12ー24 十歳の子供たち その三

 私は、ビアンカ・ファンデンダルク、10歳です。

 お父様の許しが得られて、初めてお父様の故郷だという地球を訪れました。


 大きな街の公園区画にお父様や護衛役兼保護者役のアンドロイド、それに10歳になった年長組の皆と一緒に行きました。

 最初は、とっても文明が進んでいて、華やかで穏やかな場所だと思ったんですけれど、臨時ニュースとやらが出現したことでその印象が一気に変わってしまいました。


 私たちが訪れた地球世界のオーストラリアからでも結構距離のある場所での出来事なんですけれど、二つの国の間で戦争が起きちゃったのです。

 ホブランドでも戦争は在りますよ。


 でもホブランドの戦争とは異なる戦いがそこでは繰り広げられていました。

 ホブランドでは、原則的に戦うのは騎士であり、魔法師なのです。


 その戦いで傷つき倒れるのは、戦で戦うために馳せ参じた騎士や魔法師若しくは傭兵なんです。

 もちろんその過程で戦場になった地域では、普通の民家や畑が被害を被るなどの出来事は発生します。


 但し、戦で得るものは其処に在る生産物であったり、領土であったり、領民なんです。

 だから無暗に一般人を殺戮したりはしません。


 でも地球世界での戦争は違いました。

 敵方の地域であれば誰彼構わず殺戮してしまうような特別の兵器を用いながら戦をしているのです。


 私たちの目で見えるように目の前に出現した動く画像では、戦いを行う国双方の王都、いえ、首都でしたか、そこが無差別に攻撃される場面が映し出されていました。

 大きな建物群がミサイルというもので多数破壊されるのです。


 高い建物では空中からばらばらと落ちる破片に混じって人のようなものが地上に落ちる場面さえありました。

 遠くから映されているにもかかわらず高精細の画像だからこそ、私にはヒト型だとわかりました。


 あの大きな建物が軍事目標とは思えなかったので、一旦、ホブランドに戻った後でお父様に確認したなら、あれは市民が住まう普通の集合住宅であって、軍事施設ではないと教えてくれました。

 この地球世界は、楽園のような世界と思っていたのに違いました。


 お父様によれば、地球世界では戦争ともなると無差別に攻撃されるのだそうです。

 大都市の住民を殺戮することで得られるのは相手国の生産力の減少なのだそうです。


 そうして相手国の国民の戦争に対する忌避感を呼び覚まして、その戦意を奪うのだとか。

 戦力にもならない乳飲み子や幼子があのミサイルで殺されることもあるのだそうです。


 何とも酷い話ですが、地球世界の戦争とは国同士の総合力での戦いなんだそうです。

 軍事力の大きい方がもちろん有利ですが、それだけではなく戦を継続できる国としての総合生産力がモノを言うのだそうです。


 そのために相手の力を削ぐために平気で一般市民の命も狙うのです。

 私達が見た動く画面はまさにその戦いの一場面を紹介しただけなんだそうです。


 お父様は、地球世界の何れの場所でも戦争に巻き込まれる恐れがあると言われていました。

 この地球世界では、大規模な殺戮兵器がどこの国でも持てるようになってしまったが故の問題なんだそうです。


 お父様の故郷である国はニッポンという国であるそうですけれど、隣国ともめごとが多く、一触即発の状況にあるのだそうで、とても私たちを連れてはいけない状況なのだそうです。

 私達もホブランドでの国同士でたまに戦をしていることは知っていますし、ジェスタ国も何度か他国との戦争で軍を動かし、お父様も参戦されたことがあると聞いています。


 そうしてジェスタ国ではお父様の参加された戦でさえ、ジェスタ国の英雄サーガの一部として子供たちのおとぎ話に出てきます。

 そこで敵方の多数の将兵が多数亡くなったことも知っています。


 でもそれは一般市民ではありません。

 ホブランドでは、戦とは言いながら、戦いにはおのずとルールみたいなものがあるようなのです。


 でも、地球世界ではそれが無いに等しいのです。

 それにもまして先ほど見たばかりのミサイルというものに搭載できる兵器で、ただの一発でカラミガランダの領都が消し飛ぶような破壊力を持った兵器もあるのだそうです。


 流石にこの武器は、国際的な取り決めで戦争に使うことを禁じていますけれど、生憎と強制力がないために、地球世界の多くの国々で秘密裏に保有しているんだそうで、その総量は地球世界を千回ほども死の星に変えるに十分な量があるのだそうです。

 お父様は地球世界の安全な場所を私たちに見せた後で、そうした危険のある世界であることを言葉で教えるつもりだったのだそうですけれど、図らずも実際の壮烈な場面に遭遇してしまったわけです。


 それにしても、遠くで起きた出来事を画像にして、瞬時に送り届ける科学文明の社会は、とても便利ですけれど、戦に関りの無い者達も大勢巻き込んでしまうような危うい世界でもあるのですね。

 お父様が言いました。


「お前たちが見て良いなと思った異界でも、どこに落とし穴が潜んでいるかわからないんだ。

 異界では、そこに住む人々のメンタリティとか考え方がホブランドとは異なる。

 むしろ、お前たちが知っているホブランドの常識は一切通用しない世界であることの方が多い。

 特にホブランドでは起こり得ないような事象や現象も異界では起こりえる。

 どの異界を訪れるにしろ、最初に良く自分の目で観察を続け、確認しなさい。

 どれほど観察していたにしても、抜け落ちていることがあり得るんだ。

 私の場合は、最初にゴーレムを送り込んでその異界の監視を行い、種々の情報を仕入れることから始めている。

 十分に情報が集まったと確信でき、相応の準備ができたのを確認してから、初めて異界を訪れるようにしている。

 これまでに情報収集を行った異界は50を少し超える。

 その中で一応の安全が確認できると思えた世界をいくつか訪ねたが、お前たちが訪問しても良いと思われる異界は今のところクインテスという異界が一つだけだ。

 そのほかにも三つほど候補の異界があるが、未だ情報収集中で安全の確認が取れていない。

 異界はおそらく星の数ほどあるだろう。

 その全てを確認するには相当の時間が必要だ。

 だから今後ともお前たちが出かけても良い異界の発見に向けて努力は続けるが、あまり期待はするな。

 そうして勝手に異界を訪問することはやめなさい。

 もし万が一の不慮の事故が起きた場合、お母さんたちが悲しむことになる。」


 不断余りうるさくは言わないお父様が、かなり長い時間をかけて異界の訪問についての危険を説明し、守らねばならない約束事を言いました。

 お父様が私たち子どもに分け隔てなく与える愛情については、私達も良く知っています。


 だからこそ、お父様の言うことには頷けるし、従えるんです。

 一旦、ホブランドに戻った私達ですが、すぐにクインテス世界を訪れることになりました。


 時空間魔法というのは便利ですよね。

 地球世界を訪れた時間は、多分一刻か一刻半ほどの時間だったと思いますけれど、ホブランドに戻ったのはホブランドを発った時刻の直後のことでした。


 そうして今回クインテス世界を訪問して、そこで数日を過ごしても、ホブランドでは時間がほぼ進んでいない時期に戻れるのです。

 クインテスの訪問は、現地の時間で三泊四日になる予定を教えていただきました。


 お父様と一緒にお泊りの旅行をするのは初めてですね。

 だから、それも楽しみの一つなんですよ。


 クインテスで最初に行った場所は、お父様の秘密基地にしている場所です。

 人里離れた山間部の荒地の地下であり、周囲には人気ひとけが全くありませんし、荒地の所為か動物の類も少ないようです。


 そこは、お父様の作られた空飛ぶ船が隠されている場所でもあります。

 お父様ならば亜空間に収納もできるはずですけれど、もし出し入れが人目についてしまうとまずいので、保管場所を地下の秘密基地にしたのだそうです。


 因みにこの基地への出入りは空間転移でしか行えませんし、お父様が許可を与えた人物やアンドロイドそれにゴーレムしか入れません。

 お父様が作った結界に許可された者以外が侵入し、あるいは、転移して来ようととすると、時の牢獄に捕らえられる仕組みになっているんだそうですよ。


 でもそこに居るだけでは、この世界の訪問とは言えませんよね。

 お父様の秘密工房を見学に行ったようなものですから・・・。


 私達がクインテスを訪問する時には、必ず最初にここへ出現するようにとお父様が言いつけました。

 ですからこの秘密基地はクインテスの玄関口なんです。


 そこからさらに転移して商港都市であるジャコダルのお父様の家に行くのです。

 ロバーナ連邦内ではホブランドのような都市ごとでの検問は在りませんが、住民は身分証明書を持ち歩かなければなりません。


 私達はジャコダルに住むお父様の偽名であるバスティアーノ・ルバーシュの親戚の子ということになっています。

 一緒にいるアンドロイドは私たちの保護者です。


 私の保護者は年の離れた兄のロビントン・ルバーシュということになっていますし、私もここではビアンカ・ルバーシュなのです。

 街のはずれに転移し、そこからは徒歩で街に入ります。


 お父様の普段居る場所は、市内のルバーシュ医療・薬剤所なのですけれど、私たちのために閑静な住宅街に別荘を用意してくれました。

 別荘は、結構大きなお屋敷で、ツィンの寝室が7つもあり、広い庭付きの古いお屋敷です。


 地上設備はこの世界独自のモノですが、地下にはお父様が作られたセーフルーム(セーフエリア?)があり、万が一の場合はそこに逃げ込めば安全なのです。

 そうしてセーフエリアの設備は、ホブランドの領主館と同様に快適に過ごせる空間になっています。


 一応日中にこの屋敷で過ごす場合は、地上設備に居るけれど、夜間はこのセーフエリアで過ごすことになります。

 安全だし、エアコン付きなので快適なのです。


 お父様は、概ね日中はお仕事で不在です。

 お父様そっくりのアンドロイドが代役を務められるのですけれど、同じ時間帯にお父様が二人それぞれ別の場所に居ると面倒なことになりますよね。


 ですからこちらでお父様と外出できるのはルバーシュ医療・薬剤所が休業日の時だけなんです。

 それは三泊四日の異界訪問中、三日目の明後日になっています。


 それまでは、保護者役のアンドロイドと一緒に集団行動をとることになっています。

 それに加えて、いつものことですが、δ型ゴーレムが私たちの周囲で特殊亜空間に存在して私たちの安全を見守ってくれています。


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