9ー17 王宮への報連相

 俺とアムールは俺の転移能力でアルバンド大陸へ戻ってきた。

 場所は、俺とアムールが最初に出会ったカラミガランダ領主館の敷地北東端にある草原だ。


 一応、アムールに屋敷に来るかと誘った。


「我の棲み処に所用がある。

 また機会を改めてリューマの屋敷を訪ねよう。

 我は、特にお主の子らに興味があるでな。

 人の子は愚かにして騒がしいばかりだから、我は好かんのじゃが、お主の子らは別格じゃ。

 生まれ変わることはできても子を成せない我じゃが、何とのう、我の子のように可愛ゆいてならぬ。

 それゆえ、いずれまた訪ねるが良いかの?」


「あぁ、事前に連絡をくれれば構わんぞ。

 それと、カラミガランダの領主館に来るならば、身分証明が必要だろう。」


 俺はその場で、俺の家紋と署名入りの証明書を作ってアムールに渡した。


「これを見せれば領都に入れるし、館に入る際にも門番に提示すれば案内してくれるはずだ。

 但し、さっきも言ったようにできれば事前に連絡してくれ。

 俺が領主館に居ない時に来られてもおそらく対応に困るだろう。

 子供たちはともかく、俺の嫁達や従者達はアムールが黒龍と知っているからこそ、本能的に恐れている。

 この潜在的恐怖感は生中なことでは取り去れん。」


「わかった。

 我も無駄に恐怖を与えるつもりはない。

 まぁ、子たちに忘れられないようにするには、精々季節ごとに一度のおとないになるだろう。

いずれまたな。」


 アムールはそう言ってヒト形から巨大な黒龍に戻り、西に向かって飛び去った。


 翌日、俺は王都へ向かった。

 注意喚起のために、イフリスの欠片の情報を一度は伝えている以上、報連相は必要だ。


 特に、宰相の配下やベッカム侯爵の率いる影の者達に無駄足をさせては可哀そうだからな。

 現状で、微小の欠片などが残存する可能性もゼロではないから、間違いなく大丈夫とは言い切れないものの、とりあえずの危険はなくなったことを報告しておかねばならん。


 俺の能力は今後とも色々と隠さねばならんだろうし、今後も披歴するつもりはないから、詳細説明の不足については多少辻褄が合わなくとも俺の秘密のスキルとして無理にでも押し通すしかない。

 

 ◇◇◇◇


 王都に到着したその日の内にウェイド・ベルク・フォイッスラー宰相に連絡して、国王陛下への報告に合わせて宰相が必要と考える重鎮たちを翌日に集めてもらうようお願いした。

 その翌日王宮に参内すると、会議室には国王陛下と宰相のほかに、マクレナン侯爵、ベッカム侯爵、モールス伯爵(リンダース侯爵の代理)、ブラッケン伯爵(クレグランス辺境伯の代理)が集まっていた。


 リンダース侯爵は所用があって所領に戻っているし、クレグランス辺境伯は任地が遠いので余程のことがない限り王都には来られないのだ。

 まぁ、それでも、俺の作った馬なし馬車を使えば丸々1日もあれば所領から王都へは来れるようになったはずなのだが、昨日の今日では無理だろう。


 従前は、急いでも間違いなく5日はかかる距離だったが、馬なし馬車のおかげでかなり時間の節約にはなっているんだ。

 俺としては、国王陛下、俺の元寄り親であったマクレナン侯爵、諜報組織を束ねるベッカム侯爵、それに外事関係を扱う宰相の四人に報告すれば十分と思っていたのだが、まぁ、代理にせよ主要派閥の代表者が集まっているわけなので文句はない。


 そうして俺はイフリスの欠片の殲滅を時系列で報告した。

 但し、イフリスの欠片が存在したそれぞれの大陸の場所と、葬った人物、殲滅時の状況などを大まかに説明しただけだ。


 具体的な処理方法について尋ねられたが、詳細は省いて俺のスキルで処分したとだけ説明した。

 国王から再度イフリスの欠片が復活する恐れは無いかと尋ねられたので、多分その心配は必要無いが、万が一、復活するとしても数千年後もしくは数万年後のことになるだろうと言っておいた。


 ◇◇◇◇


 ファンデンダルク卿の報告の後、夕刻に、国王陛下、宰相、ベッカム侯爵、マクレナン侯爵の四人が秘かに集まり、密談を交わした。

 国王が言った。


「ベッカム侯爵、先ほどのファンデンダルク辺境伯の報告について、裏付けは取れるかな?」


「一応、試みてはみますが難しいかもしれませぬ。

 既に報告のあったカルデナ神聖王国の一件でも、エベテリオス侍祭なる者が存在したことは確認できましたが、その者が邪神の欠片を持っていたかどうか、またその者がカルデナ神聖王国の幹部を操っていたかどうかについては、法王以下中枢の枢機卿が一斉に死んでいますので判然としません。

 また、ハワベル砂漠での魔神騒ぎについては目撃者も確保しました。

 その証言から、魔神らしきモノが出現して、左程の時間が経たぬうちに消滅したのは間違いないと判断されますが、その討伐方法や詳細な状況は一切が不明です。

 場所自体は特定できていて、大きな魔法を行使した痕跡が認められましたが、それ以上はつきとめられませんでした。

 今回の場合、アルバンド大陸ではなくほかの四大陸ですので、配置している者も非常に少ない状況です。

 特に、最後のクルップ大陸西岸のサンゴ礁については人跡未踏の地と承知しています。

 そもそもクルップ大陸自体が、獣人が主流の大陸ですのでヒト族が入り込むのは中々に至難の業なのです。

 配下の者に命じても、現実的には間接的な情報を得るのが精一杯の状況かと・・・。

 特に、海龍などその存在は、これまで黒龍と同様伝説上の生き物にしかすぎませんでした。

 ファンデンダルク卿の報告で実在すると分かったわけですが・・・。

 なんとも驚きの話です。

 また、最初の報告から1年も経たぬうちの殲滅はいかにも不思議です。

 ファンデンダルク卿の力量を疑うわけではないのですが、この大陸から四大陸を1年の間に旅するのはほとんど不可能です。

 しかも、ファンデンダルク卿は、王都及び領地であるカラミガランダ、ランドフルト、シタデレンスタッド、並びにウィルマリティモの地から二日以上不在になったことはありません。

 唯一の例外は、デュホールユリ戦役の際の国境線での滞陣のみです。

 わずかに一日か二日で多大陸を行き来できるなど、飛空艇もしくは転移の魔法を使わない限り不可能かと存じます。

 但し、飛空艇については依然として魔法師団や錬金術ギルドが懸命に検討を成しておりますが、今もって詳細が不明で再生も難しい状況のはず。

 為に、私は、ファンデンダルク辺境伯が伝説の転移の魔法を使える者ではないかと考えています。

 まぁ、ファンデンダルク卿に尋ねても教えてはもらえないでしょうが・・・・。

 また、邪神イフリスの欠片をどのように処理したのかも不明ですので、本当にあったことなのかどうかすら正直なところ分かりません。

 但し、今回の報告が宰相及び影の者への負担回避のための情報開示と判断すればファンデンダルク卿の意図は見えます。

 前回、危険があるので周知したけれど、一応その危険の目は摘んだので安心してほしいということなのでしょう。

 それにしてもファンデンダルク卿の力量は邪神をも上回るということで、ますます規格外を感じます。」


 宰相が眉をひそめながら言った。


「或いは、ファンデンダルク卿は神の使徒なのかもしれませぬなぁ。

 邪神そのものを滅するかあるいは封印したのであろう?

 そのようなこと、生身のヒトにできようはずもない。

 単なるホラ話ならともかく、我らに報告するだけでファンデンダルク卿は敢えてこの一件を秘密にしているようだ。

 まぁ、彼も他言無用とは言ってはいないが、ヒトを厳選して明かしている以上、この一件で報奨をもらおうなどとは考えていないのでしょう。

 むしろ、邪神の欠片を滅し或いは封印した方法を我らにも秘匿する等用意周到な報告だった。

 仮に我らが誰かにこの話をしたところで、単なるホラ話としか受け止めまい。」


 国王陛下が言った。


「彼が野心のない忠臣であってくれて本当に良かったと思う。

 コレットもよくぞ彼を引き入れたとほめてやりたいものよ。

 それと宰相、ファンデンダルク卿から書簡にて申し出のあった一時的に領地を離れる一件についてはどうなのかな?

 ファンデンダルク卿の側室の実家を三年に一度訪ねることは、今の慣習では難しいのかな?」


「いいえ、過去の事例を調べましたところ、左程多くはありませんでしたが、事前に通知のうえで領地を離れることには問題はありません。

 これまでも、本妻もしくは側室の親などが逝去した場合に葬儀に参加することは認められています。

 特にファンデンダルク卿の場合、馬なし馬車を持っていますので、国内であれば何処にあっても二日あれば往復は可能です。

 これまで最長の事例では、10日間に渡って領地を不在にした事例がございますが、特段の問題はございませんでした。

 従って、ファンデンダルク卿の申し出のように長くて足掛け三日程度の不在なれば問題は無いかと存じます。

 まして、ファンデンダルク卿は、王家に連なる者、一年に一月ほど王都に参勤せねばなりません。

 その間の領地経営に支障なくば、今回の申し出にも何ら支障は無いと存じます。

 但し、戦役が予想される場合は、一時的に遠出を止めざるを得ませんが、都度許可する方式ならば問題は無いかと存じます。

 特にファンデンダルク卿の場合は、王都別邸に連絡すれば、どこにあってもファンデンダルク卿にすぐに伝達できるようです。

 特段の支障は無いものと考えます。」


「そうか、・・・・。

 正室ならばともかく、側室の実家にまで種々配慮をするなど中々にできることでは無いのだが、側室たちの実家もそれなりに潤っているようだな?」


「はい、ファンデンダルク卿は側室の実家に対しては相応の配慮をしていると私も聞き及んでおります。

 概ね、居住設備に関する魔道具、ファンデンダルク辺境伯領の特産品等々については、割引価格で報いているようです。」


「フム、王宮にも様々な便利な魔道具を設置してくれたが、同様のモノを側室の実家に設置しているということか・・・・。

 宰相や二人の侯爵にはおこぼれは無しか?」


「いえ、優先度が若干遅れるだけのことで、我らの場合は元寄り親のマクレナン侯爵、次いで私やベッカム侯爵の順位があるようです。

 馬なし馬車の配分に際してそのような大まかな順番がありました。

 便器の魔道具とやらもファンデンダルク卿の息のかかった商会が比較的優先して取り付けてくれましたので、相応の配慮はしてもらっておりますが、まぁ側室の実家ほどではないということでしょうか。」


「そうか、コレットの実家ということで王宮も相当の利便を図ってもらえているわけだな?」


「ファンデンダルク卿の中では、正室次に側室の実家の順のような気がしますが、仮にそれがなくとも王家には相応の敬意を払い、配慮をしているのだろうと思われます。」


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