第5話

 それから二日後、ようやく修太郎君が、この生活に慣れてきたかなっていう頃、奈美が彼氏を連れて遊びに来た。

 でもここでちょっとした問題が起きてしまった。と言うのは、奈美の彼氏がアメリカ人だったものだから、修太郎君には刺激が強すぎたと言うか、鬼畜米英とは一緒にはいられないと言って、部屋に閉じ籠ってしまった。


 これには奈美もさすがにびっくりしてしまったのだけど。。


 ーまぁ、無理もないって言えば無理もないのよね。修太郎君は、戦時中の日本の思想にマインドコントロールされちゃってるんだからー


 でも、そんな修太郎君の心を開かせたのは、アメリカ人の彼だった。


「どうか、今日だけ、楽しい時間を過ごしてくれませんか?アメリカ人も、日本人も関係ありません。僕、日本人、大好きです」


 修太郎君は、彼の『日本人、大好き』と言う言葉に、とても驚いているようだった。

 それからは4人で和やかな時間を過ごす事が出来た。


 二人が帰った後、修太郎君がポツリと言った。


「僕達は何ひとつ、本当の事を知らされてなかったんですね」


「えっ」


「僕は、アメリカ人はみんな、人間の心を持っていない、野蛮で、残酷な人種だと思っていました。そう信じ込まされてきたんです。でも、そうじゃなかった」


「そうだね。でも仕方ないよ。戦争なんだから。

 それを考えたら戦えないでしょ。

 家族を思う気持ちや、愛する人を思う気持ちは、世界中みんな一緒だよ。

 修太郎君が、やっつけようとしてた人達にも、それぞれに家族や愛する人がいて、戦争で死んじゃったら、やっぱりみんな、それぞれに傷ついて悲しむの。みんな同じ人間だもの」


「。。。。。」


 修太郎君は言葉もなく、深く考え込んでいた。


 私は、修太郎君には、本当の事を知ってほしかった。すべてを信じてきた修太郎君にとって、真実を知ることは残酷な事かもしれないけど、それでもわかってほしかった。

 自分の命も、人の命も、大切なものなんだって事。たったひとつしかない宝物なんだってこと。

 だから、せっかく授かった命を大切にしてほしいってことを。


 修太郎君には絶対に、元の世界になんて帰ってほしくなかったから。。。


 そんな思いを胸に、私はただ、彼のそばに寄り添っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る