第23話 氷の魔物と氷の聖者
「す、すみません気をつけます」
そう言って逃げるように飛び立つとアンジュが「早く帰ってきてね」と手を大きく振る。
その少女のアンジュを見て、今思い出しても自分を冤罪にした女性は50キロはありそうなムチムチ感だったんだけどなとビィティは蹴られた尻をさする。
『人間の女って狂暴だよな』
『でちゅ、怖いでちゅ』
「女性には男には分からない悩みがあるんだよ。発言には気を付けないとね」
そう言えば、あちらの世界で私ダイエットしてるんですと言う後輩の子がいて。そのままでも十分かわいいよと言って、その後、無視されたことがあったっけ。
ビィティはあのときの答えが今ならわかると思う。
『そう言えばスリムになったね』だと。
十分かわいいでは成果が出てないよと言っているようなものなのだ。
だがビィティは分かってはいなかった、答えはそこじゃないことに。女性はどんなダイエットをしているのか過程を聞いて欲しいのだ。その上でやせたねと誉めるべきなのだ。
まあ、ただビィティである
閑話休題。
『でも、あるじぃ結婚するんだろ?』
「いや、助けるためとは言え傷つけてしまったし、なにより魔王を倒すまではクラリスの陰で支えないといけないから」
『結婚できないわけか』
『なら、クリンがご主人ちゃまのお嫁さんになってあげるでちゅ』
『あ? ふざけんなよ、オレが嫁になるんだよ』
クリンの嫁になる発言にベルリが待ったをかけたが、当然驚くのはビィティだ。
「へ? ベルリ、お前もしかしてメスなのか?」
『おうそうだぜピチピチのメスだよ、魚だけにな! ピチピチ』
「うお! まじか。魚だけに」
『「ウエェーイ」』
ビィティ達は拳とヒレをぶつけ合い、おっさんギャグ仲間の絆を深めた。
ビィティたちがふわふわ飛んでいると急に天候が荒れ吹雪になる。だがよく見ると空は割れんばかりの晴天なのにビィティ達の周囲だけが視界がなくなるほどの雪が舞っているのである。
『ごちゅじんちゃま魔物でちゅ!』
一難去ってまた一難
まるでゲームのようだとゲームシステムを模したこの世界にビィティは呪いの言葉を吐く。
『魔物でちゅ、魔物が居るでちゅ』
「どこだ? ホワイトアウトしていて何も見えないぞ」
『あるじぃ、この吹雪全部が魔物なんだよ』
「おい、どういうことだ」
『魔物のお腹の中にいるでちゅ』
『あるじぃ、どうするんだよ』
「カマクラだ、とりあえずカマクラを作れ! カマクラ万能説!」
『分かった!』
『あいでちゅ!』
着地したビィティの周囲の雪が盛り上がり、雪のドームを形成していく。なんとか人心地ついたビィティだが依然として危機なのはかわりがない。
「しかし、魔物の中か……。師匠の本になにかヒントはないだろうか?」
ビィティはバッグの中を漁り魔物関連、特に雪関係の書物を引き出す。
引き出された書物は三冊、そのうちの一冊をめくるとそれほど難しくない文字でかかれておりビィティでも読むことができた。
雪の魔物は魔石じゃなく魔結晶が核にある。
魔結晶とは見た目は雪の結晶だが黒く日光で溶けることはない雪を生成する。
弱点は熱。魔法の火は火と言う概念でありそのものに熱はない。故に火魔法では倒せない。
一体一体には攻撃力は無く最弱の魔物なのだが、集団になるととたんに最強になり、どうあがいても倒せないのだとベスタの本には書いてあった。
「つまりクリンやベルリが言う通り雪自体が魔物なのか、そして吹雪は魔物の集合体ということか?」
ビィティはさらに他の書物を漁る、二冊目、三冊目は難しくほとんど読むことができなかったが、あり得ないほどの吹雪に遭った場合、雪の魔物を統率してる巨大な魔結晶の核があると言うことだけが分かった。
「しかし、熱なんかないぞ。松明に火をつけてもこの吹雪じゃすぐに消えちまう。剣を熱して振り回してもすぐに冷めてしまうし、戦いようがないじゃないか」
『火の精霊がいればオレとの合わせ技で熱を発生させられるのにな』
「よし! 今度火の精霊増やしとこう」
『ご主人ちゃま、現実逃避でちゅ』
ビィティはクリンに言われ、そうだ大事なのは今だと思い出すように頭を振る。
熱を発するものを考える。手を擦って摩擦熱を作ってみたり、息を吹き掛けて体温で溶かしてみたり。
全部、徒労に終わる。
「あと考えられるのは圧縮熱だけか」
道具を探すが圧縮できるような道具はなにもない。ビィティは熱、熱、熱、熱になるものはないかとひたすら考えるが、無いものはないのだ。
諦めかけたときベルリがビィティの目の前を通る。呑気に鼻唄混じりである。
「これだ!」
『ひゃ!なんだよあるじぃ』
「逆転の発送だよ」
『へ?』
ビィティはベルリを使って水を撒く。ミスト状にした水は空気中の魔結晶を捕まえ固まる。固まった魔結晶は地面に落ちるが落ちる前にクリンに固めてもらい氷の煉瓦を作る。
これで氷に閉じ込められた魔結晶は動くこともできず制止する。まさに
『オレ達が役に立つのか!?』
「二人が居たお陰でなんとかなりそうだよ」
『そうか、へへへ』
『でちゅ』
数時間後、ベルリとクリンが頑張りすぎて巨大な氷の城が出来上がったのは言うまでもない。
吹雪も、もはやそよ風、粉雪が舞うだけである。
「見えた。あのどでかい魔結晶が小さな魔結晶を操っているんだ、ベルリ!」
『あいよ』
ベルリの口から鉄砲魚のごとく水が噴射されると魔結晶が水で固められる。
固められた大元の魔結晶は逃げることも戦うこともできない。
「さて、さんざんやりたい放題やってくれたな氷の結晶さんよ! ベルリ、クリンやっておしまい!」
『『サー、イエッサー!』でちゅ』
二体の精霊は沸かしておいた鍋を持ち上げると一気に魔結晶の頭から熱湯を流し込んだ。
あり得ないほどの湯気が立ち上ぼりスターダストとなってキラキラ光る。
パキッ、パキッと音をたてて魔結晶は粉々に砕け水と交わり地面に氷になって消え去り、魔結晶があった場所には一つのアイテムが転がっていた。
「おお、戦利品だ!」
ビィティはそれを拾いあげてすぐに気がついたアーティファクト精霊だと。
「アーティファクト精霊:氷。って壊れてやがる……」
結局、あの吹雪はアーティファクト精霊の暴走が原因で起こっていたと言う結論にビィティは至った。
ただ惜しむらくはせっかくのアーティファクト精霊を手に入れたのに使うことができないということだろう。
ビィティはなんども壊れたアーティファクト精霊を見てはため息をつく。
『あるじぃには俺たちが居るんだから良いじゃんか』
『でちゅ』
「そうだけどさ、手駒は多い方がいいじゃない?」
『じゃあまた仲間作れば良いじゃんよ』
『これ以上うるさいのはいらないでちゅ』
『あ? うるさいって誰のことだよ!』
『つーんでちゅ』
二人の喧嘩を尻目に、ビィティはアーティファクト精霊を細かく観察する。
割れているのは中央のクリスタルだけで外郭には傷一つ無い。
つまりクリスタルさえ修理、交換できれば直せるんじゃないかとビィティは思う。
『なあ、あるじぃ買い物いかなくて良いのか?』
「あ! そうだ、こうしちゃいられなかった」
ビィティはクリンを急かせ、次の町に大急ぎで向かった。
だが、ビィティは知らない。自分が氷の聖者に成ったことに。そして、それが原因で王子と揉めるようになることを……。
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