第3話 金貨自動回収装置

 納屋に戻ったビィティは干し草のベッドにダイブして天井を仰ぎ見る。

 そして決意するこの村を出ることを。


 この村にいても良いように使われ1日銅貨一二枚もらえる程度だ、それなら拠点を移してダンジョンで稼いだ方が効率いいとビイティは考えた。


 「問題は戸籍の有無だな」


 この世界が戸籍がしっかりしていて、その村から出ることを許さないような法律があればそれだけで王都に住めなくなるビイティはそれを危惧する。

 最悪犯罪者になりかねないと。


 それと新たに出たもう一つ問題にも彼は頭を悩ませる。

 ダンジョンの金貨を手に入れても使えない可能性があるのだ。

 金貨がどれほどの価値かはわからないが、あの村長の驚き様ではあれは通常の金貨ではない、通常の金貨よりも価値のある金貨の可能性がある。

 そんなものを小さい町で見ず知らずの見た目10歳くらいの子供が使ったら騒ぎになるからだ。

 そもそも知らない子供がいるだけでその町や村の住人は不審がるのでまともに買い物などできない。

 それほど町や村というのは閉鎖的なのは知識のないビイティも経験からわかっていた。


 だがら金を使うためには信用できる大人の協力が必要不可欠なのだ。


 そこでビィティはダンジョンで稼ぐ金額を上方修正して1000Gにした。騙されてお金を巻き上げられることも考慮してのことだ。


 ビィティは起き上がり地面に村長の部屋で覚えた地図を書く。王城の位置を頭に叩きこむために。

 地図の縮尺を考えると王城へはどう考えても一日や二日で行けるような距離ではない。食料もなく水も無しでは確実にのたれ死ぬ。だがいかなければ未来は開かれない。

 そこでビィティは1週間分の食料と王都についてから使う金を十日で貯めることにした。


 まずはダンジョンで旅に必要なアイテムとお金を金貨1000枚手にいれ。

 川でとった魚を薫製にして保存食1週間分を確保する。

 水は水筒がないので竹筒を水筒にする日本式の物を採用することにした。

 ビィティは地図を暗記し終わると足で地面の地図を消し、明日早くから行動に移すために早めに就寝した。


 翌朝、ビィティはズタ袋に毛布とわら それに火打ち石を詰めこむとまだ夜が明ける前にダンジョンへと向かった。

 滝に到着すると前日稼いだ金貨は滝の裏にあるへこみに隠し石で蓋をした。

 仮に村の連中が探しに来たときの対策だった。お金だけは絶対に渡せないからだ。


 まずはビィティは竹を採取する。この世界の竹は1年毎に直径が1cm大きくなり最大1mにまで成長する。

 彼は直径20cm程の竹を選び、短く切り分ける。


 その竹をまっぷたつに割ると節を取り除き、割った竹をつたで合わせ元の筒に戻す。

 そこにズタ袋をつけ川の石で固定して水中に沈めた。


 ビィティは魚取り用の罠を作っていたのだ。


 罠が出来上がると、また竹を加工する。

 今度は細い竹を斜めに切り数本の竹槍を作った。それを横に並べつたで縛ると竹槍を何本も取り付けた武器が出来上がり、ビィティはその武器に扇子竹槍せんすたけやりとセンスの無い名前をつけて喜んでいた。


 主役でもないビィティがいくら魔物を倒してもレベルが上がらない、そもそもレベルなどないからだ。

 そんな彼を助けてくれるのが今回作った武器なのだ。


 扇子竹槍を持ってダンジョンに入ると早速魔物が現れ竹槍に貫かれ金貨を落とす。

 だがビィティは喜ばない、本番はこれからだからだ。

 昨日とはうって変わりずんずん前に進んでは魔物を竹槍で殺していく、そして彼は地下につながる階段から下の階へと歩みを進めた。


 地下二階からは魔物の数が増える。危険を冒してまで二階に降りるのは二階以降の魔物はアイテムをドロップするからだ。

 今後の旅に必要なものを手に入れるためには地下二階に行く必要があったのだ。

 二階に降りるとすぐに二匹の魔物が現れたが、魔物たちは扇形に繋がれた扇子竹槍に突かれ絶命した。


「成功だ!」


 ビィティは二階の階段付近で昨日の様に前に進んでは下がるを繰り返し魔物を倒しては金貨を得た。

 魔物討伐数も3桁に迫ろうと言う頃、一体の魔物がアイテムをドロップした。


「やっと出たか。これで荷物を持っていける」

 

 それは一見するとただのバックだがゲーム内ではアイテム所持数を拡張するバッグなのだ。

 荷物を運ぶ手段のないビィティはそのアイテム所持数拡張バッグを普通のバッグとして使おうと言う考えなのだ。


 今までドロップしたアイテムをそのバッグに入れているときにビィティはバッグに重さがないことに気がついた。

 バッグの中を見ると今まで入れたアイテムが一つもない。焦ったビィティはバッグを逆さまにして出てこい出てこいと唱えると今まで入れたアイテムが一瞬で出てきた。


「これアイテムストレージみたいなものなのか?」


 拡張バッグは通常UユーザーIインターフェースにセットして使う、だが村人のビィティにはUユーザーIインターフェースはない。だから拡張アイテムも適用されない。それゆえにアイテム数拡張バッグは収納アイテムへと姿を変えたのだ。


 ビィティが荷物を詰めていると十一個目のアイテムが弾かれた。


「どうやらアイテムは十個しか入らないようだな」


 使用方法はアイテムバッグの中に手を入れて、欲しいものを考えると出てくる。

 ちなみに全部だしたいと思えばすべて排出されるので、忘れたアイテムが取り出せないと言うことはない。


 荷物を詰め終わるとビィティは更に戦い追加の拡張バッグを手に入れた。

 最初のバッグからアイテムを一つ取り出しそこに今手に入れたバッグを入れる。そこにアイテムを入れると更に十個のアイテムを入れられた。

 アイテムバッグにアイテムバッグを入れることで収納力をアップさせたのだ。

 この方法により十個しか入らないアイテムバッグの許容量が無限に所持数を増やすことができるようになったのだ。


 そしてアイテム数拡張バッグを手にいれる副産物として革鎧一式と短剣を手にいれた。

 この革鎧は自動調整機能がついており体に合わせサイズを変えてくれる優れものだった。

 だがビィティは不満そうに自分の装備を見る。


「うーんコートとか欲しいよな。でもこのダンジョンでドロップするのは基本女物だしな……」

 ビィティは自分で言っていておいて自分の言葉に矛盾があることに気がついた。

 元々バッグを手にいれるために魔物を狩っていたので革鎧が出たときは深く考えずに着てしまったビィティだが、乙女ゲーで男性用装備など出るわけがないのだ。


「もしかして倒した性別のアイテムが出るのか?」

 それを調べるには地下三階に行かなければならなかった。三階からはドレスや女性用の小物が出るからだ。

 しかし三階の敵は桁違いに強くなる。一撃で殺せなかった場合逆に反撃され一撃で殺されてしまう、それがレベル無しの村人の現実なのだ。


 この竹槍戦法も、この階が限界なのだ。レベルがないビィティに三階で戦うすべは無い。


「無理をしても仕方ないな引き換えそう」

 ビィティには考えがあった。レベルはないが強くなる方法はあるのだと。


 ダンジョンから出るとビィティは竹細工を作る。竹槍を四方に巡らせた箱だ。それに足を作り高さを調整する。


 ビィティはそれを作り終わると川の仕掛けを見に行った。

 罠には3匹の魚がかかっている。

 ニジマスに似た魚で25cmくらいの大きさだ。


 そのうちの一匹を直径50cm程の竹で作った桶に水を入れ泳がせた。

 先程の竹槍の箱をダンジョンの中に入れ、その中央に魚の入った桶を入れた。

 しばらくすると魔物が現れては竹槍に刺されて消滅し、金貨を落とした。

 そして、また同じように魔物が現れては竹槍に刺されて消えていくのである。

 これで全自動金貨収集装置が完成したのである。


「結構うまくいくもんだな、俺より竹槍の方が強いんじゃないか?」


 ビィティは自嘲ぎみに呟くとダンジョンの外へと戻った。薪を集め、納屋から持ってきたわらに火花を飛ばし火をつける。

 小さな枯れ葉の付いた枝を置いて燃え移らせ薪を置く。

 焚き火の火が落ち着くとビィティは短剣を使い竹でナイフを作った。

 魚を捌くのに刃の厚い短剣は向いていないからだ。

 桶に入れておいた魚を取り出すと、内蔵を処理して竹串を刺し、火から少し離れた地面に刺した。


「強火の遠火、これ基本」


 魚から取った内蔵はズタ袋に入れ罠を再設置した。


 焼けたニジマスのような魚を口にほうばるとなんとも川魚とは思えない味に舌鼓を打つ。これで塩気があれば最高なんだがとビィティは現代日本を懐かしく思う。

 食事を取り腹がふくれたビィティは眠気に襲われた。今日一日頑張ったからなと意識を失う前に毛布にくるまり、焚き火の側で就寝した。

 こんなに満腹で寝るのは両親が死んで以来始めてのことだったのだ。

 ビィティは唯一の所有物である母親に買ってもらったボロボロの毛布に包まれおだやかに眠った。

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