3-14 王都滞在中の出来事 その十(再々度の陞爵予定)

 国王陛下からも色々な質問が出たが何とかしのげたのじゃないかと思う。

 但し、国王が最後に発した言葉が問題だった。


「宰相、先般の黒瑠璃くろるりの宝冠の件は、表沙汰おもてざたにできぬ成果だった故、そなたが言う様に男爵への陞爵でとどめることに了承を与えたが、その分を含めて此度の働きは子爵を超えて伯爵に陞爵すべき案件と思うが其方は如何に思う?」


 ウェイド宰相が答えた。


「陛下の仰せ、如何にもごもっともにございます。

 先般の一件では、紅綬こうじゅ褒章ほうしょうに値する大功ありとは言えど、准男爵からの陞爵で男爵を飛ばして子爵への特進陞爵は、詳細を公表できない以上如何にも問題ありと考えましたが、此度こたびは別格。

 国軍挙げての奮戦でもまず防げまいと思われた黒飛蝗くろひこうの直撃襲来、王都滅亡もありえたところを見事に殲滅して見せた勲功は誠に絶大なるものがございます。

 既に領地持ち男爵への陞爵が決まった上での更なる特別昇進なれば貴族院も納得いたしましょう。

 それがしも、伯爵への陞爵について賛同仕ります。」


「ふむ、なればそのように計らいなさい。

 期日は明後日で間に合うか?」


「陞爵のみならず、相応の領地選定とシャルル宝冠殊勲大褒章の準備もありますれば、出来ますれば五日の御猶予をたまわりたく。」


「そうか。

 確かに紅綬褒章だけでは済まぬのだな。

 最高位の殊勲大褒章の授与も当然か。

 相分かった、ではこれより五日後に褒章授与と陞爵の儀式を行うようしかるべく取り計らえ。」


 あのぅ、本人としてはあんまり褒章とか陞爵とか要らないんですけれど・・・。

 本人の意向ってこういう時は確認しないんですよねぇ。


 俺の埒外らちがいでのやり取りで、どうやら伯爵への昇進、伯爵領の選定、紅綬褒章とぼう殊勲大褒章の授与が決まってしまったようです。

 で、准男爵は貴族と言いながらも平民扱いだったから、問題無かったのだけれど男爵以上の爵位への陞爵となると、実は貴族としてのお披露目が必要となるんです。


 この件は、宿に戻ってから念のため女将さんに色々尋ねてわかりました。

 当然のことながら領地にもお屋敷は必要ですが、王都にも屋敷が必要なんですって。


 フレゴルドの屋敷どうしようか?

 あれってアリスの思い出の屋敷だから売り飛ばすわけに行かないし、アリスをっぽといて俺たちだけが転居するわけにも行かないよね。


 二重生活ならぬ三重生活をしなけりゃならないのかなぁ?

 こりゃぁ、「将来的には」って考えていた転移魔法なんか色々試してみにゃならんねぇ。


 とてもじゃないけれど、領地にフレゴルド、それに王都の三か所を行ったり来たりじゃマッタリできないじゃん。

 何となく目標に考えていた「目指せ、俺のマッタリライフ」はどうなる?


 いや、俺この異世界に来た時からマッタリライフを楽しもうって考えたんで、そのためにも頑張らにゃ。


◇◇◇◇


 毎度毎度、王宮お仕着せの衣装で参内するのも何となく気が引けたので、例のテイラーさんを呼んで、新たな衣装を造ってもらうことにしました。


 前回は平民が王宮へ参内するための衣装、今回は貴族として伯爵への陞爵をするための衣装と説明したら、件の衣装師とっても張り切ってくれました。

 本来であれば七日以上はかかるところを三日で仕上げてくれるそうです。


 今回は、参内用の衣装、晩餐会の衣装、舞踏会の衣装が各二着ずつで、締めて白金貨三枚(うーん、ひょっとして六千万円ぐらいになるのかな?)で、偉く高いものにつきました。

 まぁ、うまくすれば褒章にはまた報奨金がついてくる可能性があるし、なければ幼女神様からもらった宝石類を売っ払うつもりでいるよ。


 前回、借金奴隷を買う際に小さな宝石二個を売っただけでも結構な金額になったからね。

 もう少し大きめの宝石を売ったなら、かなりの金額になるんじゃないかとみている。


 それで足りなけりゃ、薬師と錬金術師で稼ぐしかない。

 でも伯爵相当の王都の屋敷はきっと高いぜ。


 なにせ、敷地だけで6万ベード(約16.4万㎡≒5万坪ぐらい?)が必要なんだから、大変だぁ。

 江戸時代の加賀藩とか水戸藩とかが10万坪の江戸藩邸を持っていたのでその半分ぐらいかな?


 因みに後楽園のある小石川にあったのが水戸藩邸。

 東京ドームの建築面積が略4万7千㎡なので、東京ドーム3個半程度と言った広さかな。


 6万ベードって単純に言って400m四方ぐらいだもんね。

 大きな学校がすっぽり入るぜ。


 土地を買うだけでも東京なら数千億円かな?

 ホブランドだって紅白金貨が何枚居ることやら。


 伯爵様ってそんなに実入りがいいの?

 何となく心配しちゃうよ。


 シレーヌ嬢の実家の王都別邸は確かに大きかったし、使用人も多かった。

 あれだけ雇うって結構なお金がかかるよね。


 うーん、購入費用に、維持費、人件費まで・・・。

 一体いくら用意したらいいのかな?


 それに女将さん曰く、伯爵昇進のお披露目も早い時期にしなければならないらしい。

 遅くても陞爵から六か月以内と言うのが暗黙の了解としてあるそうな。


 これって結構大変だよね。

 家を購入して、使用人を雇って、披露宴の準備をしてって・・・。


 俺、王都を暫く離れられないんじゃないの?

 それに多分領地経営だってあるだろうし・・・。


 うわぁー。

 とんでもないドツボにはまったみたいだよ。


 こりゃぁ、誰か面倒見のよさそうな貴族とかを見つけないと絶対に困るぞ。

 そもそも、ホブランドの世界をろくに知らないド素人が上級貴族になるのが間違っている。


 まぁ、今更、どうしようもないけどね。

 それと宿に戻ったら、伝言が入っていた。


 冒険者ギルドのギルドマスターからだ。

 明日の朝にでも冒険者ギルドに顔を出してくれとのこと。


 王宮への報告事項をギルドマスターにもう一度しなけりゃならんのかもしれないな。

 俺の方もギルドマスターにお願いして、フレゴルドの冒険者ギルドを通じて、帰宅が遅れることを自宅で待つアリスや使用人達に通知してもらおうと思うのだ。


 冒険者ギルドのネットワークでできなけりゃ手紙を出すしかないけれど、多分郵便制度なんて立派なものは無いよね。

 精々が飛脚か駅馬車宜しく荷物の搬送に合わせて送り届けてもらうだけだろう。


 途中で山賊や魔物の襲撃を受けたら不送達もありうるわけだ。

 それよりもギルド経由で伝達が可能ならば、そっちの方が確実そうなのでお願いした方がいい。


 ここのギルドマスターとは顔見知りになったし、それなりに貢献もできたから、便宜を図ってもらえるんじゃないかと淡い期待を持っているところだ。



◇◇◇◇ 王都冒険者ギルドにて ◇◇◇◇


 翌日俺は王都の冒険者ギルドを訪れた。

 俺が顔を出すと、すぐに奥にあるギルドマスターの執務室に通された。


「いよぉーっ、蝗魔こうま退治の英雄の登場だな。

 それにしても驚いたぜ。

 無数とも思えた黒飛蝗をたった一人で続けざまの大魔法を連発してほぼ壊滅させたかと思えば、その場で昏倒するんだからよ。

 一体何が起きたかと思ったぜ。

 慌てて警備隊北面本部に運び込んで待機していた治癒魔法師に見せたら単なる魔力の枯渇だって言われてなぁ。

 恥をかいてしまったぜ。

 何だよ、お前。

 魔力が枯渇しそうだったら渡しておいたポーション飲めよ。

 そのために渡しておいたんだぜ。」


 のっけからお小言を貰ってしまいました。


「すみませんねぇ。

 実は魔力の枯渇ってのも初めての経験だったもんで、自分でも加減が分からなかったんです。

 まぁ、無事に終わってよかったですけれど。」


「うん、まぁな。

 小言はともかく、お前さんが居なけりゃ王都全滅もありえた。

 王家に呼ばれていたらしいけど褒美が出たか?」


「はぁ、近々褒章二つと陞爵があるようです。」


「そうか。

 准男爵からの陞爵となれば男爵だな?」


「いえ、是非内緒でお願いしたいのですが、伯爵になりそうです。」


「伯爵ぅーっ?」


 そう言ってギルドマスターが固まってます。

 余程驚いたんでしょうねぇ。


「まぁ、色々重なったもんで二つほど飛び越えちゃったみたいです。

 で、ギルドマスターにお願いがあるんですけれど、いいですか?」


「おう、王都の英雄の頼みなら少々無理でも聞いてやる。

 何だ?何が欲しい?」


「フレゴルドのギルドと連絡を取って、俺の留守宅に二つ以上の褒章が絡んで帰るのが遅くなると連絡をお願いできませんか?

 手紙だと必ずしも届くとは限らないもので・・・。」


「ほう、考えたな。

 冒険者ギルドの連絡網を使おうとは・・・。

 普通は、その類のお願いは聞けないんだが・・・。

 ほかならぬ御前の事だ。

 フレゴルドのギルドマスターへの連絡を兼ねて伝えよう。

 お前の家は向こうのギルドで知っているのか?」


「うーん、ひょっとしたら知らないかもしれません。

 住まいの届け出をしているわけじゃないですから。

 でもグラデス街の元幽霊屋敷と言えば多分わかります。

 その家に居る使用人で、執事のトレバロン、メイドのラーナ若しくはイオライナに伝えてもらえばいいかと思います。」


「ほう、執事にメイド二人も抱えているのか?

 冒険者にしては贅沢だな?」


「ええ、まぁ。

 錬金術師と薬師も兼ねていますのでそれなりの収入はあるんです。

 ただ、これから上級貴族になるとなるとかなり持ち出しが心配です。」


「おお、そういや、そうだな。

 伯爵ともなれば領地以外にも王都に邸を持たにゃならんが、王都は高いぞ。

 当てはあるのか?」


「いいえ、全くありません。

 この後商業ギルドに相談してみるつもりです。」


「フム、商業ギルドなぁ・・・。

 確か商業ギルドで扱っているのは精々子爵どまりの屋敷じゃねぇかな?

 伯爵以上の屋敷ともなれば高額だからな。

 手持ちで広い空き屋敷を持っているのはちょっと効率的じゃないんだ。

 まぁ、しがらみで押し付けられて持っているような場合もあるらしいが・・・。

 実は、貴族相手には専門の不動産屋が居るんだ。

 王都では二人いるが、一人は手堅いが扱っている邸はかなり高い。

 もう一人は、比較するとかなり安く購入できるらしいが、どっちかと言うとやばいやつを扱っているらしい。」


「うん?何ですか?

 そのやばいというのは・・・。」


「あぁ、まぁ、貴族っちゅうものは内外に敵が多くてな。

 恨みを買いやすいらしい。

 で、それやこれやで非業ひごうの最期を遂げた者が屋敷にたたる場合があるらしい。

 祟る方は、関係者や使用人も居れば、貴族本人やその家族もあるらしいが、いずれにしろ結構長い間祟って出るらしいぜ。

 そういった祟りの有る屋敷や土地を二束三文で買い取って、無理やり除霊して売り出すのが商売の男でな。

 人格はさほど悪くないと思うし、やり手ではあるが、あまり世間の評判は良くない。

 一応の除霊は済んでいてもそういった屋敷は祟られやすいらしく、その男を通した不動産は何故か廻り回ってその不動産屋に戻るらしい。

 噂ではその不動産屋が呪いをかけてるんじゃないかと言う話さえある。」


「へぇ、王都にはそんな屋敷や土地がたくさんあるんですか?」


「王都でも貴族街は古い土地だからな。

 曰く因縁付きの土地邸は、俺が知っているだけでも片手じゃきかないな。

 その因縁の不動産屋はアーマレイドという男だが、その男でもどうにもならない屋敷としては、元ダンケルガー辺境伯邸とブランディット旧伯爵邸が有名だな。

 特に元ダンケルガー辺境伯邸の方は50年以上も空き家になっていて、正しく呪いの館だ。

 ん?

 そういや、フレゴルドのお前の屋敷も元幽霊屋敷って言ったな。

 幽霊はどうした?」


「幽霊ですか?

 居ても仲良くすればいいだけの話でしょう。

 特に住むのに問題は無いようですよ。」


「ほう、そんなものか?

 なら、評判の元ダンケルガー辺境伯邸かブランディット旧伯爵邸を手に入れてみるか?」


「いやぁ、出来れば祟りの無い方がいいですよね。

 何せ、ねたまれやすいポッと出の新興貴族で、なおかつ若造にしかすぎませんから・・・。」


「ふん、それはまぁ、そうだな。

 俺も貴族社会はよくわからんが色々と派閥とか政治がらみの力関係があるようだぞ。

 お前は何となく世渡りはうまそうだが注意しろよ。

 まぁ余分な話はともかく、お前に確認しておかなけりゃいけないことが有る。

 実は今回の報奨金はまだもらってはいないんだが、成果で言うならお前がそのほとんどを貰えることになる。

 但し、黒騎士団を含めた王宮騎士団、警備兵、それに出張ったギルドメンバーにもなにがしかの恩賞を与えたい。

 冒険者ギルドで総取りという訳にもいかないんでな。

 いま、王宮や関係団体とも協議中だが、お前の了解が得られれば、出動したギルドメンバーに最低でも金貨一枚程度の恩賞を与えたい。

 掃討戦では脳筋どももそれなりに動いてくれたんでな。

 黒騎士団、青騎士団、近衛騎士団にそれぞれ金貨百枚、一番功績の高かった冒険者ギルドに金貨二百枚って割合でまとめつつある。

 このほかに王宮からお前宛に出る報償金は別物だ。

 参加者一人につき金貨一枚で総計132枚、残り68枚をお前の取り分としたいんだがどうだ?」


「今後のための慰労金であればそれでいいのじゃないですか。

 次に同じようなことが起きた場合に参加を促すための指標になればいいでしょう。

 俺に割り当てる68枚の内18枚はギルドに預けますから次回以降の基金にでもしてください。

 今回は死者も居なかったようですけれど次はわかりませんから。」


「うむ、そう言ってくれるとありがたい。

 お前の成果を横取りするようで気が引けるんだが、お前が言った通り、今後の誘い水にしたいんだ。

 今回は、特に魔法を使える者で参加者が11名と少なかったからな。」


 俺もこれから金が必要にはなるが、おそらく入用な金は金貨単位じゃなくって紅白金貨の単位だ。

 金貨の百枚、二百枚程度なら、到底足りないのはわかりきっている。


 ならば、ここはギルドマスターに恩を売っておくほうが賢いだろう。


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