7-9 ドラゴン襲来? その一
オルテインシュタイン帝国の新皇帝であるハイレルン二世は、正直なところ迷っていた。
父であるポルスト皇帝が頼りにしていた影の者の一団を失ったのはかなりの痛手なのである。
影の者の一団は、皇家の厄介事を秘密裏に処理してくれる組織だった。
近衛師団にも似たような組織があるが、あちらは近衛師団長の配下であるために安易には使えないのだ。
アラミスは、実際非常に有能だった。
皇帝の命令は、原則として撤回できないものだと言うことは私も知っている。
だが、正直なところ、アラミスが死を予期してまでの忠言を為してくれたことは察していたから、出来れば父には命令を撤回して欲しかった。
私が帝位を引き継いだ時に影の者が居るのと居ないのとでは、取るべき選択肢の数がまるで違うのだ。
父の焦りはそのまま私へと引き継がれてしまった。
飛空艇の秘密は簡単には明かされないだろうと思ってはいる。
しかしながら、古代遺跡や遺物が自分の手元にあるのか、敵対する勢力下にあるのかで、国際情勢が全く異なるのである。
仮に、何年か後に飛空艇の秘密が解かれ、ジェスタで飛空艇が建造されるようになったなら、これまで拡大してきた帝国の勢力圏が意味をなさなくなる。
古の神話では飛空艇が空から都市に攻撃を加えたという。
情報では飛空艇に武器の類は無かったと言うが、限定的な情報故当てにはならぬ。
むしろ古代遺跡に武器の遺物もあって未だほこりにまみれている可能性すらあるのだ。
何しろジェスタ国でも遺跡に入ることのできる人物は、現状でファンデンダルク卿ただ一人ということがわかっている。
たった一人が古代遺跡の中の遺物を全て調べるなど簡単にできようはずもない。
だが、其処に誰か別の有能な研究者が入れるようになり、武器の遺物を見つけて再現できたなら、軍事力のバランスが決定的に崩れるのである。
我が帝国が、他国に屈する姿など見たくはない。
しかしながら起こり得る未来でもある。
我は何を為すべきか。
アラミスは、ファンデンダルク卿が千里眼やも知れぬと言って居った。
或いは今でもジェスタから我を覗いて居るやも知れぬ。
そうして危難が降りかかる恐れがあれば、或いは父の様に惨殺されるのかもしれぬ。
父は私室にて、国宝のアザンバルの小刀で喉を割かれて死んでいた。
殺害者は今もって見つかってはいない。
私はファンデンダルク卿若しくはその配下の者の仕業だろうと思っている。
だが、如何に厳重な警戒をしようとも彼らの侵入は防げなかったのだ。
アラミスとの会見が終わった直後、父は皇宮内の厳重な警戒を指示していた。
その厳重な警備が実施されている
この件は、帝国の民には知らされていない。
厳重な警護がなされている皇宮の中で皇帝が暗殺され、下手人が捕まらないなど、帝国の、いや、皇家の恥でしか無いからだ。
表向き、ポルトス皇帝は病で急逝したことになっているのだ。
ハイレルン二世は、ジェスタ国への侵攻は諦めていなかったが、事前に相手に露見せずに事を成就する方法がないかを模索していた。
◇◇◇◇
俺(リューマ)の新たな領地であるシタデレンスタッドに領民と兵士を順次移動させているのだが、ある意味では危険地帯であることから、移住者は希望者に限定している。
その一方で、冒険者ギルドに働きかけて、冒険者の一群がシタデレンスタッドを根拠地として魔境で稼ぐ可能性の有無を検討して貰ってもいる。
何しろ魔境と接している城塞都市だから、一歩外に出れば魔物とはいつでも遭遇できる。
まぁ、問題は彼ら冒険者が退治できるレベルの魔物かどうかといううことなんだが、その辺の判断は俺じゃなくギルド若しくは冒険者本人がすべきだろう。
これまで、エベレット子爵領とクライスラー男爵領には冒険者ギルドの支部があって、細々ながらも魔境の魔物を退治していた実績があったのだ。
但し、俺がこの二つの領地の外側に水路を作って魔物の侵入を大幅に防いでしまったから、現状では、水路よりも東側の地域で残っている魔物討伐を行っているに過ぎず、時間を置くに従って討伐回数は減少しているようだ。
当然のことながら、錬金術・薬師ギルド、商業ギルド、魔法師ギルドなど主だったギルドには声を掛けて、シタドレンスタッドに事務所や支部を開設するなら便宜を計らう旨を伝え置いた。
因みに、教会関係者は声を掛けずに放置している。
必要があれば向こうから声を掛けてくるだろう。
教会関係者は、人一倍身の安全には留意する者達だから、教会が自らの意志で教会の施設を造り、司祭や司教を派遣するなら、敢えて俺は止めないつもりだ。
但し、邪教や妙な信仰をする団体は領主として排除するつもりでいる。
で、そのシタデレンスタッドには、兵士200名ほどと領民200人ほどが先行して生活を始めていた。
耕地は城塞の中にあってそのまま耕作が可能になっているから、最初に移住したのは農民が主であった。
当然に将来が読める商人は、先を争うように小さな店を出店し始めている。
何しろ広さだけ見たら有力侯爵の領都にも匹敵する大きさである。
しかも噂のファンデンダルク卿が自ら開発した城塞都市であり、カラミガランダやランドフルトに存在する様々な生産職も順次進出する予定と知って、動かない者はある意味先が読めない者だけなのだ。
こうして、シタデレンスタッド建設からわずかな時間のうちにも、人口は二千名を越えようとしていた。
これは住居地がある程度確保されていることが大きい。
しかも上水道や下水道は整備されており、道路も立派なものが整備されている。
そこに私財が運び込まれ、家並みができるのにさほどの時間はかからなかったのである。
早い時点で、追加の兵士達とともに行政官僚10名ほどを送り込んでいたのだが、そのリーダーであるハンセンから急報を受け取ったのは厳冬の頃だった。
件のハンセンにもセルフォンを渡しており、緊急時には連絡せよと言っておいたのだった。
ハンセンが急報してきたのは意外なことだった。
巨大なドラゴンがシタデレンスタッドの上空に飛来し、市内上空を数回旋回した後、東南東方向へ向かったというのだった。
シタデレンスタッドから東南東方向と言えば、カラミガランダとラドレックのある方向だ。
直ぐに俺は、領内の騎士にドラゴン襲来を伝え、緊急配備を令した。
但し、攻撃を受けない限りはこちらから仕掛けるなとも厳命した。
いくら鍛えた騎士連中でもドラゴンが相手では歯向かうだけ無駄だ。
ドラゴンが襲撃してくるなら防御を構えるしかないが、出来れば何もせずに去って欲しいところだ。
俺も万が一に備えて、領主館の敷地北東端にある草原に布陣している。
嫁s及び婚約者は、子供を連れて全員を新館の地下シェルターに入ってもらっている。
仮に旧館や新館が焼き払われてもシェルターだけは残るはずだ。
で、俺は索敵をしているわけだが、当然に俺の定点監視衛星にドラゴンが最初に引っかかったよ。
距離はおそらく100キロを超えているだろうな。
しかしながら猛烈な速度で近づいているのが分かる。
脳内センサーによる驚異度は不思議なことに黄色っぽいオレンジだ。
赤じゃないから完全な敵ではない。
しかしながら友好的でもないから微妙だな。
間もなく、俺の肉眼でもドラゴンの姿が上空に捉えられた。
ドラゴンの進行方向から俺の居る場所は少しずれていたんだが、50キロほど離れた場所からは進路を変えて、まっすぐ俺の方向に向かって来ている。
何でだ?
俺が敵と認識されたのか?
だが、相も変わらずセンサー内のドラゴンは黄色っぽいオレンジのままだ。
そうして俺に近づくにつれ、速力が落ちた。
俺の目の前100mほど先の上空にゆっくりと羽ばたかせて浮かんでいる漆黒のドラゴンが居る。
で、俺は何をどうすればいいんだ?
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