一部二章 悪役令嬢との出会い
第6話 盗賊の襲撃
金貨自動回収装置でベルリとクリンに日替わりでダンジョンに潜らせ、ビィティは残ったもう一体の精霊と食料を集めて数日、金貨は予想を大幅に超えて2万4500枚を手に入れ、旅の準備を終えた。
ビィティはダンジョンの岩を草木で覆い隠すと、一路王都へと向かった。
隠す理由は仮に戦える人間がこのダンジョンに入った場合確実に貨幣価値が変動するからだ、金の価値が地に落ちでもしたらこのダンジョンに旨味がなくなってしまうのでそれを防ぐためだ。
アイテムバッグを肩にかけ、ベルリとクリンを呼びビィティたち一行は街道へと出る。
念のため村を迂回するように遠回りして森を抜け街道に出た。クローディア村の知り合いをやり過ごすためだ。
今のビィティなら村人を皆殺しにできる力がある。もしあの醜悪な村長に会えば殺してしまいかねない。家を取り返すのならあくまでも法的手段で取り返すのだとビィティは心に誓う。
精霊とはいえ言葉が通じる仲間がいると長旅も辛くないなとビィティは二体の精霊と和気あいあいと街道を上っていった。
精霊達は二体ともレベル25になっており能力を使うのがだいぶ上手くなっていた。
クリンに至ってはビィティを宙に浮かせたり風の刃で岩を切ったりもできる。
ベルリは範囲は限定されるが水の操作を完璧におこなえ空気中の水分も操作できる。
ビィティは精霊達のレベルが見えるのに自分のステータスを確認できないことに不満を持っていた。
現在のビィティの能力はステータスアップ薬を5回服用したので、ステータスのすべてが5上がっている。
だが元が村人なのでたかが知れているが確認できないので強いのか弱いのかすら分からない。
地下3階攻略も目指そうとしたが、やはり自分の強さが見えないと言うのは怖いのでビィティは泣く泣く諦めたのだった。
それとビィティはこの二体の精霊について納得できないことがあった。乙女ゲーム『メアリーワールド』には精霊などというものは存在しないのだ。
つまり精霊はこの世界オリジナルなのだ。だが、どうにもこの精霊というやつはシステムマチックすぎると彼は感じていた。
まるでゲームシステムの一部なのだと。
『メアリーワールド』がゲームなのだから当然と言われればそれまでだが、まるでゲームのように体系がしっかり確立されているのだ。
まるで『メアリーワールド』の世界に別のゲームが混在しているような、そんな違和感を感じていた。
だが、分からないことは考えても仕方ない主義のビィティは王都までの道のりを楽しむことにした。
街道を二体の精霊と喋りながらときには狩をしたり、喉が乾いたらベルリに水を作ってもらい、小腹が減ったらクリンが果物やナッツを取ってきてくれる。
食生活的に考えても村やダンジョンにいるより旅をしてた方がはるかに良かった。
集めた食料はほぼ使用していない。あの村の周囲が極端に食料不足なだけで、この世界は生き物に優しいのだなとビィティは少し酸っぱいりんごをかじった。
彼はこのままずっと旅をするのも悪くないかもと思い始めていた。
『ご主人ちゃま、後ろから馬車がくるです』
風の力で索敵できるクリンが誰よりも先に馬車に気がつく。
後方を振り替えると馬車は止まり、先頭の護衛の騎士が馬でこちらに向かってくる。
「ベルリ、クリン警戒、攻撃してきたら吹き飛ばせ」
『おう!』
『あいでちゅ!』
騎士はビィティの前にくるとヘルムのマスクを上げてひげ面を現し、彼を上から下まで舐めるように見る。
「坊主、こんなところで何をしている。テッドスコルピオン団の者ではあるまいな」
「レッドスコーピオン?」
「テッドスコルピオンだ。はぁ~団員は名前に誇りを持っているから間違えたり、誤魔化すために間違えた名前は言わない。なら坊主は白だな」
ひげ面の騎士の男が手をクルクルと回すと馬車が再び動き出しビィティたちの方に進んでくる。
「坊主、けっこう良い革鎧着込んでいるようだが、どこかのぼっちゃまか?」
「いいえ、ただの平民です」
「平民が着るような革鎧じゃないだろ。まあいい、だがこの街道はテッドスコルピオン団が支配している悪いことは言わない引き返すんだ」
騎士の男がビィティの身を案じるが彼は首を横に振り。王都に行きたいので伝えると、騎士はここから徒歩で行くのかと大笑いする。
その声で馬車がビィティの横に止まり窓が開く。
「どうしたのですか?」
「姫様いけませぬ。窓をお閉めください」
馬車から顔を出したのは金髪碧眼でカールが綺麗に決まっている少女だった。
「デオゼラ軍団長が笑うなど珍しいもので」
「申し訳ございませぬ。この坊主がなかなか豪気でしてなここから王都まで歩いて行くと言うのですよ」
「まあ、王都まで200Km以上ありますよ?」
ゲームの縮尺と全然違う距離にビィティは驚愕する。あまりにもゲームと縮尺が違いすぎるのだ。
もしかしてヒロインは化け物で200km以上の距離を一瞬で飛べるんじゃないかと疑いたくなるレベルだったのだ。
良いところ30km位だと高を括っていたビィティは6倍以上の距離に見通しの甘さを痛感したのだった。
だがここで引いては格好悪いと思ったビィティは楽勝ですよとにこやかに答える。
「ハハハ、顔は不細工だがなかなかの奴、将来騎士になりたかったら俺のところに来い立派な騎士にしてやるぞ」
「デオゼラ様、平民などを騎士にしたら国の名折れです。しかもそんな不細工な者を」
馬車から顔を出したイケメン少年がデオゼラの発言に否を唱える。
「馬鹿もん、そんなことばかり言ってるからうちの騎士団は世界最弱と馬鹿にされるのだ!」
イケメンはデオゼラに叱責されすごすごと頭を引っ込める。
「デオゼラ、害はないのでしたら乗せてあげてはいかかがでしょう?」
「姫様、立場をおわきまえください、姫様の馬車に平民を乗せたと知られれば私が打ち首にされます」
金髪ロールの隣の少女がビィティを見てごめんねのポーズをする。デオゼラとは違い軽装備だが騎士と同じ服なので、身分が高いのは見てとれた。
だが平民に謝るあたり結構砕けた性格のようだった。
「私なら構いませんわよ?」
姫は扇子を口許に当て汚い物を見るような目でそう言う。ビィティには分かった、とりあえずこの娘はいい格好をしているだけなのだと。
「姫、身分を考えください」
イケメンの少年がたしなめるが姫は聞く耳を持たない。
騎士団長が困っているのを見て、自分が乗るのは都合が悪いのだろうと察したビィティは時間の無駄なのでさっさと街道を進んだ。
「お待ちなさい!」
姫と呼ばれる少女が怒りをあらわにしてビィティを止める。
「なにか?」
「乗せてあげるといっているのですよ」
あからさまな上から目線な態度にビィティはヤレヤレとため息をつく。
「いいえ私は歩いて行くので結構です」
「へ、平民風情が!」
姫と呼ばれる少女がビィティに扇子を投げつける。扇子ははビィティの顔に当たり地面にポトリと落ちる。
ビィティを睨むその顔はとても少女の物とは思えないほどの憎悪がにじみ出ていた。
それを察した軍団長が間に入り頭を下げて謝る。
「姫様、子供のやることです、寛大な心でお許しいただきたい」
そう言うと何度も何度も頭を下げて姫に許しを乞う。
「デオゼラがそこまで言うなら良いでしょう。ですが、その平民を乗せるのは無しです、さっさとお出しなさい!」
その姫の号令で馬車はデオゼラを置いて走り出す。
姫と呼ばれる少女はビィティを睨んだままで、横の少女が手を前に出してごめんねのポーズをしてビィティに謝る。
馬車が先を行くとデオゼラがビィティに一枚の金貨を投げてよこした。
「もし盗賊に襲われたら、この金貨で命乞いをするんだ。お前はまだ子供だ、許してもらえるだろう。先程嫌われる真似をさせて悪かったな」
そう言い残すと馬を走らせ馬車に追い付く。デオゼラには気がつかれてたのかと、もらった金貨を親指でピンと跳ねさせるとキャッチし損ねてコロコロと金貨は転がる。
金貨が転がった先には黒い扇子が落ちていた。それは先程姫が投げた扇子だった。
黒い扇子を拾い広げるとレースで作られた扇にバラの刺繍がされており、なかなかに高級そうな作りだった。
その扇子でパタパタと扇ぐと良い香りがただよいビィティの鼻をくすぐる。
捨てるのももったいないのでビィティはそれをバッグにしまいこんだ。
『ご主人ちゃま、あいつやっちゃいまちゅ?』
『マジでやっちゃうところだったぜ』
「いやいや、ダメだから。一応高貴な人らしいから我慢してね」
自分のことを侮辱されて腹をたててくれる二体の精霊にビィティは嬉しくも思うが。挑発したのは自分だからと思うと悪い気さえした。
「しかしこの金貨はバルムント金貨とは違うんだな」
もらった金貨は粗悪な作りで、なんとか金貨の形を保っているようなものだった。
そのまま馬車は見えなくなりビィティたちはまた楽しく旅を楽しんでいると前方から爆発音が聞こえてきた。
続いて怒声と剣がぶつかり合う音がかすかに聞こえてきた。
「なんだ?」
『見てくるでちゅ』
クリンが一目散に音の方へ向かうと上空を数度旋回して戻ってくる。
「何があった?」
『盗賊に襲われてるでちゅ』
クリンの報告では先ほどの馬車が盗賊に襲われていて、乗っていた騎士達がかなり劣勢ですでに何人も死んでいると言う。
『あるじぃどうすんだ?』
「どうするもなにもスルーだ……」
ビィティはデオゼラからもらった金貨を見てそう言えば借りがあったなと金貨を親指で弾く。金貨を手の甲で受け止め表が出たなら助けに行く、裏なら助けないと決める。
手を離し現れた金貨は……。
「これ、どっちが表だ?」
『あるじぃさぁ……』
『ご主人ちゃま……』
だって、この世界の常識知らないんだからしょうがないじゃんとビィティは二体にの可哀想な人を見るような目に抗議する。
「まあいい、助けるぞ。クリン風を出せ」
『あいでちゅ!』
背中に風を受け、前方の空気の抵抗をなくすとビィティの身体は超高速で走り出す。
馬車が見える距離に来ると、馬車の中の少女たちが外に逃げようとしたのか野盗達に囲まれ剣を向けられている。
「ベルリ、水を高速の弾にして打ち出せ」
『おう!』
”ドシュ ドシュ ドシュ”
発射されたバスケットボールサイズの水弾が野盗に当たると転がるように吹き飛ばされる。
この技使うと周囲が乾燥して肌に良くないんだよなとビィティは笑う。
「クリン、風の刃で敵の武器を切り裂け」
『あいでちゅ!』
起き上がろうとする野盗の武器をクリンの風の刃が切り裂き無力化する。
試し撃ちで岩を切り裂いたからイケるかもと思ったがやはりすごいなものだなとビィティはクリンの風の刃に感心する。
「大丈夫か!?」
「先程の少年! 助かったわ」
騎士風の少女がビィティに礼を言うと武器を持ち直し姫といわれる少女を守るように剣を構える。
イケメンの少年は何もせずに縮こまり震えている。
デオゼラも他の護衛の兵士が殺され一対五の劣勢を強いられていた。
精霊では間に合わないと判断したビィティは自分の短剣を抜くと野盗に向かい投げる。
ビィティはクリンに武器を投げたら風で加速させろと事前に伝えており見事なコンビネーションを見せ、風により加速された短剣は野盗の肩に刺さり野盗は悲鳴をあげて倒れる。
ビィティの攻撃で野盗の意識が彼に向き隙ができた。
その一瞬をデオゼラは見逃さず二人の首を切り落とす。
殺させるために隙を作ったんじゃないんだがとビィティは殺された野盗を見て謝る。
「ベルリ、水の柱だ!」
『おう!』
三人の野盗に水の柱が飛び出し動きを封じる。デオゼラは剣を突き刺し三人を惨殺する。
動きを封じるために放った技でことごとく野盗は殺されてしまう。
この世界の騎士には慈悲はないのかと死体を見てビィティは嫌な気分になる。
だが、殺られる前に殺さなきゃ生き残れないのがこの世界で自分が甘いのだろうと考え気持ちを切り替えた。
デオゼラに殺された野盗たちを見て、他の野盗たちは怯えて逃げ出した。それにビィティの放つ普通の魔法ではない攻撃に、恐れを抱き闘争心を失ったのだ。
「坊主あいつらも逃がすな!」
「いや、もうこの距離では無理ですね」
実際はまだ全然余裕だったのだが人を殺すのを見たビィティはこれ以上殺しの手伝いをしたくなくて嘘を言ったのだ。
ビィティは逃げる盗賊の背を見ながら、できるなら今後は悪事はしないでくれと願うのだった。
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