第十章 嫁sの実家

10ー1 バイフェルン家 その一

 さてさて、嫁の実家を訪問するために、王宮にお伺いを立てていた件がようやく確認が取れた。

 事前の届け出を必要とするが、旅行日を含めて四日以内であれば領地を離れることも差し支え無しとのお墨付きをもらった。


 嫁sの実家訪問については、俺自体が行こうと思えばいつでも行けるから、左程重要事項には思っていなかったのだが、嫁sや子供たちと一緒に訪ねることが嫁sにとって、また、義父や義母にとっても至極重要な案件だったらしい。

 御里おさと帰りで一年に一度は、嫁sもそれぞれの実家に帰っているのではあるのだけれど、どういうわけか孫の顔とともに亭主の顔も見せたい或いは見たいのだそうだ。


 同じ派閥に属しているということもあって、義父なんかとは王都に行った時に割合に顔を合わせることもあるんだが、まぁ、義母にはなかなか会えない場合が多い。

 当然のことながら、隠居した義理のジジババ(嫁の祖父母)には余程のことがない限り会うこともないわけだ。


 俺も嫁の結婚式に際して、親族その他大勢と会ったような記憶があるが、正直なところ祖父母なんかはほとんど顔も覚えていない。

 もう一つ大事なことは、ファンデンダルク家の親戚になったことで、嫁sの実家が様々な恩恵を受けていることも大きいようだ。


 実は、王弟派の反乱騒ぎで多くの貴族が処罰されたために、爵位に空きが生じた。

 そのために国王派に属した貴族は、徐々にではあるが陞爵や領地の加増がなされていたのだ。


 その際に優先されたのが王家の縁者である家で、俺の親戚であるかどうかだけでも優先度が少し違ったらしい。

 特に、デュホールユリ戦役の後ではよりその傾向が強くなった。


 実のところデュホールユリ戦役では、ジェスタ王国へ侵入しようとした北方三国の軍勢の内、少なくともその四分の三が侵攻できなかったため、出陣した貴族は滞陣しただけで戦闘らしき戦闘は行っていない。

 当然のことながら、評価に困るわけだが、新たな領地を得られたわけでもなく、割り振りを検討していた王弟派の貴族が領有した領地の配分だけが進められたわけである


 その結果、側室シレーヌの実家であるバイフェルン伯爵は、爵位はそのままで領地が加増された。

 同じく領地の加増を賜ったのは、側室マリアの実家ヘイエルワーズ子爵家、側室ケリーの実家コーレッド伯爵家、側室エリーゼの実家ウェイン子爵家である。


 側室ケイトの実家であるバーナード男爵家及び側室カナリアの実家であるレイズ子爵家は、それぞれ子爵と伯爵に陞爵の上、領地替えとなった。

 俺の嫁sの実家は、いずれも棚から牡丹餅で領地が増えたわけである。


 俺も辺境伯になって海上貿易件の権利を得たから特に不満は無い。

 側室リサと側室フレデリカの実家については、当然音沙汰は無いな。


 リサは元々貴族じゃないし、縁者が居ない。

 フレデリカは、外国の元王女だから、そもそもその実家にジェスタ国から恩賞を与えるような対象になりえない。


 そんなこんなで、ジェスタ国の貴族であるsはある意味で隆盛を極めているわけなんだが、俺のδデルタ型ゴーレムの情報収集によれば、それぞれに色々と問題を抱えている様だ。

 領地替え組も領地加増組も、王弟派貴族の没収された領地に配置換えを為されたり、その領地を分割して加増されたりしているために、少なからず弊害や住民等の反感が残っている様なのだ。


 別段、前の領主が特別に良かったというわけではなく、前の領主のもとで甘い汁をすすっていたものができなくなったことにより、一部の者に不満が生じているようだ。

 中には元王弟派の貴族の騎士が浪人となり、徒党を組んで悪さを働いているケースもあるから、実家訪問の前には、δ型ゴーレムを集中運用し、関連情報を漁っておく必要がありそうだ。


 実家の訪問では、王家については王都参詣の時期で構わないとコレットから了解をもらっている。

 そしてまた、正室であるコレットの推奨に応じて、側室を娶った順番で訪問することとし、最初に第二夫人であるシレーヌの実家、バイフェルン伯爵の実家に赴くことにした。


 その実家訪問に伴う事前の届け出の手続きは、王都別邸の家宰であるジャックの方でやってもらっている。

 今後、他の嫁の実家訪問に際しても同じような手続きになるだろう。


 バイフェルン伯爵は、王都の北側、王都とサングリッド公国との中間付近にあるロプノル地方の領地を治めている。

 かつてその西隣に王弟派のクルード子爵領が存在したが、この領地が周辺の国王派貴族に配分されたのである。


 子爵領の半分ほどもバイフェルン伯爵に加増されたために、一気に所領が1.4倍ほどに増大した。

 従って、本来であれば収益は増えているはずなのに、バイフェルン家では逆に加増された領地が負担になって実質収益が減少しているようである。


 原因は、前領主の放漫経営にあった。

 税率を高くし、領内の有力者のみを優遇したために、農民が土地を捨てて農地が酷く荒れていたのである。


 残っている農民は土地を離れる余力もない貧民ばかりであり、伯爵家の代官は懸命に正常な農地に戻そうとしているのだが、これが実に難しいようだ。

 農地が放置されて既に数年を経ているために、新たな開墾ほどではないにしてもかなりの人手がかかること、飢えた住民を助けるために食料を確保しなければならず、まるで領内で自然災害が起きた場合の支援のような状況になっている。


 色々と工夫はしている様だが、逆ザヤになるのは避けられない。

 他所よその領地のことだから、あまり俺が口を出したり、手を出したりするのもまずいのだが、シレーヌが実家を援助する分には構わないだろう。


 ということで、シレーヌの実家がある領都デュランドに向けて出立する際には、支援物資を大量に積み込んだ貨物輸送車が伴っていた。

 とは言いながらも、馬なし馬車三台、兵員輸送車二台、貨物輸送車二台の車列にすぎない。


 俺とシレーヌ、長女アグネス、四男セシリオ、九男イサク、それに執事が一人、男の従者バレット二人、メイド数人がついている。

 今回の一連の実家訪問で家族の団欒機会を増やすために、俺はリムジンタイプの馬なし馬車を作っていて、今回は初のお披露目だ。


 こいつは運転席に騎士二人(一人は運転手)が乗り、後部座席に8人がゆったりと乗れる広いスペースと座席を設けている。

 俺の家族だけで5人、他に執事とメイド二人がリムジンに乗車して、残りは二台の6人乗り馬なし馬車に分乗、運転手は基本的に騎士が務めている。


 兵員輸送車は、運転手込みで8名乗り組み、貨物輸送車は運転手込みで二名乗り込み、総計で40名の団体さんだ。

 40名乗りのバスの製造も一応は考えたんだが、俺も辺境伯の看板を背負っているわけで、対外的な見栄もあって移動に際しては、大名行列じゃないけれどそれなりの陣容が必要なんだ。


 一度に40名もバイフェルン家にお邪魔するとなれば、向こうにも相応の負担をかけることになるが、事前に別便で俺たちの供応に必要な食糧や酒なんぞは馬なし馬車で送らせている。

 因みに、俺はバイフェルン家に一泊して領地に戻るけれど、シレーヌや子供たちは二週間ほど向こうに滞在することになる。


 その為に執事1名、バレット1名、メイド5名、それに騎士14名はバイフェルン家に置いてゆく予定なのだ。

 俺は、普通の馬なし馬車1台、兵員輸送車1台、貨物輸送車2台とともに本宅に戻ることになる。


 で、最初に王都に移動して、別邸で宿泊、翌朝早くには出立して、昼過ぎには領都デュランドに到着した。

 ひとしきり、義父や義母、それに義理の祖父母にも挨拶をした後で、シレーヌから支援物資の目録を渡してもらった。


 貨物輸送車は、箱型の貨物スペースを持つ四トン型バントラックと考えればいいだろう。

 但し、1台当たりの貨物収容量は3000㎥を超える。


 ミカン用の段ボールで10キロ入りは概ね30センチ×40センチ×25センチ程度なんだが、容量にして30リットル、トラックの荷台の容積はおよそ3万リットルだから、ミカン用の段ボール箱千個が入る。

 単純に言って10トン程度の荷物はこのバンタイプのトラックに収納できるわけなんだが、実際には空間魔法で細工しているから、その20倍以上は入るんだ。


 つまりは、貨物輸送車の一台については、ミカン箱にして二万個分の食料等を運んできたわけだ。

 こいつはシタデレンスタッドの管理ダンジョンの農場で備蓄していたものの一部だ。


 容器は特殊なもので、開封するまでは時間停止がかかっている。

 開封すると約一日で容器が自壊するから注意が必要なんだが、まぁ、開封した時点で使い切るか別の容器に移し替えておけば問題は無い。


 バイフェルン伯爵には、支援物資の量については対外的にできるだけ曖昧にすることと、空間魔法の収容(貨物輸送車及び容器の両方)については秘密にするようお願いしておいた。

 軍事機密を匂わせると武闘派の伯爵はすぐに了解してくれた。


 そうしてバイフェルン伯爵邸の敷地の一部を使って、地下倉庫を作ることの了承を得た。

 大量の物資を入れる倉庫がそもそも無いので、それを作らねばならんのだ。


 地下に降りる斜路が取り付けられた奥行き三十尋、幅二十尋、高さ三尋の地下倉庫二つが、到着したその日に作られた。

 雨除けの為に地下倉庫につながる斜路には屋根がついている。


 そのできたばかりの倉庫で手空きの使用人等を使って、貨物輸送車一台分の荷下ろしを行った。

 主として食料が二万個の箱に収められているから100人がかりで作業をしても結構な時間はかかる。


 俺も手伝いで、テレキネシスで複数の荷物を手も触れずに運んだからな。

 伯爵には呆れられたが、思いのほか早く終了した。


 もう一台分の方は、シレーヌとともにしばらく滞在するからゆっくりと荷下ろしすればよい。

 夕暮れ前までには作業が終わっていた。


 荷下ろしした中で一番の土産は、食料よりも大量のHPポーションと栄養ドリンクだ。

 渡す相手を十分見極めてから配分する必要はあるが、それだけで労働力が得られるはずだ。


 これと食料を適切に配分すれば、当面は飢えた貧民を救うことができるだろう。

 農地の方は、農耕作業用の魔道具を三種類各二台ほど貨物輸送車に持ってきた。


 こいつも貨物用車両に積み込んできたわけで、使用方法はシレーヌとともに残る予定の騎士数人に教え込んでいる。

 住民にこの魔道具の役割と使い方を滞在中に教え込めば、あとはバイフェルン伯爵の方で何とかするだろう。


 夕食までの間に、バイフェルン伯爵にその話をしておいた。

 その夜は歓迎の宴が催され大いに歓待を受けた。


 この訪問で、日頃の無沙汰も許してもらえるとありがたいな。

 宴の主役は、俺というよりはむしろ子供たちだったな。


 アグネスは満年齢で言うと3歳だが、ホブランドではかぞえ歳なのでもう4歳になっている。

 セシリオは3歳、イサクは2歳だ。


 いずれも可愛い盛りで、義父や義母それに義理の祖父母たちの目尻が下がりっぱなしだぜ。

 暫くは領主館がにぎやかになることだろう。


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