コント「初詣の祟り」

岳石祭人

コント「初詣の祟り」

 ある青年が元旦、地元の総鎮守である大きな神社に初詣に行った。

 ところがそれ以来、いっしょに行った彼女には別れを告げられ、財布は落とす、ドライブ中にバッテリーが上がる、歩けば車に泥水をもろに浴びせられる、怒鳴りつけたら止まった車から怖いお兄さんが降りてきて慌てて逃げる、と、三が日の間にろくでもないことが立て続けに起こった。

 せっかく初詣に行ってやったってのにこれはいったいなんの嫌みだ?と怒った青年は、後日、神社へ神様に文句を言いに行った。

 かっこうだけ手を合わせて心の中で罵詈雑言を浴びせていたら神様のお告げがあった。


 __こら、おまえ。初詣のお参りの態度をよく思い出してみろ。


 なんのことか一向に心当たりのない青年に神様は呆れて教えてやった。


 __おまえは参道いっぱいに人が歩いている中、杖をついて歩いている老人を無理やり追い越して睨み付けて行っただろう?

 お参りの列に並んでいるときも、お参りを終えて出ていく人たちのために開けてある通路から横入りして、自分が出ていくときには無理やり列を横断して小さな子どもを蹴飛ばしそうにして、危うく迷子にさせようとしただろう?

 そういう態度でお参りして、御利益なんて与えてやるわけがなかろうが?


 青年はムッとして言い訳を考えたが。神様は重ねて言った。


 __そうだ。おまえは連れの彼女にいいところを見せようと、周りの迷惑なんてお構いなし。自分たちのことしか考えておらなんだ。そんなんだから彼女にふられるのだ。


 偉そうに説教する神様に(まあ、神様なんだから偉いんだろうが)青年は完全にムカッときて、

『分かったよ。悪かったな。じゃあ、御利益なんていらねえから、賽銭に上げた千円返しやがれ!』

 と悪態をついた。

 神様はしばし無言の後、むっつりした声で言った。


 __よかろう。持っていけ。


 すると、ひさしの梁の上から千円札がひらひら舞い降りてきた。

「あ、待て!」

 千円札を追った青年は、手を伸ばして掴んだものの、みぞれ状の雪で足を滑らせ、スッテーンとすっ転んだ。石の床に後頭部をしたたかに打って気絶し、そこへ屋根から雪が降ってきて顔を埋めた。10分ほどして巫女さんが発見し、救急車で病院に運ばれた。

 危うく命は助かったものの、下手をすれば酸欠で頭をやられるところで、これが神罰ならやり過ぎに思えて不満たらたらだったが、怖くてもう悪口を言う気分も萎えた。手にしっかり握っていた千円札はちゃんと病院で預かられていた。

 ひどすぎる目にあった青年だったが、入院の噂を聞いた別れた彼女が青い顔で駆けつけてくれ、そこへ何故か泥水を跳ねた車の怖いお兄さんまでやってきた。

「俺だ、俺。覚えてねえか?」

 と笑って言う顔をよくよく見れば、それは小学校のとき仲の良かった同級生で、強面は土建業の現場作業ですっかり身に付いてしまったものだった。

「これは神様の巡り合わせなのかなあ?」

 と、青年がこうなった神社でのいきさつを話すと、

「そりゃあそうに決まってる」

 と、毎年夏祭りにこの神社の社に納められている御神輿をかついでいる同級生はしたり顔でうなずき、すっかり反省した青年に彼女の眼差しも柔らかく、復縁のチャンスがありそうだ。


 数日後、後遺症もなく無事退院した青年は、もう一度神社にお参りに行き、倍返しと言うことで、元の千円に2千円をプラスしてお賽銭を上げた。その他入院費もごっそり取られ、神様を怒らせるものじゃないなあと痛恨したが、なんだか今年はこれ以上悪いことは起きないような気もするのだった。


 おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コント「初詣の祟り」 岳石祭人 @take-stone

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説