海に向かって叫ぶ夢を見た。

言葉にならない声だった

ちゃんと送り出す筈だったのに

さよならを言うことさえもできなかった

冷たい風が髪で泣き顔を隠してくれたけど

またね、なんて曖昧な約束さえできないまま

足元を見つめることしかできずにいた。


今更になって夢に出てこないでよ。

もう忘れたことだったのに。

毛布だけがやけに優しく感じるよ。

冷えきった指先がやけに熱くなって

夢から覚めたはずなのに、あの頃のように

おはようってわらう貴方が見えるの。

手を伸ばしかけて、忘れたことと

言い聞かせてやめてを繰り返す。

あの日の天気も電車の赤い色も

貴方の後ろ姿も全部忘れてなんかないけど。

私だって、それなりに幸せにやっているのに、


あの夜に話した夢を貴方は覚えてくれてますか?

待ってと言えば振り向いてくれましたか?

あの時のあの風は追い風だったの?

向かい風だったの?

夢追い駆け出した貴方を止める勇気もないまま

片道の切符を右手に持って

誰かに連絡する左手を恨めしく思ってた。


あの日は言えずにいた声が

夢の中では溢れ出るのに

震えて言葉になりきらない。

どうしてだとか、行かないでとか

軽々しい言葉を叫べばよかった?

でも何か違うの。

本当は笑って背を押したかった。

意地を張って、髪で顔を隠さずに。

最後の思い出が寂しくならないように。

いつもみたいに、バカみたいな事を言って笑って

明日ねって言うつもりだったんだよ、あの日も。


恋だとか愛とかじゃない

一人の人として貴方の事を誇りに思う

もう二度と会えなくなったとしても

この思いを届けられなかったとしても。

幾つ季節が巡っても

貴方と愛しいあの子に小さくてもいいから

毎日幸せが訪れることを祈ってる。

どうかお幸せに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る