第2章 魔剣を背負う悪女

「だから…きみはアルウィに、」

「理解できない、何が言いたいの?」

「彼女が好きか?」

「……」


 タニルは無表情な目つきを投げてきた。それでグランはもうふざけなくなった。


 グランは死んだばかりの魚を料理し続けた。彼の隣に取っ手のついたバケツがあり、中には同じ魚が二匹泳いでいた。先ほどタニルとアルウィは一匹しか捕まえていなかったが、グランはその後また水に入って、すぐに二匹を捕まえた。


「で、君はどうなんだ、グラン? どう思う?…物心ついたときから、私たち3人はずっと一緒にいたんだから」


 タニルは怒っているように見えたが、少し照れくさそうに男のエルフを聞き返した。


「俺は…特別な考えがないだ。 でも……伯父さんや伯母さんは本当にいい人な、いつまでも俺らの面倒を見てくれて。」


 そう言いながら、グランは魚の骨を丁寧にを抜き取った。さっきまで怒っていたタニルも、突然沈黙に陥った。


「そうだな……」




 川沿いの林が村の方に伸び、林の中のアルウィはいまのんびりと散歩していた。


 川から上がったばかりで、服やスカートが乾いていないのに、彼女の顔は笑顔でいっぱいになっていた。背伸びをしたり、腰をかがめたりして、適当な木の枝を探して、ピクニックの薪にしていた。


「あっ、キノコだ!」


 アルウィは驚きの発見をした。足前にある木の下に、何本かの無名の菌類が生えていた。そこで彼女はうれしそうに身をかがめ、籠を地面に置いた。


「キノコ……毒があるのかな?」


 真剣に菌類を観察し、彼女は眉をひそめて考えた。


「…もういいや、きっと大丈夫だ!」


 うかつな少女、アルウィは、すぐに気にしないことにした。




 一人の女性が籠を提げて、川の岸に向かって歩いてきた。鉄鍋のそばにうずくまっていたタニルはすぐに気づいたが、よく見るとアルウィではなかった。


 その女性はグランと年が似ているように見えて、すぐに川に来た。


 人間はエルフより短い寿命ですが、誕生から成熟までのスピードは同じだ。ただその後、人間は老衰に入り始め、エルフは青春に常駐する。


「グランさん…これ、新鮮な野菜や果物です。」


 女性は恥ずかしそうにカゴをエルフに渡した。


「ああ、ありがとうございます。」


 グランはかごを置くと、背を向けて小さなバケツを持ち上げ、女性にも渡したが、バケツの中には川魚が泳いでいた。


「これは持って帰って、すくったばかりです。」


 バケツを持った女は、顔を真っ赤にして、二人に見送られて立ち去った。




 謎の女が丘の角でためらっている間に、帝国の追っ手たちに囲まれていた。


 追っ手たちは全員馬に乗っていたが、体に備わっているのは高級とも言えるのは先頭の騎士だけで、騎士の馬にも独特の色がある。


 騎士は謎の女を見つめ、全身の濃い色の魔女服のほか、女は変な大剣を背負って、剣身は汚れた古い包帯にしっかりと包まれていた。


 女といっても、顔は少女のつきで、胸が大きくて体もセクシーで、筋肉もやや丈夫だった。しかし、陰険な顔をしていると、魔女が世渡りが深いと感じさせた。


「ああ、しつこいですね。 一気にすべてを解決するのか?」


 包囲された女は何の臆もなく、そう言いながら、両手でそれぞれ紫の魔能を呼び出し、遊び心でその男たちを見まわしていた。




「うらやましいね。 村で唯一のエルフ……顔もかっこいいし、女性にモテる……私に似ていない」


 タニルは不機嫌そうに口をとがらし、手に持った肉の塊を細長い木の枝に刺した。


「そうなの? 君が恥ずかしすぎると思ったんだよ」


 グランは直立して腰を伸ばし、タニルの嫉妬に応えた後、また躊躇した、


「でも、このままでいい。」

「本当に?」


 タニルは頭を上げ、期待して相手に確認した。グランは笑わずにはいられなかった。


「本当だ。」


 たぶんそれはグランのさりげない言葉だったかもしれないが、タニルは喜んでいた。




「おかしいわね……」


 謎の女は両手に持っていた紫の魔弾を順次発射する準備をしていたが、背中の大剣の異常に気づいた。


 包帯を巻いた大剣は、濃い紫の、ガスのような微光をきらめかせていた。


 馬に乗った兵士たちは警戒しており、騎士は謎の女をじっと見つめていたが、相手は気にせず、わずかに眉をひそめていた。


「この魔剣……こんな感じは初めてです。 この近くに何かありますか?」


 しばらく考えていると、謎の女は陰険な笑顔を見せて、決定が下されたように見えた。


「すみませんね、皆さん。 あなた達はとても親切ですが、一緒に遊んであげられません。」


 言葉が終わると、彼女は軽やかに飛び上がり、全員の前で、後ろの丘斜面の上に跳び上がった。


「逃げるな!」

「くそっっ!!」


 斜面の下の兵士たちは叫んだが、さらに謎の女を追撃することはできなかった。


 帝国騎士は何も言わず、さらに事実を確認し、心の中が浮き浮きしている。




 薪が足りないにもかかわらず、鍋のスープがだんだん沸いてきて、魚肉の香りが漂ってきた。


「あのな、グラン……」


 タニルは乾きかけた服を震わせながら、鍋の反対側のグランに丁寧に聞いた。


「どうしたの?」


 グランはスープの上の泡をじっと見ていて、ぼんやりとぼんやりしていた。


 服を震わせ続け、しばらくしてタニルはようやく動きを止めた。


「ずっと前からお尋ねたかったんだ。 君のお父さんが私達をここに送ってくれて、彼は自分も住んでいた……その後なぜまた離れたか?」


 タニルはグランを見ておらず、グランも鍋のことばかり注目していた。


「私の父よ…知らない、彼についてもよく分からないだ。」

「そうか……」




 次から次へと、アルウィは木の下のキノコを摘み取ってかごに入れた。


 ついに大成功を収めた。


「あ、薪がまだ!…」


 彼女は急に、もっと重要な事を思い出した。




 魔剣の導きに従い、謎の女は集落を抜け、農家の屋根を踏んでいる。


 時に止まったり,時に飛躍したりした。




「なぜアルウィは、まだ戻ってこないの…」


 タニルは心配せずにはいられなかって、何しろアルウィは長い間去っていた。


「焦らないで必ず帰ってくるから。 アルウィ、彼女はまた粗忽て事を忘れてしまった。」


 グランは適当な理由を探して、タニルを慰めようとした。


「そう?…そうあればよかったのに」

「おい! お前らー!!」


 馬に乗った屈強な男が、ふと川のほとりに現れ、後ろには同じように馬に乗っている兵士たちが率いられていた。


 布衣と革の鎧を着た兵士とは異なり、屈強な男はほとんど完全武装しており、ヘルメットだけは蒸し暑くなるため、馬身の側面に縛られていた。


 屈強な男の表情は少しいせっかちに見えた。




「あなたは、誰ですか?…」


 アルウィは手のかごをしっかりつかんで、身じろぎもせず立っていた。坂道に立って、行く手を遮っている変なお姉さんを、彼女は警戒していた。


 お姉さんといっても、顔も精巧で可愛い。ただ、そのお姉さんの体は力があるように見え、背中には巨大な、剣のようなものを背負っていた。


「こっちこそ聞きたいんですけれどもね、可愛い妹さんわ」


 変なお姉さんは好奇の目つきで、心も顔もやや未熟な少女を眺めていた。


「私の大切なものは、あなたに反応しました……その理由を、知っていますか?」


 アルウィは答えず、ただ不安だった。




 屈強な男が馬に乗っていて、傲慢にうろうろしている。馬の後ろ足で食材を踏み、前足は湯鍋を半分に蹴った。


 一周回った後、屈強な男は腰の長い剣を抜くと、他の兵士たちも続々と集まってきた。彼はタニルとグランを剣で指さすと、怖くなった二人は黙っていた。


「さっきここを通った女がいた! お前らガキども、あの女がどこへ行ったか知っているのか!?」

「わかりません……」


 屈強な男の荒々しい口調に、タニルは戸惑った。


「お前…」


 馬から身を屈めて、屈強な男がタニルに近づき、軽蔑したような顔で言った、


「まさか、あの女をかばってるんじゃないのか?」


 疑う余地のない口調に、タニルは思わずまた退却した。


 屈強な男がさらに意地悪をしようとしたとき、グランはタニルを手を伸ばしてかばった。


「騎士様、私たち二人はずっとここにいましたが、确かに何も見えませんでした。」


 屈強な男の顔色を注意深く観察しながら、グランは冷静に応じた。

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