11ー7 交易と外交
俺が若干懸念していたジェスタ国に
最初にやって来たのはガランディアと戦争中の北ファランド大陸の南部連合国だった。
北ファランド南部連合国の一つであるパリステレル国の交易船に乗って来た外交使節は俺との面会を求めて来た。
ファンデンダルク侯爵を指名して来たのは、俺がやったバルマラード市内での通告に際して、ジェスタ国海軍元帥リューマ・フルト・アグティ・ファンデンダルク侯爵と名乗ったからに違いない。
何度か繰り返して通告を行ったから、在泊中の外国船舶の乗組員がそれを知り、情報として北ファランド南部連合にも伝わったのだろう。
アルバンド大陸の内陸部にあるジェスタ国に渡りをつけるには、アルバンド大陸の別の海岸国に上陸し、そこから内陸部を通過してジェスタ国に辿り着くか、若しくはウィルマリティモを訪れるしかない。
ウィルマリティモの存在は、アルバンド大陸では周知の事柄であるし、ファランド北大陸の北部地域等とも一部交易を始めたので、知られている筈である。
生憎とファンランド北大陸の南部地域は、交戦地域であったのでジェスタ国の交易船は通行を避けていたのだ。
従って、一般的な情報としてジェスタ国にウィルマリティモという港があることはファランド北大陸の南部連合でも承知していたのである。
パリステレル国交易船ファルバレル号がウィルマリティモに入港して、QICの担当官に俺との面会を申し入れして来てから5日、俺は外国使節との会見を行うことにした。
カラミガランダに使節を呼びつけても良いのだが、その間の施設や設備等を現段階で外国に見せるのは好ましくないと判断した。
他国の交易船については、ウィルマリティモの商港区域に限定して上陸を認めており、その他の地域については立ち入り禁止区域に指定して外国人には見せないようにしているのだ。
従って、交易のために入って来る他国の交易船は、ウィルマリティモの公開されている部分しか見ていないことになる。
当然のことながら、造船所や海底を通るトンネルなどは外向けには秘密のままなのだ。
いずれトンネルの存在などはウィルマリティモの住民からの情報で知れることになるかもしれないが、今のところはできるだけ国外には知らせない方策を取っており、住民への周知もしているところだ。
従って、俺が使節団と会見を行うならば、ウィルマリティモの然るべき場所で行うしかない。
俺も公私にわたり、なんやかやと忙しかったし、いきなり使節団が訪問してジェスタ国の有力貴族が簡単に動いて貰えると勘違いさせてもいけないので5日という時間を置いたのだった。
使節団は、一応パリステレル国の外交部門という体裁を整えているが、代表者のエヴァンデリン伯爵以外の二人の随伴者は、連合国のボランデル国とデルマルケル国の代表であり、両名ともに子爵である。
元々北ファランド大陸の南部連合国は、十一の中小国家群から構成されており、その中でもパリステレル、ボランデル、デルマルケルの三か国が、勢力も大きいし発言力も大きい国なのだ。
彼らが衆議談合の結果、ジェスタ国に外交使節団を派遣することについては、俺が秘密裏に派遣しているδ型ゴーレムからの情報で1か月前から承知していた。
これらの南部連合国の交易船がウィルマリティモへ入港してきたのは初めてのことだった。
それまでは南部連合国の主要港湾がガランディア帝国の軍艦により半ば封鎖されていたことから、交易船が出港できないという事情もあったのだ。
彼らの来訪目的は、ジェスタ国との間で通商友好条約の締結と、可能ならば軍事同盟を締結することであった。
ガランディア帝国との国境紛争は既に6年越しにもなり、二年前のガランディア帝国軍のアルミディ半島の進出以来、苦戦を強いられてはいるものの、何とかガランディア帝国の南部侵攻を抑え込んでいる状況にあった。
そんな中で世界的にも最強と詠われたガランディア帝国軍の戦列艦15隻を鎧袖一触で撃ち破り、その拠点軍港バルマラードを一夜にして殲滅したジェスタ国海軍の戦力は絶大なものがある。
更に言えば、その後の一月で明らかにアルミディ半島のガランディア帝国軍の侵攻圧力が弱まり、更にその十日後にはアルミディ半島からガランディア帝国軍が撤退を開始したのであった。
どうやら帝都近傍のバルマラード壊滅により、本国海軍の立て直しが急務となり、海上を通じてのアルミティ半島駐留軍への支援が難しくなったようだ。
大型戦列艦30隻、中型戦列艦50隻、その他支援艦艇百隻弱を保有するガランディア帝国にしても、15隻の現役戦列艦15隻の消失は非常に手痛い損害だったようだ。
しかもバルマラードは帝都に近い港湾であって、ここを万が一にでも占領でもされると途端に帝都が危うくなるのだ。
このために戦闘海域に派遣していた戦列艦の呼び戻しが急務であったこと。
更には、バルマラードにあった大造船所も壊滅させられたために、新造・修理とも他の港湾にある二線級の造船所で行わなければならなくなって、負担の多いアルミディ半島の飛び地支配を断念したようだ。
ここに来て南部連合国家群は、ジェスタ国の海軍力に希望を見出したのである。
僅かに一夜にしてガランディア帝国の野望に楔を打ち込み、方針変更を余儀なくさせたジェスタ国海軍と提携できればガランディア帝国の野望も阻止できるはずである。
ために、南部連合は最低限度、友好通商条約の締結によりジェスタ国と誼を結ぶことを願い、できれば軍事同盟まで締結して自国の安全を担保したかったのである。
それらの思惑は十分俺も承知しているが、軍事同盟はいただけない。
ジェスタ国に差し迫った軍事危機などないから、下手に同盟を締結すれば紛争に巻き込まれることになる。
一か所だけならばともかく、それが複数の地域になれば前世の核の傘ではないが、護るべき範囲が広がり過ぎて、その分軍事費が突出することになる。
俺としては自衛に必要な軍事費は出すが、余分な費用を供出する気にはなれない。
軍事費というのは脅威があればあるほど、際限なく膨らみやすいものだ。
現時点ではさほどではないにしても同盟を締結して庇護(?)の義務が生じれば、いずれは肥大するのはわかりきっている。
交易は拡大しても良いが、軍事力の必要以上の拡大は望まない方が良い。
従って、外国使節の相手が望む交渉ごとについては、結果が見えている状況で臨むことになる。
ウィルマリティモにある中央役所の会議室で、俺は三人の外交使節団と面会した。
同伴したのは、ウィルマリティモ行政区長のヴェラルド・ハリソンと、ジェスタ国交易船部門を統括するサンロレンゾ海運会社会頭のヘンディック・パタリロである。
ウィルマリティモを通じての交易についてはこの二人を介在させておいた方が後々都合が良いからだ。
ジェスタ国王家は塩の専売を行っているもののその他の交易品については、原則的に俺の判断に任せてくれているし、他の有力貴族と共にサンロレンゾ海運会社への投資を通じて一応経営にも参画している。
事前に南部連合の外交使節が来訪したこと、彼らが友好通商条約と軍事同盟を標榜していることについては宰相と国王陛下には伝えており、いずれも俺の判断に任せるとの包括承認を貰っている。
最近、俺に対して丸投げが多いんだが・・・。
これでいいのかジェスタ国。
俺に国盗りなんぞの野望は無いが、国の方針を一人の男に丸投げというのは余り良いことでは無いぞ。
まぁ、そうは言いながらも俺の役目としてそれを全うするしかない。
すまじきものは宮仕えとはよく言ったものよ。
外交交渉においては、互いに相手の立場を敬うことが大事な基本原則だ。
まぁ、この世界ではそこに爵位が関わるので、少々異なる慣行もあるようだが、俺は大国であれ小国であれ、一国を代表して協議の場にある以上互いに対等だと思っている。
従って、会見冒頭にその旨を相手に伝えた。
以後は無礼講ではないけれどそれなりの品位と礼節を保ちつつ、相手の要望を聞いたのだった。
お昼を挟んで午前・午後の協議の結果、予定通り関係国との通商航海条約の締結を容認し、軍事同盟については、ジェスタ国にとって利益が無いという理由で穏当に拒絶した。
相手は相応の不利を悟って軍事同盟の案件については引っ込めた。
但し、何らかの契機があれば交渉再開の余地を残していただきたいという申し入れは一応俺限りで受け止めておいた。
かくして、南部連合の内パリステレル国を含む三か国(ボランデル国とデルマルケル国は内陸国であるので含まれない)との友好通商条約の草案が用意され、それぞれの国王の承認を得て調印することになった。
その為の調印使節団は二月後にウィルマリティモを訪問する予定だ。
条約調印を望んだのは連合国側であったので、調印のための使節団が再度訪問してくるのも連合国側というのが国際慣行であるようだ。
一先ず、これで厄介払いが済んだと思っていたのだが、それから一月と置かずして、各大陸の交易先が代表団を派遣してウィルマリティモに来訪するようになった。
そうしてこの訪問者の相手を務めるのが俺の仕事になってしまった。
もしかして、俺は海軍元帥じゃなくって外務大臣なのか?
面倒なことこの上ないのだが、内陸部の周辺国との外交を外されているだけまだましかと思うことにした。
そのおかげで、最近は嫁sの機嫌があまり宜しくないのだ。
何しろ月の半分ほどはウィルマリティモで外国の訪問客の応対をしているのだから、カラミガランダの本宅で寝る時間が少ない。
その分、嫁sの欲求不満が溜まっているんだ。
嫁sは、みんな若いからね。
余り放置すると暴発しかねない。
その所為なのか、カラミガランダ滞在中は、3Pや4P(ん?意味が分からん?わからない人は読み飛ばしてくれ。)が多くて朝までご奉仕コースが多いなぁ。
今のところ、まだ保っているけど、そのうち俺の体力がもたずに全面降伏しなければならんかもしれん。
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