第3話

 そんな私の気持ちを察したのか、彼は、ふと立ち上がるとそのままドアの方へ向かおうとしている。


「どこへ行くの?」


 私の問いに振り替える彼。


「わかりません。でも、ここにいるわけにはいきませんから。。。」


 そんな彼に返す言葉も見つからず、ただ彼が出て行くのを、黙って見送るしかなかった。


 ーしょうがないよね。そんな簡単に、家に入れるわけにはいかないしー


 パタン!!

 目の前でドアが閉まる。

 少しほっとする。


 だけど、そのほっとした気持ちが、少しすると、だんだん不安に変わってきた。どうしてなのか、自分でもわからない。

 でも放っておけない気がした。

 わけのわからない感情に突き動かされて、私はドアを開け、外に出た。


 見ると、少し先の道を、力なくトボトボと、時々立ち止まり、回りを見渡しながら歩いていた。

 まるで迷子になった子供のようで、見ていて胸が痛くなった。


「ねぇ、ちょっと待って」


 私の声に、彼は立ち止まった。


「やっぱり、行くとこないんだよね」

「。。。。」


 彼の顔は、不安で今にも泣き出しそうに見えた。


「もう、しょうがないなぁ。来て」


 そう、言い捨てて、彼の目も見ずにさっさと歩き出す私。

 振り向くと、彼はまだそこに立っていた。


「どうしたの?来ないの?」


「ありがとうございます。あなたの親切に、心から感謝します。」


 そう言って深く頭を下げる姿に、私は少し照れ臭くなり、

「だからって、ずっと居られても困るからね」

 と言って歩き出した。

 今度はちゃんと私の後についてきた。


 そうは言ったものの、彼の足音を背中で受け止めながら、たった今、下してしまった自分の決断に、少し不安も感じていた。

 そんな複雑な思いを抱えながらも、玄関の重たいドアをゆっくり開けた。


 その時、彼のお腹からグーっと大きな音。


 突然の音に力が抜け、少し笑いが込み上げてくる。

「お腹すいてるの?」


「はい。。。すみません。」


「ちょっと待ってて」


 慌ててキッチンへ行き、ごはんと、作り置きしていた冷凍ハンバーグを焼いて、それにインスタントのお味噌汁。冷蔵庫から漬け物を取り出す。


「たいしたものじゃなくて悪いんだけど、ごはんはまだあるから、お替わりしてね」


 でも彼は、お腹がすいているのに、すぐに箸をつけない。目の前のごはんをしばし眺めて、


「ありがとうございます。こんなごちそう。。。もったいないです」


 ーなんだか心から感動してるみたいだけど、ごちそうだなんて言うほどのものじゃ。。。ぜんぜんないんだけどー

 それからごはんを3杯食べ、初めて食べるらしいハンバーグは、おそるおそる口に運んでいたものの、一口食べると、おいしい、おいしいと言って、一気に食べてしまった。


 しかし、時間も午前0時をまわると、お酒が入っている上に、昼間の疲れも出てきて、流石の私も限界がきて、少々投げやりな気分になってきていた。


「今日はしょうがないから泊めてあげるけど、絶対私の方には来ないでね」


「はい。わかりました」


 彼は素直にうなずく、。


 それから私の持っている中で、一番シンプルなパジャマを彼に渡した。


「はい。パジャマ。これでいい?」


 パジャマと言う言葉に少し戸惑いながらも、素直にパジャマに着替えると、さっきまで寝ていたにもかかわらず、そう時間が経たないうちに、規則正しい寝息を立て始めていた。


 彼の寝息を子守唄がわりに、私もすぐに眠りに落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る