全に塞いでしまわず、後から入れるように、入口のところに少しだけ余裕をもたせておく。そして、マットとシカルとロイが入ってしまえば、扉に鍵をかけて、仕上げに残りの岩を落として塞いでくれ。」
「お前たちが仕事を終えて、ここに戻った場合、どうするのだ?」
「この場所に常に誰かいてくれるといいのだが。そうすれば声くらいは聞こえる。
それに化け物対策にも、ここに何人かいることが必要だろう。じゃあ、ユキ。早速行こう。」
「わかった。では生きて成功することを祈っておるぞ。」グレイはそう言って、鍵を取り出すと鉄格子の扉を開けた。
「あんたがこの山に戻って来るのは3日後だったな。10日経っても、俺たちの声が聞こえてこないようだったら、俺たちのことは忘れてくれ。」
ジェイコブとユキが目を合わせると、坑道の奥へと消えて行った。
2人はレールをたどって慎重に奥へと進むと、後ろで扉の閉まる音が聞こえた。
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