第5話 対戦
ギュッと目を閉じて、次に目を開けると、もう私たちは人間の城、王宮についていた。玉座には、王が座っている。
「失礼する、人間の王よ。」
「ま、魔王ではないか。急にどうした?」
人間の国と魔王の国は、昔から共存関係にあるらしい。それだけあって、仲の良さそうに話しかけてはいるが、人間の王はだらだらと冷や汗を垂らしていた。
「この娘が、人間の王に私を倒せと命令されたと言っているのだが、心当たりはあるか?」
「あ、あるわけないだろう!?」
焦り、叫んで私を指差す。
「この女が嘘をついているんだ!」
けれど、魔王は何か証拠を掴んでいるらしい。にんやりわらうと、私をおろし、玉座の間の床に描かれた魔法陣を指さした。
「勇者を召喚する魔法陣だ。…なぜ作動した痕がある?」
「そ、それは…。」
焦りでよくわからないことを口走り始める。
「と、とにかくその女が悪いんだ!私は悪くない!」
けれど、魔王はニヤニヤしたまま人間の王を見つめていた。魔王の目はゾッとするほど、恐ろしい目だった。その目は、王を見てなどいなかったのだ。もっと先の、何かを見つめていた。
「これは王族にしか召喚できない。今王族の血を引くものは、お前しか、いないだろう?」
魔王は笑った。嬉しそうに?とんでもない。恐ろしい顔で、王を見た。そして、私を見た。次の瞬間には、人間の王の首が、消し飛んでいた。
「お返しだ。」
魔王は心底楽しそうだった。元々魔王とはそういうものなのかもしれないが。騎士は私に助けを求め、メイドは逃げ始めた。血の滴り落ちる音がする。もう、誰にも止めることができなかった。でも、私は見過ごすことができなかった。いくらなんでもこれはやりすぎだ。私は魔王の攻撃にも反応できたし、もしかしたら…。
「ねえ。」
「…どうした?」
私が話しかけると魔王は急に笑顔が消え、私の方に目を向けた。
「やりすぎじゃない?」
「そうか?」
魔王を見る限り、どうも悪気はないようだ。それは、まるで子供のよう。何が正しくて何が間違っているのか、わかっていないのだろう。掴めない人だ。
「死んだ人は戻らないのよ?」
「ん?戻るぞ。」
はあ?え、死者蘇生ができるとでも?もしかして、と、自分を鑑定する。その一番下の欄に、「蘇生魔法」と書かれてあった。
え、最強じゃん。
「もしかして、魔王も蘇生魔法使えるの?」
「使えるのか?禁忌の魔法だぞ?」
「げ。」
使えるけど、わざとじゃないもん!勝手に覚えたんだもん!
王に手を向け、
「蘇生魔法!」
と唱える。かっこいい彼に、殺人者の称号なんて持って欲しくないから。まあ、この王様はあんまりいい人だとは思わないけれど。
「うう…い、一体何があったんだ?」
王が苦しみの声を出しながらあの世から戻ってきた。おそらく、首を飛ばされた感触が残っているのだろう。自業自得だとは思いつつも、なんだかかわいそうになる。
「帰るぞ。」
誰に言っているのだろうか?
誰がいるのだろうかと想像していると、魔王が再び私を抱き上げた。
「え、なに、なに!?」
驚いた私の問いに、魔王は一言
「帰ってから話そう。」
とだけ言い、また空へと飛び立ったのだった。
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