第24話 天才博士カルロス

 到着した町はそれなりの規模で、食材が豊富に手に入るだろうとビィティは考えた。

 肉屋を探し買い物をしようとすると、そこまで大量の肉は売れないと断られた。

 この町の肉屋はこの町の住人の為にあるもので、よそ者のためにあるわけではないからだ。


「カルロスじいさんの牧場に行けば売ってもらえるかもしれないぞ」

 店主の言葉にビィティは破顔して喜ぶ。やはり任せられたらちゃんと仕事はやりとげたい日本人魂が出ているのである。


「本当ですか?」


「ああ、ちょっと変わり者だが質のいい肉を作るので王都でも高値で取引されるほどだ。ただ、あの山の麓にあるから歩いて行くには大変だから行くのは無理だぞ」

 店主が指を指す方を見たビィティは木が埋まるほどの降雪に驚くが「食料が必要なので頑張ります」と店主に言うと店を後にした。


 ただ、食料を買えないことも考えてビィティは町で売ってもらえるだけの物資を買ってから牧場へと飛んで向かった。

 牧場までの道は上から見ても埋まっておりとても歩いていけることなど出来なかった。

 肉屋のオヤジさんは肉を売る気が全く無かったんだろうなと口を含み笑いで歪ませる。

 

 そのまま空を飛びながら直進をすると山のふもとに小さな小屋と厩舎きゅうしゃが見えた。

 なぜか厩舎の周りの雪は溶け、緑の牧草が生えていて季節感をなくしていた。


 牧草地には牛がのんびりと寝ていて厩舎には豚、鶏等がゲージ分けされ育てられていた。

 ビィティが地上に降りると牧羊犬がけたたましく吠え威嚇する。

 犬には精霊が見えているようでベルリやクリンにも吠えて二体を驚かせていた。

『なんだよこのクソ犬!』

『でちゅ!』 


「お前どこから湧いた!」

 黒く日焼けしたしわくちゃ顔の老人が手斧を持って家から現れるとビィティを怒鳴りつける。

 許可無く敷地に入ってるのだから当然だがあの雪道をこれた時点でまもとな人間ではないと判断したのだろう。


「私はビィティと言います。精霊で空を飛んできました」


「なんじゃ精霊使いか?」

 ビィティの言葉を疑うことなく納得すると、ゴツイ眼鏡を装着してビィティの周辺をにらむように見る。


「なんじゃフェイクか……レベル? なんじゃそれ」

 首をかしげているが、一目で精霊の種類を当てられたと言うことは見るだけならマリアの目よりも上だった。


「見えるのですか?」


「当たり前じゃわしゃ、わしゃ天才Drドクターカルロスじゃからのう」

 その男の名はカルロスと言い自称天才と名のっている、この牧場の主人だ。


 ちなみに先程の眼鏡は精霊看破器と言う道具で一般人にも精霊が見えるようになる上に、事細かな詳細まで見れるのだと言う。

 ビィティも貸してもらいベルリ達を見ると自分でも知らないような詳細があらわれた。


「どうしたのじゃ、見えたろ?」


「すごいです。ここまで見えるんですか。すばらしい」


「フハハ、そうじゃろう、そうじゃろう。お主なかなか見所があるな」

 カルロスは自分の着けている道具に興味を持つビィティに好感を持ち家の中に招き入れる。


「お邪魔します」

 家の中に足を踏み入れると、所狭しとガラクタが並んでいたが、どれもこれもこの世界ではあり得ない機械ばかりだった。


「なんですかこれ?」


「文献を研究して作った古代機械モドキじゃ」

 カルロス博士は一冊の本をテーブルの上に置くとビィティに見てみろと促す。

 そこには機械仕掛けの鳥や飛行船、ゴーレムなどの製造方法が書かれていた。

 とはいえ、かなり古いもので所々かすれて判別できなくなっていた。


「すごいですね」


「わかるのか?」


「ええ、機械仕掛けの鳥やゴーレムまで、これはなんなのですか」

 その言葉にカルロスは満足そうに頷く。


「それはワシが若い頃、偶然山の中腹にある洞窟で見つけたものだ」


「古代の書物ですか」


「そうじゃ。ただ、それは写本のようでな微妙に間違っておるのだ。文字の消えてしまったところまであるしのう。現物があればそこから設計思想など分かるんじゃが」

 そう言うとカルロスは残念そうに古代機械達をポンポンと叩く。ビィティが一枚一枚古代の書物を丁寧にめくり見ていると。見たことのあるものが現れた。


「アーティファクト精霊……」


「ほう、それがなんなのか分かるのか」

 ビィティはバッグから壊れたアーティファクト精霊:氷を取り出した。


「なっ! 小僧これをどこで」


「死ぬ思いをして倒した魔物が持ってました」

 カルロスはアーティファクト精霊を持つビィティの手を取り懇願する。


「これをワシにくれんか? 頼む、実物があれば研究が捗るんじゃ」

 その願いは鬼気迫るものがあり、ビィティはこの人ならこのアーティファクトをまかせられる気がした。


「あげられませんが研究のためにお貸しすると言うのはどうでしょうか? もちろん直してもらうこと前提で」


「おお、本当か? 直す、直して見せる!」

 カルロスはアーティファクト精霊を受けとると体を四方に動かしまるでローリングダンスをするように観察をした。

 彼の頭の中でアーティファクト精霊は分解されているのだ。


「Dr・カルロス、私を先生の助手にしてくれないでしょうか? 住み込みは無理なのですが。たまに来たときに博士の知識を教えて欲しいのです」


「うむ、構わない。むしろワシの知識を誰かに受け継がせたいと思っておった」

 この古代の書物の知識はゲームには無い知識だから是が非にでも欲しいとビィティは考える。少しでもクラリスを助ける材料が欲しかったのだ。


「ありがとうございます。それとこれは少ないですが修理代と研究代にお使いください」

 ビィティはバルムント金貨を20枚手渡した。


「バルムント金貨! こ、こんなに良いのか?」


「博士の研究は素晴らしいものですから」


「おお、お前、本当にわかっておるな」

 自分の研究を認めて、お金を出してくれるビィティにカルロスは肩をバシバシと叩き喜ぶ。

 喜んでいるところ悪いのですけどと前置きをしてビィティはカルロスに忠告する。

 このアーティファクト精霊は国も研究しているので。もしカルロスが現物を持っていることが分かれば殺される可能性もあると言うことを。


 カルロスはそんな馬鹿なことがとビィティの心配を杞憂だと笑う。


 だがビィティは言う。国はこのアーティファクト精霊を独占したいので、個人でアーティファクト精霊を持つのを許可しないでしょうと。

 現に国は三つのアーティファクト精霊を持って既に兵器転用していることを告げると、ようやく理解しカルロスは納得した。


「それに、アーティファクト精霊だけじゃなく博士のように古代の叡知を欲している可能性もありまし。そうなると博士は邪魔物です」


「うむ、そうだな。今後は研究は極秘でやることにしよう」


「では、私は行かなければならないところがありますのでこれで帰ります」


「うむ、知識がほしくなったらいつでも来るが良い。それとこれを持っていけ」

 そういうと先程の精霊看破器をビィティに投げて寄越す。


「良いんですか?」


「ああ構わん、また作れば良いし、お主の方が必要じゃろ?」


「はい、ありがとうございます。ではカルロス先生あまり無理をして身体を壊されませんように」

 ビィティが彼の体を心配すると、まだそこまで老いぼれておらぬわと服を脱ぎ黒光りする筋肉を見せた。


「すごい筋肉ですね」

「ふはははそうだろう、この老いぼれはまだまだ死にはせんよ、せっかく本物を手にいれたと言うのにな」

 カルロスはガハガハと笑うと咳き込み心配そうに見るビィティを見て、何事もなかったかのようにたたずまいを直した。

 ビィティはもう一度礼を言い、帰ろうと扉を開けると豚の鳴き声を聞いて大事な用を思い出した。


「あ、博士すみません」


「なんじゃ?」


「肉を売ってもらえませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る