6-5 魔境対策を含めた色々

 エステルンド滞在中は主として土木工事で忙しかったわけだが、今回の魔境訪問の目的の一つでもある王都別邸の騎士連中の訓練も1日に一時間ほどは実施したよ。

 俺が適当な魔物を見つけて、亜空間に捕獲しては、小砦内の訓練場ならぬ広場で騎士たちに退治させるわけだ。


 少々の怪我は覚悟の上で、徐々に魔物の強度を上げて行った。

 まぁ、僅かに10日程度の期間だが、エステルンデ砦の守備隊をやや上回る程度には練度が上げられたかもしれない。


 ◇◇◇◇


 エステルンド砦というか、ファンデンダルク小砦というか、そこから王都へ戻ると、マリア・ヘイエルワーズ嬢、ケリー・コーレッド嬢、エリーゼ・ウェイン嬢の三人の輿入れが順次始まった。

 コレットとシレーヌの輿入れの際は、同時に式を挙げたのだが、三人は別々の輿入れを希望してきたので、三回に分けて輿入れというか結婚式というか、一応の儀式をやった。


 側室であっても、貴族においては輿入れの儀は、大切な一族の固めの儀式であり、省くわけには行かないらしい。

 正室コレットの場合はシレーヌと一緒に式を挙げたのだが、今回はよくわからない理屈で三度の輿入れを強要された。


 何でも側室が正室と同時に輿入れする場合は慣例上許されるのだが、複数の側室が同時に輿入れすることは貴族社会において禁忌となるらしい。

 日を違えれば良いらしいので、三日おきに輿入れの儀があったわけだ。


 当然、その度に王都の教会に行き、司祭からの託宣を受け、別邸に戻って披露宴を挙げ、お床入れの儀式という一連の流れがあったわけだが、まぁそれから三日間はほぼベッドに缶詰め状態だな。

 マリア、ケリー、エリーゼにとっては、それぞれ三日ずつだが、俺にとっては連続九日間だよ。


 干からびるかと思ったが、意外と俺は強かった。

 ステータスの称号に何故か変な文字が出ちゃったよ。


 「絶倫男」って、なんかちょっと怖くないすか?

 まぁ、新たな側室たちはそれぞれに満足していたようだからいいけれど。


 で、更に半年後に側室候補カナリア嬢を迎えたなら、俺は領地の方を根拠地にすることになるので、そのための準備を少しずつ始めていた。

 領地滞在が主体になれば王都別邸にはたまに来る程度になるのだが、領地で20日前後の滞在、王都で7日前後の滞在に変わるだろうし、三年に一度は王都で一月余りを過ごすのが領地持ち貴族の習いらしい。


 但し、王族の親族となったリューマの場合は、三年に一度ではなく、年に一度の王都参詣が招請され、その際は、馬無し馬車は使えない。

 まぁ、厳密に言えば、馬無し馬車を使ってもいいけれど、途中の宿場町には必ず立ち寄ってノブレス・オブリージュで散財しなければならないのだ。


 で、王都参詣には多分に貴族としての見栄もあるらしく、メインは見栄えの良い馬車仕立てになる。

 馬無し馬車は、格好はいいけれど外見上やっぱり殺風景なんだよね。


 その点馬車仕立ては華やかさがあるんだ。

 当然に馬無し馬車での護衛も参加するんだが、俺や妻達は馬車での移動を余儀なくされる。


 絶対に快適性で勝るから馬無し馬車の利用について、ジャックとフランチェスカを相手に結構頑張ってみたんだが、結局は言い負かされたよ。

 決まり文句の一つである伯爵としての尊厳云々、領主としての威厳云々をダシに使われては反論の仕様も無い。


 その上更に正室コレットとシレーヌ達側室四人が一様に口を揃えて同じようなことを言うのだから、俺の言い分が通るわけもないよな。

 貴族ってのは、本当に面倒いよ。


 俺は伯爵になり立てだけれど、王都参詣には正室に側室まで連れて行くのが慣例となっているからその従者や警護役まで含めると結構大所帯になる。

 このため小さな宿場町では、警護の騎士その他が野営をせざるを得ない場合もあるようだ。


 王都参詣は家族同伴が原則だけれど、子供ができた場合は、幼い嫡男とその母親は領地に置いてくるらしく、次男以下の子供については、半数ほど連れて来るのも慣例らしい。

 尤も、貴族社会の慣例で子供が十歳になった時点では、嫡男を含めて王都にある王立学院に入学させなければならない。


 この王立学院の卒業が子供たちの社交界デビューともなるのである。

 いずれにせよ、王都参詣途上の宿泊だけでもかなりの金額を途中で落とすことになるんだ。


 そのことが貴族の義務とも思われているから、王都参詣でショートカットはできないんだが、年に一度の参詣以外の往復に際しては、ショートカットも許されるので、馬無し馬車での利用も当然に許される。

 俺が王都を拠点にしている間は、側室候補との逢瀬の問題もあって例外的に馬無し馬車による領地往復が許されているわけだ。


 現実問題として、俺が領地に居ない間にも、他の貴族たちが参詣途上のヴォアールランドやラドレックを訪れて泊まって行き、相応の金額を落としていることを承知しているから、俺もそうしたノブレス・オブリージュは避けて通れない。


 ◇◇◇◇


 領内統治と魔境対策の一環で大型ドローンの制作を始めた。

 最初に作り上げた魔道具のドローンは小型だし、手軽でいいのだが、実のところ整備補修等に結構手間暇がかかる上に機体そのものがぜい弱だ。


 飛行型魔物に見つかれば一撃で破壊されてしまうし、その壊れた部品が錬金術師などに見つかると先進技術の漏洩の恐れもあって、国内外で大騒ぎになる恐れが高い。

 魔境の異変に対応するためには、細部に渡って継続監視をしなければならないので、そのために監視機能を強化した大型のドローンを密かに製作するつもりなのだ。


 これには飛空艇の技術が大いに役立った。

 直径4mの円盤状で、アダムスキー型UFOに若干似た形だが、無人なので厚みが少ないのが特徴だ。


 こいつの存在を公表するつもりはないから、地球にある各種センサーを積極的に取り入れた。

 どちらかと言うと、ドローンというよりも高々度定点監視衛星に近い。


 それなりの速度で移動もできるのだが、俺としては今のところこの世界全部を監視するつもりはない。

 主として領内及び魔境の上空で各種センサーによる継続監視をしたいだけなのだ。


 それにより異変を事前に察知できるかもしれないからな。

 一機造ってしまえば、当然複製もできるから、当面二機を稼働させて、予備をインベントリに保管することにしているが、余程のことがない限り予備機は使わないつもりでいる。


 まぁ、年に一度程度の車検ならぬ機体点検は必要なので、その際には予備機を稼働させるつもりだ。

 監視データーは、今のところ俺の持つ最新型デスクトップパソコン(日本で手に入れた特別製で店頭価格はパソコン単体で250万円を超えていた。)に分析させ、表示できるようにしている。


 俺の工房の地下にある中央監視室でしか見られない情報だ。

 これは、リサも含めて嫁sにも内緒だよ。


 信用していないわけじゃないが、秘密を持つとその分精神的に負担がかかるのは事実だから、嫁sに無用の負担はかけさせたくないというのが俺の考えなんだ。

 それでも、必要な時が来れば、真っ先に身内の嫁sや娘、それに一部の使用人達には俺の秘密を打ち明けることが必要かもしれない。


 次いで考えなくてはならないのは、魔境に建造した城砦の維持だ。

 当面、東進を阻む水路の建設により、魔境から魔物が漏れてくることは防いだが、その分或いは他国に影響を及ぼしている可能性もある。


 今のところは他所の心配はできないので無視しておこう。

 援助要請があった場合には別途検討することにする。


 新たに建造した城塞都市の大きさは実に200平方キロを超える。

 大きな領都ぐらいはあるであろう。


 その城砦を守るには、本来ならばエステルンド砦の守備兵の数でも足りないかもしれない。

 但し、そんな数の兵力を持ってしまったら、貴族間の兵力バランスが崩れてしまい、王宮からお目玉を食らうだろうね。

 

 だから精々俺の領兵程度の数で納めなければならないだろう。

 常識的には、多くても、いいところ千名ぐらいなんだが、そんな数で城砦を守れるのかと心配にもなるけれど、多重結界で守られたこの城砦を落とすには10万の兵力でも足りないだろう。


 むしろ籠城した際の武器の製造支援、食糧の自給自足等でこれだけの広さのものを造ったんだ。

 従って、当然に城砦の中には生産職の職工や農民それに商人も入れるつもりでいる。


 そのために俺の領内で選別をしなければならないだろうと思っているんだが、まぁ先の長い話だよな。

 それよりも、新たに魔境内にデカい城塞を造ったことを正式に報告しなければならないだろうから、そちらの方がむしろ面倒ではある。


 放っておいても、どうせエステルンド砦の騎士団長である子爵から王宮あてに報告が行くはずだ。

 王宮から魔境の開発自体は俺に許されているから問題が無いのだが、問題は隣接する男爵領と子爵領か?


 領地の外とはいえ、目の前にデカい水路を造られ、領地そのものに境界を設けられたようなものだから、どう出て来るかだ。

 魔物襲撃という窮地を助けられて恩に着るか、それとも我欲を前面に押し立てて自分にも領地を分け与えろとか言って来るかどうかだな?


 その対応も考えておく必要があると思っている。

 普通ならば、魔物に押されてこれ以上の領地拡大も望めない状況だったから、そのまま現在の領地で満足して貰えば楽なんだけれど・・・。


 どうなんだろうねぇ?



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  次回予告「王宮への報告」


 整合性を保つために<王都参詣の機会>について修正しました。

  (2021年7月15日)

 読者のご指摘により一部の字句修正をいたしました。

  (2022年9月12日)

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