7-4 フレデリカの面倒事 その三
三日後、俺とフレデリカはジャックに見送られながら密かにファンデンダルク王都別邸を発った。
無論、脚は例の非武装の飛空艇である。
この飛空艇も例の時空間領域に潜航できるようにしており、王都別邸の俺の工房に一旦出して、フレデリカを搭乗させ、俺が亜空間(インベントリじゃないよ( ̄▽ ̄))に飛空艇を収納して、そのままインビンシブルをかけて飛行魔法で王都上空へ上がり、一旦王都郊外へ出てから人目に付かない場所で乗り込み、飛空艇を稼働した。
ジェスタ国王都ジェスゴルドからシュルツブルド国王都ドラシルまでは直線距離で2000キロほどだ。
この惑星(ホブランド)、実は地球よりも少し大きくてね。
直系が1万6千キロほどある。
地球の1.25倍ほど大きいのかな?
その分重力も増しそうなもんだけれど、体感的にはあまり変わらないのは、もしかしてホブランド世界の方が、重金属の含有量が少ないのかもしれないね。
まぁそんなこんなで、略南東方向2000キロ超にあるシュルツブルドとは時差が1時間ほどある。
飛空艇なんだけれど、今回が初めての試験飛行という訳でもない。
これまでも何度か内緒で試験飛行をしている。
試験飛行で確認できたのは上昇能力はほぼ限界無し。
気密構造で宇宙空間へも飛び出せるが、宇宙船としては遅いし、船外活動ができないんで必要がない限りは宇宙へは出るつもりもない。
搭載容量は、最大積載重量20トン以上、こいつは岩を積み込んで確認した。
20トンまでは十分行ける。
俺自身がインベントリもあるし、亜空間倉庫に収容もできるから最大積載量については、俺が使う限り余り意味は無い。
搭載人員の方は座席数から言えば10名かな?
尤も、ラッシュアワーの電車みたいに押し込めば100人は行けるだろうと思う。
一応リゾート用のクルーザータイプを考えて、キャビンを若干改造している。
バストイレ付、キッチンもあるし、リビングエリアと三つの寝室もある。
まぁ、飛空艇で世界旅行も悠々とできる筈だ。
最大速度は凡そだが毎時3500キロ、マッハで2.8ぐらいにはなるのかな?
但し、音速以上で飛ぶと衝撃波が生じるので音速を超えるのは高度2万メートル以上に限っているかな。
今回も高度2万ビロに取っている。
ビロというのは古代の距離単位で、1,25m程度かな?
多分、ホブランドの惑星の大きさから割り出した長さじゃないかとは思っているが詳細は不明。
まぁ、ぶっちゃけ二万五千メートルの高度を時速約2000キロ超で飛んでいるから、シュルツブルドには概ね一時間で到着できるわけだ。
で、ドラシル郊外の人気のない場所に降り立ち、徒歩でドラシルに向かった。
ハウザー名誉顧問には夕刻までにはと言ったけれど、ドラシルの城門前に到着したのは昼前(アラ一の時)の事だった。
前日に王宮から連絡は来ていたけれど、流石に慌てた門衛達だったが、ハウザー名誉領事の許可証を確認し恭しく王都内への入域を認めてくれた。
但し、目付が付いた。
まぁ、これは止むを得ないかもしれない。
何しろ通常ならば100日以上かかる距離を僅かに三日以内(ハウザー名誉領事に通報してから三日目)にこなして到着した危険人物だ。
普段ならば見下すヒト族だが、流石にこの実力は無視できない。
まして同行しているのがほぼ40年に渡って行方知れずだった第二王女である。
不敬があってはならないのだ。
警護かつ監視のために4人もの衛士をつけられた。
俺とフレデリカが最初に訪れたのは、レグエム宰相のところだ。
第二王女の永の無沙汰を詫びるなら王宮なのだろうが、それは後回し。
先ずは調査確認を行わなければならない。
レグエム宰相はエルフとすぐにわかる面立ちをしていた。
但し高齢である筈だ。
フレデリカは126歳の筈なのにどう見ても20代前半にしか見えないが、レグエム宰相の外見は50代後半に見える。
こそっと鑑定を掛けたら、じろっと睨まれた。
やはり鑑定は高位の魔術師にはわかる者らしい。
まぁ、お互い様だ。
因みに鑑定をかけて来たのは向こうが先だ。
俺は勿論宰相の鑑定を撥ねつけたが、宰相の方は俺の鑑定を撥ねつけられなかったようだ。
宰相のお年は1371歳だった。
うーん、俺の先祖を何代遡ればいいのかな?
宰相さんが生まれた頃って少なくとも飛鳥時代ぐらいなのかな。
あ、違った。
こっちの時間は地球の時間の20分の一だっけ。
だから地球時間で換算すると二万七千年以上も前に生まれた人物だよ。
うーん、地球では先史時代なのかなぁ。
縄文も始まっていたかどうか・・・・。
挨拶を交わすと間もなく、高飛車に出てきましたねぇ。
「ファンデンダルク卿がフレデリカ王女をお連れしてきたということは、王女をお返し願えると理解してよろしいな。」
「いいえ、今回フレデリカ王女をお連れしたのは、聖樹ユグドラシルの意図を確認するためです。
その調査確認の結果次第では王女をお返しすることもやぶさかではございません。」
「ユグドラシルの確認などエルフ以外の者にできようはずもない。
それはこちらで行うのでまずは王女をお返し願いたい。」
「これまで数千年もの間ユグドラシルのお告げが聞けなかった貴方方で何を調べることはできますのかな?
王女の庇護者の一人としてお断りします。」
「我が国と対立して生きてここから出られるとお思いか?」
「ええ、必要ならいつ何時でも退去できますが、用件を済ませてからにします。
で、武力に訴えるというなら、この王都が廃墟になる覚悟をされるように願います。
これでも私はジェスゴルドの英雄と呼ばれています。
私と王女の身体を守りながらこの王都を灰燼に帰すことは簡単にできますよ。
ユグドラシルの加護があろうがなかろうが・・・。
ついでに申し上げておきますが、ユグドラシルの加護である結界の強度がかなり落ちていますね。
王都郊外では結界の力がほとんど感じられません。
ユグドラシルそのものの力が衰えているのではないですか?」
レグエム宰相が血相を変えた。
「部外者のファンデンダルク卿が何故それを知っている。」
「先程、王都城門に至る前、街道を少し歩いてきましたからね。
城門から5ケールも離れると結界がかなり弱まっているのがわかります。
これでは30ケールも離れると魔物の侵攻は止められない筈ですが、魔物への対応は如何しているのですか?」
「我が国の施索について部外者に語る舌は持たない。
干渉しないでいただきたい。」
「フム、内政干渉に当たるなら敢えてお聴きしません。
で、ユグドラシルの御前に行くのは許可いただけますか?」
「む、・・・・。
本来であれば部外者をユグドラシルに近づけさせることは以ての外なれど、外宮までなれば特別に許可を出そう。」
「本当はもっと聖樹に近づける場所が良いのですが駄目ですか?」
「外宮より内側の領域は国王陛下と巫女以外は入れぬ場所じゃ。
其方にも王女にも到底許可できぬ。
外宮までならば、婚儀の礼で一般のものも出入りする故、特別に許可するのじゃ。」
「わかりました。
では外宮までの許可をお願い申します。
外宮での調査結果については、後刻宰相にお知らせに上がります。」
「相分かった。
案内と警護のため衛士を増やす故、心して参るように。」
結局4人の衛士に更に12人も増やされて、俺とフレデリカを含む18名は団子になってユグドラシルの外宮に向かった。
ユグドラシルの外宮はユダヤの神殿に似ているかもしれない。
中央に巨大な聖樹ユグドラシルがあって、その周りを巨石の壁が取り囲む内宮がある。
内宮の外は掘割があり、その外側四方に広場があって更に掘割があり、それを取り囲むように外宮と回廊があるのだ。
聖樹ユグドラシルの高さは実に500mに達し、根元の幹の直径は優に60mを超える。
針葉樹ではなく広葉樹の一種であるため、樹の枝葉によって占められる傘の領域の径は非常に大きい。
その直径は、700m以上に達する。
こいつは俺が事前に予備の高々度偵察ドローンを使って確認したから間違いない。
内宮は略500m四方の大きさがあり、外宮は略1500m四方の大きさを有する城郭である。
つまりはユグドラシルを守るために作られた神殿であり城砦なのだ。
今、俺とフレデリカは外宮の主殿と呼ばれる場所から大きな戸口越しにユグドラシルを眺めている。
中心までは700m以上離れている筈なのだが、遠近感が物凄く乏しい。
何しろ梢の先端が見えないほど上にあり、樹容が桁外れに大きいので距離感がずれてしまっているのだ。
巨大な大きさの神殿に入った時に感ずる卑小感である。
自分がとにかくちっぽけな存在に思えてくる。
正しく雄大な景観である。
主殿から内宮に至る石板を敷き詰めた小径があり、内宮の入口へと一直線である。
内宮には誰もいない筈なのに、俺には500mほども離れた内宮の入り口付近に緑の衣装を着た者が見えた。
宰相の話では内宮に入れるのは王と巫女だけの筈。
では、俺が見ているのは誰なのか?
隣に居るフレデリカに聞いてみた。
「内宮入口に人が居るようだけれどフレデリカは見える?」
「え?
あら、本当だわ。
なんであんなところに人がいるのでしょう?
おかしいですわね。
あそこに入れるのは父王か巫女様以外にはいない筈ですが・・・。」
次いで、フレデリカは背後に控えていた警護の者に尋ねた。
「ムランドリア従士長、内宮入口に佇んでいる者は誰ですか?」
「は?
あの・・・、内宮入口とはどこの話でしょうか?
少なくとも正面に見える内宮入口周辺には人影は見当たりませんが・・・。」
「あら、貴方には見えないの?
他の従士の方達はどうですか?」
フレデリカの問いに対して警護についている者は一様に首をひねる。
彼らには俺とフレデリカの見える者が見えていないようだ。
ひょっとしてと俺には思い当たる者が居た。
で、改めて500m先の人物を遠眼鏡でよく見ると、当該人物は濃い緑の髪の女性である。
しかも薄い緑の衣装を身に着けているので全体に緑色に見えるのだ。
その女性がこちらを見て手招きをしているのがわかった。
それならば行かずばなるまい。
俺は小声で指示し、フレデリカと手をつないだ。
そうして500m先の女性の元へ空間転移で飛んだのだ。
俺たちが居た場所では当然に騒ぎが起きていた。
今の今まで目の前にいた人物二人が突然消えて内宮の入り口近くに忽然と現れたのである。
警護の従士たちは追いかけたくても外宮から中の広場に入るには予め許可が必要であった。
そもそもが、外宮から中に入るには内宮主殿から伸びる一本道の橋で掘割を渡るしかないのである。
従ってその橋の入り口を抑えていれば、これまでは何も問題は無かったのである。
掘割に無理やり侵入した者は掘割の中で捕まえることもできる。
掘割の岸辺は切り立っており、人が上り下りできる構造にはなっていないのである。
掘割の侵入者を捉えるための船は橋のたもとに用意されていた。
だが、生憎と内宮前面の広場及び内宮へ不法侵入した者を捉えるようにはなっていなかったのである。
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次回予告、「フレデリカの面倒事 その四」です。
7月20日、一部の字句修正を行いました。
By @Sakura-shougen
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