サンダーソニア

「今日は海へ行こう」

ルカはいつもきまぐれで、休みの日の朝突然に家の玄関に押し掛けて何でもないようにそう告げる。

「わかった。でも少し待ってね、もうすぐご飯が炊けるから」

「今日のご飯は?」

「白米にスクランブルエッグ、後は実家から送られてきた漬物かな」

「変わった組み合わせだな」

「美味しいからいいのよ、卵はだいぶ前に買ったやつだし漬物も貰ってから結構経つし無くしたいの」

「無くすの手伝ってくれるよね、ルカさん?」

「もちろんだとも、君と朝ごはんが食べたくてこんな早くにきたんだ」

「ありがとう。どうぞ、入って入って」



お互いになんの躊躇いも無く部屋に招き入れ、部屋に招かれる。

ひょんなことから出会って、なんとなくでここまで来た。

毎回じゃないが私の休日にたまに、気まぐれでどこかへ誘ってくれる。

事前連絡なんてこと一切してくれないお陰で数年前から私は、休日に何も予定を入れられないでいる。

断ればそれで済むことだけど、なぜか断る気にはぜんぜんなれなくて。むしろ休日の朝はいつも、今日は来てくれるのかなとドキドキしてしまう。



ご飯は多めに炊いていたし、卵も漬物も一回じゃ食べきれないからルカが来てくれて助かった。

「たくさん食べてよね、できれば今日で無くしたいから」

「いや、さすがにこれは無理じゃないか。タッパにいくら残ってると思ってるんだ」

「うーん、たくさん?」

「ほとんど手がつけられてないように見えるけど?まさに今日食べ始めますっていうような来さえする」

「よくわかりましたねルカさん、ご明察」

私がおどけて笑うと、つられてルカも笑う。時間がゆっくりと過ぎていくこの時間は私にとって大切なものだった。


「前回は西の町、前々回は動物園、もっと前には東町の雑貨屋さん。毎回全然違うところに誘われるから次は何処か全く予想ができないんだよね」

「今日は季節外れの海。海ならもっと良い季節があるのに、何で今日なの?」

「それはねぇ、何でだと思う?」

ルカはもったいぶって唇と、アレキサンドライトの瞳ゆがませ如何にも悪巧みしてそうな顔で聞いた来た。

「いや、しらんな。でも、君の事だから何か考えがあるんだろう?」

「その通り。まぁ、それは行ってからのお楽しみなんだけどね」

満面の笑みでルカは笑う。

その笑顔に、アレキサンドライトの瞳に似たような何かが、ルカとは違う誰かが頭にピリッと浮かんで消えた。












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