11ー6 アーレマイン号始末記

 俺は、ジェスタ国の海軍元帥であるファンデンダルク侯爵だ。

 ガランディア帝国による手前勝手なアーレマイン号の不当拿捕から始まるガランディア帝国との国際紛争については、多分に恫喝の混じった我が方の勧告段階で、ガランディア帝国側が素直に罪を認め、謝罪するならば、最終的に多額の賠償金と関係者の処罰程度で収めようという考えはあった。


 しかしながら、実際問題として皇帝を含めて傲岸不遜な帝国幹部の者達が素直に応じるとは思ってはいなかった。

 その意味では、予測通りに彼らは取って付けた理由でしらを切って来たのだ。


 その間のガランディア側の舞台裏の様子については、デルタ型ゴーレムを要所に配置して帝都側を含めて全て確認している。

 従って、特使なる人物が来る前に結果は見えていたが、それでも宣戦布告のために相手の言い分を聞いてやらねばならなかった。


 その上で特使の嘘を暴き、それをも口実に宣戦布告を為したのはある意味で予定通りの筋書きであった。

 特使を外洋型フリゲート艦から追い出した後は、配置していたデルタ型ゴーレムにより、アーレマイン号の乗組員を、ディアトラゾ空間に引き込んで救助し、その上で外洋型フリゲート艦に転送せしめた。


 そのうちの何人かは、ガランディア帝国の官憲若しくは将兵の目の前でかき消えることになったので騒ぎになったが、それを明確に証言できる者はおそらく事後(攻撃後)には存在しないはずだ。

 仮に帝都に報告されたところで困ることは無い。


 バルマラードの壊滅と共に伝説になるだけの話である。

 特使の座乗する端艇が我が方のフリゲート艦を離れた段階で、バルマラード市内に向けて拡声器による事前の通告を行った。


「私は、ジェスタ国海軍元帥リューマ・フルト・アグティ・ファンデンダルク侯爵である。

 ガランディア帝国はジェスタ国交易船アーレマイン号の拿捕について、納得できる説明ができず、特使と称する人物は明らかな嘘を申述した。

 私は、当該信用できぬ人物を特使としたガランディア帝国の対応を不誠実なものと認め、ここにジェスタ国を代表してガランディア帝国に対し、日没時を持って懲罰のための宣戦布告を為す。

 第一に、日没後一刻の猶予を持ってバルマラード市内全域を攻撃する。

 バルマラード市内は灰燼に帰すだろう。

 死ぬことを望まぬ市民は直ちに市内から遠く離れよ。

 少なくとも市街地から2ケール離れなければ安全とは言えないだろう。

 第二に、湾内に居る軍船は全てを破壊する、乗員はすべからく脱出せよ。

 搭乗している場合は、命の保証は無い。

 第三にガランディア帝国に対する警告のため、帝都の王宮に存在する一番高い建物を明日正午に破壊する。

 これら三つの懲罰は、不当な理由により我が国の交易船を拿捕し、何ら罪のない乗組員に対して瀕死にさせるほどの拷問を加えたことに対する懲罰だ。

 この宣戦布告は今後も有効ではあるが、当方としては、これ以上の戦闘行動はガランディア帝国に存在する無辜の民のために敢えて拡大しないつもりである。

 なお、ガランディア帝国に対しては、今後一切我が国との交易を禁ずる。

 また、以後いかなる手段によってでもジェスタ国交易船に対して不当な干渉を為した場合は、バルマラードと同様に王都が灰燼に帰すことになるだろう。

 ガランディア帝国以外の交易船であって港内に在泊中の船は、その場から動くなかれ。

 船に閉じこもってじっとしていなさい。

 我海軍はガランディア帝国以外の交易船に対して武力を用いない。」


 この拡声器による通告は三度繰り返した。

 この通告の目的は、ガランディア帝国の一般市民に対する周知であり、同時にバルマラード港内に停泊中の他国の交易船に対するプロパガンダでもある。


 これにより比較的大きな港町を短時間で殲滅できる戦闘艦をジェスタ国が保有していることを知らしめ、同時にジェスタ国の交易船に対して不当な取り扱いを防止することを目的としたものだ。

 帝国内には、バルマラードの避難民から噂が広まるだろう。


 外国については交易船の乗組員から徐々に噂が広がるはずだ。

 ジェスタ国の海軍が侮れない実力を持っていると認識させればそれでよい。


 いずれにせよ、特使の端艇が十分な距離まで離れると、外洋フリゲート艦三隻を包囲していた12隻の帆船型戦列艦が魔法による攻撃を仕掛けて来たが、外洋フリゲート艦にはそもそも魔法陣によりバリアが張られており、如何なる魔法であれフリゲート艦を破壊することはできない。

 その攻撃に応戦する格好で20ミリ・ファランクスのマ弾を水線付近にぶち込み、さらにその上方舷側に撃ち込んだ。


 木造帆船の防弾構造などあって無きが如しであり、マ弾による爆裂で一気に水線から甲板付近の舷側までは破壊された戦列艦はすぐに横転していった。

 最初から戦いになんぞならないのは承知しているが、これも見せしめなのだ。


 通告に基づき、今後ガランディア帝国との交易は十年以上に渡り無くなるだろう。

 少なくとも現在の皇帝と宰相が生きている間は向こうが望んでもこちらは応じない。


 元々ジェスタ国から見れば販路としては有望だが、輸入できるものがさほどない交易であり、輸入品は他の地域での交易により入手できる品物がほとんどであった。

 従って、交易を切ることによりデメリットは少ないはずだ。


 そもそも国交の断絶であるから、ガランディア側からジェスタ国に使者を送ることもできない。

 まぁ、ジェスタ国(ウィルマリティモ)と交易をおこなっている外国を通じて書簡ぐらいをジェスタ国に届ける余地は残してやるが、仮にガランディア帝国が多少の謝罪を行ってきても当面は受け付けないつもりだ。


 そうして日没から一刻を経過し、砲撃することを通告の上、バルマラードをクラスター爆弾搭載の艦対地ミサイルで砲撃した。

 予め、バルマラードを殲滅するように破壊地域を割り当てての攻撃だ。


 攻撃目標上空でクラスターを撒き、それが地上に降り注いで爆発する。

 石造りの堅牢な構造物でも破壊できる子爆弾だ。


 概ね一発で400m~600m四方に地上が破壊される。

 一隻当たり80発、合計240発でバルマラード市街を壊滅させた。


 事前警告にも関わらず市街地に残っていた者が将兵以外にもわずかばかり居るのは知っていたが、敢えて救助はしない。

 冷たいかもしれないが、これは戦争であるから、そのまま将兵ともども抹殺することになった。


 ガランディア帝国が、ジェスタ国から明確な敵認定を受けた状態で、他の外国との交易が上手く行くかどうかはわからない。

 或いは我が国との軋轢を避けるために、ガランディア帝国との交流を避ける動きもあるやもしれないと思っている。


 ジェスタ国の海軍力が強大であることを見て取った海洋国家は、ジェスタ国にすり寄ろうとするはずだ。

 少なくともジェスタ国に喧嘩を吹っ掛けて来る国は無いだろうとみている。


 ガランディア帝国は、ファランド北大陸随一の海軍国家でもあったのだ。

 その一部とはいえ、無傷で撃破した戦闘力はいずれの国であっても無視できまい。


 俺もそのつもりで戦闘艦の能力の一部を披露したのだった。

 俺の見込みでは海洋立国で相応の見識あるものが率いる政府ならば、ジェスタ国に擦りより、場合によっては同盟を申し込む国家も増えるのではないかとみている。


 俺自身は海洋の覇権を目指すつもりはないが、必要とあれば実力を見せつけておかねば侮られてしまう。

 地球における中世の弱肉強食の世界が、この世界なのだ。


 当面、アルバンド大陸でジェスタ国を侵攻しようとする国家はいないが、海洋については戦力が無いとみるやハイエナのように交易船や海岸都市に海賊行為を働く国家も多いのだ。

 俺は、その防衛のための布石としてガランディア帝国を利用させてもらった。


 遺憾ながら賠償金を得ることはできないが、乗組員と交易船については無事に取り戻せたし、相応の報復をしておいたので、ひどい扱いを受けた乗組員にはそれで我慢してもらおう。

 俺からは特別慰労金として一月分の給与を上乗せする予定だ。


 今回の紛争については、交易も中途半端で利益が無い上に、外洋フリゲート艦6隻の出陣で相応の戦費もかかったことからかなりの赤字ではあるが、俺の懐が傾くほどではない。

 俺が召喚された時代から比べると百年以上もの未来の地球の知識を俺は入手できているし、この世界に合わせて魔道具を生み出し、先進の機器を製造しているから、ある意味でものすごくチートなんだが、その優位を崩さないためにも数多くの秘密は抱えたままだな。


 そんな俺の海軍に敵対できる存在など、俺の友である人外の「アムール」と「マーレィ」ぐらいしかいないだろう。

 邪神とか魔神とか出てくるとまた厄介なことになるかもしれないが、今のところは大丈夫だろうと幼女神様も言っている。


 俺の能力を駆使すれば、世界制覇ぐらい簡単に出来そうなんだが、俺にそんな野望は無い。

 だって面倒じゃんか。


 俺の目に見える範囲で救える者が救えたらそれだけでいい。

 俺としてはこの世界ではできるだけスローライフで生きていたいんだ。


 勝手気ままに、余所様に余り迷惑を掛けずに、相応の贅沢をして生きていられたらそれで良いんだ。

 権力?そんなもの要らねぇよ。


 女?嫁sだけで十分だ。

 みんな良い女だぜ。


 金?ウーン、使い切れないぐらいあるな。

 色々と工夫しながら錬金術工房で物造りをしていると、そのかなりの部分が金になるんだ。


 中には広めちゃいけないものもあるから、結構秘密にしているものも多いけれどね。

 飛空艇なんかその最たるものだろう。


 いずれ誰かが飛空艇モドキを生み出すだろうから、そうなってから必要に応じて知識や技術を小出しにするんだろうな。

 そう言えば、今回の紛争の一件で久しぶりに遠出したので、十日近くも嫁sや子供たちとはご無沙汰だな。


 留守にすると家族のフラストレーションが結構溜まるようだ。

戻ったら家族サービスをしなけりゃならんなと、外洋フリゲート艦のOIC司令官席に座って、モニターを見ながら そんなことを考えている俺だった。


明日の午後にはウィルマリティモに入港できるはずだ。

その日はカラミガランダの本宅、翌日は王都に赴いて、陛下と宰相に顛末を報告しなければならない。


 最初から喧嘩別れする可能性大と説明しておいたから、左程の問題は無いだろうが、もしかすると港町一つ潰したことについてはやり過ぎだと宰相に言われそうな気もするな。

 だが、ガランディア帝国を含めて周辺各国にも実力の片鱗を見せつけておかねばならなかったのだと力説しておこう。


 今回は何処にも寄っていないから、家族に土産も無いな。

 まぁ、しょうがないだろう。



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