鍋
友人が離婚をした。
ご主人は話を聞くに一風変わった人だったが、どこの家庭もそんなものだと私は思ってた。
離婚の話を聞いて、驚いたけれど、やっぱりとも同時に思った。
別居し、連絡は警察でも生活安全課の人を通さないと連絡できない筈なのに
急用だと取り次いでもらったり、職場に電話をかけてきたり、直接連絡をしたりしたらしい。
何か精神的な病気じゃないかと、友人の話を聞きながら私は考えていた。
「正月なのに鍋が出来ないじゃないか!だとか
シェイバーの刃がない!どこやった!?だとか
テレビのリモコンがないんだ!知らないか!?なんて
離婚して一緒に住んでない私に聞かれてもねえ」と困惑する彼女だったが、話を聞きながら笑ってしまった。
ご主人、いや元ご主人は寂しかったんだろう。
いつも何年もの間、自分を甲斐甲斐しく世話をしてくれる妻も
家に帰れば聞こえてきた子供たちの話し声も何もないところに居るのだから。
ある時、彼はまた連絡してきて
「蟹を買ったんだ!お前蟹好きだったろう?今から鍋をやらないか?」
彼は結婚していた時はお金に厳しく、たまには、パパが美味しいディナーに連れてってやると言えども
帰ると「半分はお前が払え」と夫婦にしては少し変わったやりとりもあったという。
それも彼にとっては一つの愛情だったのだろう。
少しでも多く、老後を暮らす為に貯めていたのかもしれない。
そんな彼が「蟹を買ったから、食べに来い」という。
彼女は断ったらしい。
「子供達のことが落ち着いたら、また考え直してくれるんだろう?って聞かれたの。」
笑いながら彼女は話したけれど、意思は固そうだ。
あの人バカよね、そう言う彼女の目はとても穏やかで愛情までなくしたわけでは無いように見えた。
そして今まで会った、何時よりも凛として真っ直ぐ前を見据えていた。
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