第2話 村の奴隷
ダンジョンを出たビィティは薪を拾いながら村に帰った。薪拾いは村長に課せられた彼の仕事だからだ。
「おう、お帰りビィティ」
村に到着すると人の良さそうな男がビィティに気がつき作業をやめ腰をあげる。
「ただいま、スミスさん。今日の分の薪です」
ビィティは背中に背負った山盛りの薪をスミスに指定された場所に置く。
「おう、ありがとうよ。ほら駄賃だ」
そう言うとスミスは銅貨1枚を渡した。銅貨一枚の貨幣価値は村で売ってるビィティ用の安いパンが一個買える程度だ。ビィティには過ぎたお金を持たせない。と言うのが村の方針で村長の取り決めだが、皆安い労働力が手に入ったので誰も文句を言うものはいない。
この村でビィティに味方する人間はいないのだ。
もちろん育ち盛りの子供がパン一つで生きていけるわけがない。普段は山菜や野草をとってきて飢えをしのいでいる。
今日はその時間がなかったので空腹確定かとビィティは腹をさする。
ビィティはお礼を言うとスミスは満足そうに頷く。
たった銅貨一枚でビィティを養ってるつもりなのだ。
ビィティは村長の家の納屋へと戻る。ここが彼の唯一落ち着ける家なのだ。
もともとビィティは前村長の息子で、この家の母屋に住んでいた。
だが両親の死後、土地や家、財産はすべて没収されすべてを今の村長に奪われた。当時10歳だったビィティには大人の言うことに逆らえるはずもなく彼は納屋へと押しやられた。
13歳の彼は普通の人よりも未発達で背が低い。手はゴツゴツしておりとても13歳の手や体格ではなかった。
それだけ見てもビィティがどれだけ苦労したかがうかがえる。
本来受け継ぐはずだった土地や家をこの村の住人は奪ったのである。そして国に訴えられないようにビィティには教育もせず生きていくのに精一杯な環境を与えたのだ。
だが
彼は
父親の頼もしさを覚えている。母親の温もりを覚えている。家族の安らぎを覚えている。
だからその思い出の場所を取り返したいと切に願う。
だがそのためには知識が必要だ。
現地人の利点がないなとビィティは苦笑いをする。
どこの世界でも当然だろうが知識を得るのにはお金が必要だ。
本が活版印刷だったらそれほどお金はかからないが写本だったら本一冊金貨1枚以上とかは当たり前になってくる。
つまり知識を得るにはお金が必要なのだ。
だから、ビィティはダンジョンで金貨100枚稼ぎそれから王都を目指すことに決めたのだ。
王都に決めたのは知識は中央に集中するからだ。だが、それ以前にゲームの世界では、この村以外に明確な村は五つしか存在しない。
他にどんな町や村があるかもビィティにはわからないのだ。
それに王都には学園がある。ヒロインが通う学園である。
なんとか学園にはいれれば相当高い知識が得られるはずだとビィティは考える。
だが王族が学ぶ学園だ平民が入れる確証はないがとりあえず王都に行かなければ始まらないのだ。
しかし王都への道も分からない。ゲームの縮尺と実際の距離とでは大幅に違いがある。
なにせ、王都からこの村はマス一個で移動できる、そのため王都の正確な方向すらわからないのだ。
「情報収集するか」
ビィティは稼いだ金貨を藁の下に隠すと1枚だけ取り出し母屋に向かった。
”トントン”
「村長様いらっしゃいますか、ビィティです」
入り口の戸を開け睨むようにビィティを見下ろすその男の顔は心の醜さが顔に出ているかのように歪み驚くほど醜悪だ。
「なんだ、母屋にはくるなといったろ!」
この家のルールを守らないビィティに腹をたて村長は不快感をあらわにする。
「すみません。ただお金を拾ったので村長様に渡そうと思いまして」
ビィティは懐から金貨を取り出すと両手で頭より上に持ち上げ村長に差し出す。
村長は金貨を引ったくるように奪うと金貨の裏表を確認して驚く。
「これはバルムント金貨! どこでこれを拾ったんだ」
「はい、薪を拾ってましたら土の中からこれ一枚だけが顔を出していたんです」
「他にはなかったのか、本当にこれ一枚だけか!?」
風呂も入れず薄汚れたビィティを触るのも嫌だと思っている村長が彼の両肩を掴み我を忘れて執拗に聞き出す。
「はい一枚だけでした。村長様にお持ちしないとと思いまして」
「うむ、そうか偉いぞビィティ。また見つけたら持ってこい。そうだ褒美をやろう中に入れ」
村長は家の中にビィティを招き入れ応接室に案内した。
懐かしい家、自分が育った家、3年ぶりに入ったその家は村長の趣味の悪い装飾品で飾られ記憶の家は影も形もなかった。
悔しさでビィティは泣きそうになったが涙をこらえてやるべきことを実行する。
ビィティは壁にかけてある絵を見る。それはこの国の地図であり村長が王都で買ってきたと自慢してた一品だ。
現代の地図と違いなんともお粗末だが。そこには方位や町の名前など知りたい情報がふんだんに書かれていた。
ビィティは文字は読めないが、そこに文字が書いてあると言うのは
ゲーム画面と地図を比べてクローディアの村の位置を把握する。
この村の近辺には他に集落が四つ存在するのを確認した。その他にも王都の場所も覚えた。
村長はまだ来ないので他に情報に繋がるものはないか部屋の中を見回した。
本が何冊もあるのを確認すると椅子から飛び出しペラペラとめくる。
字は読めないがビィティは挿し絵から少しでも情報を得るために目を皿のようにして見たが、やはり文字が読めない弊害は大きくなにも得るものがなかった。
ただすべての本が写本で、この世界には印刷技術がないのが見てとれた。
本を見ていると床板がキィキィ音を鳴らし村長が来るのを教えてくれた。
ビィティは本を元に有った場所にしまうと椅子に座り村長を待つ。
部屋に入ってきた村長は皿にシチューとパンを乗せ戻ってきた。
パンはシチューに放り込まれて、まるで豚の餌のようだった。
「食え」
村長は投げ出すようにビィティの前に皿を投げ出した。
そのシチューには肉が一切れだけ入っており他はなにも入ってなかった。
まともな食事ができないビィティにはとんでもないごちそうだが、
だが、腹が空いているのも事実であり、栄養のためだと思い大袈裟に喜び村長にお礼を言って一気に掻き込んだ。
食事を終えるとビィティはすぐに追い出され、また見つけたら持ってくるんだぞと念を押された。
ビィティはその場でジャンプをさせられ、金貨を隠しも持ってないか調べられた。
「よし、帰って良いぞ」
「今日はありがとうございます。村長様のために頑張らせていただきます」
その言葉に気を良くした村長はビィティに小遣いとして銅貨一枚を投げて寄越した。
銅貨をもらったビィティは深々とお礼をして納屋へと戻った。
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