風船

私は時々「死にたい」と口から溢れる。

口に出して、自分でさえも戸惑っておろおろと涙が出て、何もできなくなる。

しょっちゅう言っているのなら口癖に近いものなのかもしれないけれど

わたしのそれは、いつも心のなかで死ぬ理由を探して、どうやってとか色々考えて頭が一杯になって溢れる。

コップに注ぎ続けた水が溢れるような。

空気を入れすぎた風船が口を閉じる前に何処かへ行ってしまうような。

そんな感じ。

夫は忘れかけた頃にやってくるそれを「死にたい病」と名前をつけた。

何枚遺書を書いただろう。

日記に今日は死にたい病がでてしまった。

なんて書いたりもした。

日記は死ぬまでに燃やそう。

いつか訪れる、いつかわからないその日を考え、予定を立て一喜一憂する。

「死にたい病」は年を重ねるにつれて、その姿はどんどん風船のように膨らみあがる。

その姿を現す間隔も狭まっていく。

いつか、風船みたいにパチンと割れたらどうなるんだろうか。

馬鹿馬鹿しい、そう思いながら膨らみ続けていく風船を今日も私は眺めるしかできない。

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