第5話 強制完全菜食主義者
ダンジョンから抜け出たビィティは大きく背伸びをする。思ったよりも金貨が獲得できて心に余裕ができたためか笑顔すら見える
「よし、罠に入ってる魚たべるか!」
ビィティは朝食をとるために罠にかかっているであろう魚をとろうと川の方へ向かう。するとベルリが声を荒げて止めに入った。
『ふぁ! あるじぃ何言ってんの!? オレ魚なんだから、
その言葉にビィティは短剣を抜くとベルリにじり寄る。
それならまずはお前から食ってやろうかと言うような表情で。
だが、この件だけは譲れないベルリは脂汗を流しながらビィティと対峙する。
その気迫にビィティは短剣を捨て、その場に座り込むと小石をベルリに投げて文句をいう。
ベルリは小石をヒョイっと避けるとビィティの周りをクルクルと周る。
「じゃあ、俺は何食えば良いんだよ。
『鳥食えるだろ? オレが捕まえてくるよ!』
そう言うとベルリは一気に空に駆け上がり見えなくなった。もうお前が鳥じゃんかとビィティは苦笑する。
ベルリがいない間に魚焼いちゃおうと悪巧みをするが、さすがにそれは酷いかと思い直し罠の中の魚を逃がしてあげた。
ただズタ袋の中には魚以外にも海老が大量に入っており竹の桶に移してベルリが帰ってくるのを待った。
種火に薪を足して火を起こして待っているとベルリが自分の回りに水球を浮かばせて帰ってきた。
水球の中には茶色の鳥が入っていて翼を広げ溺死していた。そしてベルリはそれをドヤ顔でビィティに見せる。
「……ビジュアル的に食べたくないんだが?」
『魚はよくて鳥はダメなのかよ』
怒り気味なベルリは水球をビィティに渡して食べろと催促する。
魚の調理はできても鳥の調理となると、さすがに二の足を踏むのかビィティは渡された鳥を見てどうしようか思案していた。
手の上で水球を動かしていると死んでると思われた鳥が水球の中で動いたのをビィティは見逃さず手を入れて救い出した。
”ぴぃ……”
弱々しい声で鳴く鳥にビィティは一気に食欲がなくなり身体を拭いてやると焚き火の側で暖めて介抱をしてあげた。
『あるじぃ丸焼きにするのか?』
「するかバカ! 可愛そうで食えるかよ」
『魚は食うのに鳥は食えないとか差別だ! 断固、鳥を食べることを要求する!』
ベルリはどこからか出したハチマキと横断幕を掲げビィティの前で抗議行動をする。
「うるせぇ、お前を丸焼きにするぞ!」
『そんなー!』
丸焼きにすると言われたベルリは恐怖のあまり焚き火に向かい口から水を放った。
「なっ! おまえ何すんだ!」
『だって丸焼きだって……』
「冗談に決まってんだろ……」
『本当に? 本当に丸焼きにしないよな?』
「しないよ」
『絶対だよな?』
「あー、面倒くせぇな! おまえちょっとこっち来い」
ビィティは鳥を片手に持ち、竹槍の箱を掴むとダンジョンへと向かう。ダンジョンに入ると入り口に箱を置きその中に瀕死の鳥を置いた。
「おまえが責任もって、この鳥のレベルをあげろ」
この鳥を救うにはもう精霊化しかないとビィティは考える。精霊化すれば生物を越えた存在になり生き長らえるだろうと言う予想からだ。
『え~、やだよそんなの』
「この鳥が死んだらおまえ丸焼きな」
『サー、イエッサー! 速攻でレベルあげさせていただきます!』
ベルリはヒレで敬礼をすると鳥の上でクルクル旋回を開始する。
魔物が四方八方から現れては竹槍に突き刺さり消滅していく。
怖いくらいの魔物が現れては消え、現れては消えをする。この討伐速度ならすぐにレベル10になって精霊化するだろうとビィティは安堵した。
特に側にいる必要もないのだが見てないとベルリは手を抜きそうな気がしたので、鳥の状態を見つつ監視をする。
1時間以上経過したが未だに鳥は精霊化しない。しかし、これはある意味
一生懸命旋回するベルリを眺めて、さっきのことを謝るかとため息をつく。その瞬間鳥の入ったカゴが淡く光り出した。
「おい、ベルリ一度止まれ」
『サー! イエッサー!』
「大丈夫か?」
ビィティはむくりと立ち上がる鳥の
『ご主人ちゃま、助けてくれてありがとうなのでちゅ』
レベル10を越えて元気になった鳥はチュンチュンと頭を下げビィティにお礼をする。
当然そのしぐさがかわいいと思ったビィティの心は鷲掴みである。
「よし契約しよう!」
『は!?』
『いいんでちゅ?』
ビィティの言葉にベルリは驚き、鳥は喜ぶ。
「こちらからお願いしたいぐらいだよ」
『ちょ、鳥なんか仲間にすんなよ! こいつら魚食うんだぜ?』
「いや、俺も食うけど?」
お互いに首をかしげて、なに言ってるんだコイツ状態である。
契約をすると鳥の体毛は緑になり所々虹色に輝き出す。どうやら精霊化した動物は虹色を差すのがデフォのようだ。
「綺麗だな」
ビィティは鳥を肩に乗せ頭を撫でる鳥は額を彼の指に擦り付けるように喜んだ。
『ちょ! あるじ、オレとあんまり変わんないだろ!』
「ん? 変わるだろ?」
『くそっ、おい鳥! おまえは二番だからな』
『……』
鳥はベルリの言葉を完全に無視をする。そればかりかそっぽすら向くのである。
ベルリは魚脳なので忘れているが、鳥を殺しかけたのはベルリなので当然の行動なのだが。
ビィティは食べてなかった食事をとるため、元気になった鳥を連れてダンジョンの外へと出た。
「そう言えば名前はどうする?」
肩に乗り頬に頭をスリスリとしている鳥に微笑みかけながら聞く。対応が違いすぎるとベルリは不貞腐れる。
『ご主人ちゃまに決めて欲しいでちゅ』
ベルリは名前があったのに鳥には無いのかとビィティは不思議そうにベルリを見る。
表情筋がないベルリの感情はわからないが完全にふてくされている。
やれやれと彼はため息をついて鳥と向き合い名前をつけてあげた。
「目がくりんとしてるからクリンでどうだ?」
『あい、うれしいでちゅ』
これでビィティは魚と鳥が食えなくなったとがっかりする。この世界では鳥と魚は主要なタンパク源であり、命の源なのだ。
「オレだって目がクリンとしてるだろ!」
「昆虫でも食うか……」ベルリを無視するようにポツリと呟く。これは昆虫=虫と無視をかけた高度なギャグなのだがベルリは気がつかない。
だが突然クリンが『任せて欲しいでちゅ』と言うと大空高く飛んで行ってしまった。そして帰ってきたクリンの口には大型の昆虫が咥えられていた。
『ご主人ちゃま、どうぞでちゅ』
『くっくっくっ』
ベルリが腹をヒレで抱え笑っている。当然あとで折檻だなとビィティは現実逃避をするが。”早く食べて早く食べて”と言う目をしているクリンには逆らえずビィティは巨大昆虫を涙目でバリバリと食べたのである。
ビィティはクリンの前で冗談はやめようと思った13歳の夏である。
それでベルリの鬱憤は晴れたのか機嫌が一気に直り鼻歌を歌い出す。
「さて口直しするか」
そう言うとビィティはベルリを鷲掴みにして竹串を口から入れようとする。
『ごめんなさい、ごめんなさい! 笑ってすみませんでした! サー! イエッサー!』
ベルリは必死で敬礼を何度もして許しを乞う。すでに竹串は口内に入っており、銃口を口のなかに押し付けられたマフィアのようにブルブルと震え泣く。
「次は無いかんな!」
『サー! イエッサー!』
『どうしたでちゅ?』
『馬鹿おまえのせいだぞ、人間は昆虫を食わないんだよ!』
*個人の感想です。
『そうだったんでちゅか……ご主人ちゃまごめんなさいでちゅ』
「ああ、良いんだよクリンは悪くない。悪いのは全部ベルリだから」
『あるじぃぃぃぃぃ!』
「まあ、冗談だよ。ベルリはからかうと面白いからついついからかっちゃうんだ二人とも大事な仲間だよ」
『あるじぃぃいぃぃ!』
泣きながらビィティに飛び込むベルリにとがった口先を顎にぶつけられ彼は仰け反る。
「お~ま~え~な~!」
『ひぃぃいぃ』
結局、朝食に取っておいた海老を焼いて食べ、今後のことも考えてビィティは二体に自分の思う食材を取ってくるように命じた。
二体に色々な食材を持ってきたが、ほとんどが人間が食べるようなものじゃなくビィティが直接指示したものだけをとるように方針を変えた。
魚を殺して海老をとる餌にして良いかとベルリに聞いたら人間を殺して魔物の餌にするのと同じだぜと言われたビィティはなるほどなと納得して魚を餌にするのをやめた。
結局ビィティの食事はキノコや野草がメインでヴィーガン一直線なのは笑うしかないのだが。
「タンパク源どうするか……」
『魚も鳥もダメなら牛肉を食べればいいじゃない!』
ベルリの言葉につられて『ウサギとかネズミも取れまちゅよ』と言うクリンの言葉にこれ以上精霊を増やすなと若干ゲンナリするビィティであった。
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