死後の生活が始まったようで
婚約者のハルコが僕にすがり付いて泣いている。
それもそうだろう、なんと言っても今日、僕は彼女と結婚するはずだったのだから涙の一つも流したくなるというものだ。
病室に
ハルコの顔は涙と鼻水とよだれでアメリカのお化け退治の映画に出てくるドロドロしたお化けみたいだ。
そんなハルコの顔を見る
僕、黒島アキラは昨日の11月22日23時34分に死んでしまったらしい。
らしいと言うのも、自分に自覚と記憶がないからで、生きていた頃となんら変わらず意識があり、現実を観測できるのだからこれを死と受け入れるのにも時間が必要というものだ。
目が覚めたら死んでいました。
と言うのが一番しっくりくる今の僕の気持ちだ。
違和感と言えば、目の前に転がる自分の死体と自らを案内役と称するこのエマと名乗る少年くらいだろうか。
このエマという少年、年の頃は小学校の低学年程の背格好をしている。
ちょっと大ぶりな蝶ネクタイ、フォーマルなスーツベストにハーフパンツといった出立で、結婚式に主席している親戚の子供みたいな格好だ。
性格は賑やかで明るく元気で威勢がいい。人の
とにかく僕は死んでしまったらしいのだ。
「———と言う訳でですね、本来、人が死ぬと死出の旅路が始まるのですが、ごく稀に黒島様のように現世に留まる方がいらっしゃいます」
どうやら僕は普通に成仏できないらしい。生きている時もそうだったけれど、面倒臭いのは死んでも同じらしい。
「そこでですね、こちら、じゃん!!
ご長寿アニメのような口ぶりで取り出されたアイテムはどう見てもスマホにしか見えない手の平サイズのタブレットだ。
「死後の世界も随分と近代的になってるんだな」
「そうなんですよ!!よくぞお気づきになられました!!」
どうやら説明したくて仕方ないらしい。
「この
と興奮気味のエマは身振り手振りで実際に使って見せてくれる。
すると、突然エマの体から青白い炎が唸りを上げて立ち昇る。
あまりにも突然の出来事に呆気にとられている僕に
「うぅ〜らぁ〜めぇ〜しぃ〜やぁ〜」
と、手を顔の前に垂らすお決まりのポーズで僕ににじり寄ってくる。
炎の勢いと表現の古臭さに圧倒された僕はただポカンと燃え上がるエマを眺める事しかできなかった。
僕のリアクションが薄かったのが不満だったのかエマは更に炎の勢いを上げて迫ってくる。纏った炎の周りからは稲妻が走り、いつの間にか手には交通整理のおじさんが持っているような光る剣まで握られている。
更に驚いたのはエマの両脇の空間から粘土のようなものが湧き出し、
狛犬二匹を従え、唸る青白い炎に雷を纏った交通整理のアルバイトの出来上がりだ。エマは得意げにこちらを見ながら感嘆、畏怖またはそれに代わる
「歴戦の交通整理アルバイトみたいだ…」
とても素直な感想が僕の口をついて出た。余程期待していた反応とは違ったのかエマは膨らみ切った自尊心から空気が抜けるように拗ねてしまった。
「これ使いこなすのかなり大変なんですよぉ〜、交通整理ってひどいですよぅ〜」
狛犬二匹をモフりながら愚痴っている。ちょっとかわいい。
「いや、すまん、つい素直な感想が…。いやでも、炎とか稲妻とか凄かったよ。
犬もかわいいし!」
これも素直な感想だ。
「…ホントに?」
「ホントホント、凄いよ!あれは
エマは再び目を輝かせながら説明を始めた。
「そうなんですよ!
「え、じゃあその狛犬も…?」
「これは私のペットです!!」
まぎらわしい…
「それで、その
「そう、本題です!黒島様はこの
エマが言うには、この世に未練のある魂は未練の原因を解消しないと死出の旅路に旅立てないのだそうだ。それは死因であったり、やり残したことであったり人によって色々原因があるらしい。
僕は見ての通り誰かに殺されて死んでしまっているようなので、まずはその原因究明から始めなければいけない。
自分でもハッキリしないのだけれど、どうやらショックのあまり死に至る記憶を思い出せないのだ。
このまま思い出せないでいると、いつまでも成仏できないので死後の世界にはエマのような助霊師と言う職業の者が霊体に
「では、黒島様!!じゃんじゃん張り切って未練解消していきましょう!!」
こうして僕の成仏する為の奇妙な生活が始まったのだった。
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