第9話

 気がつくと、もう夕方になっていた。

 夕日が真っ赤に燃えて、生まれて初めて見るような美しい夕焼けだった。

 そして私達は、ただ黙って、何も話さずに並んで歩いた。途中のレストランで食事をして花火を買って帰った。

 何でもいいから時間を忘れられる事をしていたかった。私達は先ほど買ったたくさんの花火を持って、家のすぐ裏の空き地へ行った。

 1本1本の花火に、替わり番こに火をつけては、二人で一緒に眺めた。

 花火の燃え尽きる時間が、いつもの何倍も早く感じた。

 線香花火に至っては、ポトッと落ちる瞬間があまりにもあっけなく、切なく、これからの二人の別れに重なって思え、涙が出た。


 家に帰ると、もう10時をまわっていた。

 修太郎君が窓辺に腰かけたので、私もその横に椅子を置いて座った。

「最後まで一緒にいさせてね」

 修太郎君はうなずく替わりに、私を見てゆっくり微笑んだ。


「本当に、短く感じた7日間でした。でも、とても楽しかった」


「私も。。。とっても楽しかった」


「一つだけ、お願いがあります」


「何?」


「僕の事はどうか忘れて下さい」


「どうして?いやだよ。私は忘れない。忘れたくないよ」


「君は澄ちゃんとは違う。この時代に生きている人です。いつまでも過ぎ去った昔を引きずって生きていってはいけません。

 過去の世界の僕なんか、さっさと忘れて、君にふさわしい人と、どうか幸せになって下さい」


 覚悟していた筈なのに、私の目からは、どうしようもなくたくさんの涙が溢れ出す。


「。。。。わかった。約束する」


「ありがとう」

 その言葉を聞いたのを最後に、私は意識を失った。


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