3-12 王都滞在中の出来事 その八(黒飛蝗の出現)
宿に戻ると王宮から知らせが届いていた。
従って、俺の王都滞在は更に四日以上延長になるのじゃないかと思う。
『もうこれ以上の延長は無いよね?』そう思う俺の本音にフラグが立った。
◇◇◇◇
翌朝、宿内が何となく騒がしくて目覚めた俺だったが、外は未だ暗い。
おそらくは
この世界に順応してしまった腕時計を見ると、7時51分をさして秒針が逆行中だ。
うん、間違いない。
元の世界で言えば
起きるのにはまだ早いのだが、
それによると、昨日の日没前に王都北西側の山地につながる荒れ地で大量の
発見した冒険者パーティの連中が夜通し駆けて王都に通報したのがほんの少し前のこと。
黒飛蝗がどちらに向かうかは今のところ不明だが、夜明けとともに活動を開始するので、万が一にでも王都に向かった場合は大きな被害が発生する恐れが高いので、王都住民は決して外に出ないようにとの緊急通知があったようだ。
黒飛蝗とはイナゴの魔物である
元の世界でも飛蝗は稀に発生していたが、これが発生すると国規模で農作物や樹木に大きな被害を与え、食糧難に陥ることが分かっている。
因みに、この世界の黒飛蝗はさらにえげつない。
体長が15センチから20センチほどもあるデカい虫の魔物だし、植物だけじゃなく肉にも見境なくかぶりつくから恐ろしい。
従って、庶民の対策はほぼ一択、全ての隙間を目張りして、家の中や洞窟に籠るしか無いらしい。
王都ではその対策のために近衛騎士団、王都騎士団、王都警備隊の中から魔法を使える者を緊急招集しているほか、冒険者ギルドにも通知して同じく魔法職を待機させるよう要請したらしい。
女将に聞くと過去の事例では、王都城壁に無数の
こいつは何とかせにゃならんのだが、俺に何ができるか?
相手は空を飛ぶ魔物だし、ほぼ無数に近い。
一億って数は、一から言葉で数え初めたら3年以上はかかるって膨大な数だ。
その数倍から数十倍って話だから個別に対応していたんじゃ到底間に合わない。
こういう時こそ大規模な広域殲滅魔法がいるよね。
魔法創生で何か作れないか?
俺はロビーの椅子に座ってじっくりと考え始めた。
風魔法は?
単なる「風刃(ウィンド・シックル若しくはウィンド・カッター)」じゃぁ、無数の虫相手じゃだめだよな。
「テンペスト」って、暴風だっけ?
でも単なる暴風だけじゃ飛ばされるだけで殲滅できない。
砂塵混じりのテンペストなら?
ついでに雷様も混ぜちゃうってのもありかな?
もう一つおまけに暴風雨じゃなくって竜巻かな。
俺に複数の魔法の同時行使がコントロールできればいいんだけれど・・・。
こればっかりは、テストができない。
魔力がどれだけ持つかわからないから、ぶっつけ本番でやるしかないだろう。
シレーヌも多分
でも確か火魔法はLv2で、魔力は20未満だったから、余り期待はできないだろうな。
俺の魔力は現状で700を超えているし、闇属性(Lv4)と雷属性(Lv5)が比較的低いけれど、残りは全部Lv8以上だから色々使える筈。
そうして俺は*ur*face Noteとケミカル関連のデータを収めているSDカードで若干の調査を始めた。
液晶画面を眺めている俺を見て、宿の従業員たちが何やら不思議そうな顔で見ていることに気づいていたが、今は時間が惜しい。
四半時ほどで調べ終わり、俺は立ち上がってまずは冒険者ギルドに向かう。
情報収集のためだ。
こんな非常時の情報は王宮と冒険者ギルドに集まるはず。
先ずは敵の位置を確認しなけりゃ始まらん。
王都の冒険者ギルドも混乱の極みの中にあった。
そんな中に、壁にでかい地図が張られ王都北西方向に赤丸があった。
大まかな縮尺からすると概ね40ケールほど離れているのじゃないかと思う。
冒険者ならば8時間ほどで
因みに地球での飛蝗の場合、風と同じぐらいの速さで移動するらしく、一日に百キロから二百キロを移動するようだ。
こっちの世界の飛蝗も同じようなモノだとすれば、夜明けから動き出せば明日昼までには王都に到達する可能性があるわけだ。
風向きはと調べると、生憎と北西方向から吹いている。
こりゃぁ、最悪じゃねぇか?
冒険者ギルドの
冒険者ギルドでサブマスターの補佐をやってるコーデリアさんが居た。
ちょっと年増だけど中々の美人だよ。
先日俺が顔出しした時に、フレゴルドの冒険者ギルドマスターからの通達で、俺のことを知っていたし、色々と王都の情勢などを教えてくれた女性だ。
ギルドの事務所の奥で休憩なのか割合
「コーデリアさん、お疲れ様です。
情報収集に来たんですけれど、何か話してもらえることってあります?」
「うん?
あぁ、フレゴルド期待の星さんかい。
今度ばかりはあんたでも歯が立たないよね。
何せ億を超える蝗魔だから・・・。
一人の力でできる範囲を超えている。
軍隊ですら対応しきれない奴だからねぇ。」
「その蝗魔って奴の習性を教えて
肉でも葉っぱでも何でも
例えば蝗魔が嫌うモノとか、逆に好きなモノとかわかります?」
「蝗魔が嫌うモノ?
うーん、火とか煙なのかなぁ。
過去の事例では進路の端っこに当たる地域の農民連中は、
好物は、まぁ
そのほかにはメスが出す交尾のための臭いには滅法弱いらしいけど。
だから地上などで団子に固まっている場所には必ずメスがいるらしいという話だよ。
で、数年前だったか、黒飛蝗になる前の蝗魔を捕まえて錬金術ギルドでなにやら研究をしているとかいう話を聞いたことはあるね。」
「魔物には魔法に対抗する力を持っているヤツも居ますけれど、蝗魔の場合はどうなんですか?」
「あぁ、薄緑の普通の蝗魔でも黒みがかった飛蝗の蝗魔でも、普通に火魔法で簡単に燃えるからね、魔法に対抗する力はないよ。
むしろ、火魔法で燃え上がったまま跳ぶんでね。
周辺の建物なんかに延焼する方が怖いかな?」
「冒険者ギルドでも対応策を検討しているんですか?」
「対応策も何も、今回に限って言えば力自慢の脳筋連中はほとんど役に立たないからね、
精々、
主力は魔法使いだね。
特に火魔法。
ギルドから声はかけちゃぁいるけれど、元々冒険者の魔法使いは立ち位置が中衛か後衛だからねぇ。
守りの無い前衛で戦えるものは少ない。
尻込みして出てこないんだ。
配置として回されるのは多分城壁の上の最前線。
ただでさえ攻撃に弱いから蝗魔に襲われたらひとたまりもないだろう。
少しは結界魔法で防げるかもしれないが、魔力が尽きたら終わりだ。
飛蝗の襲来は短時間では終わらない。
最後まで魔力が持つはずもないんだ。
今集まっているのは両手にも満たない数だ。
ところで、リューマは火属性の魔法は?」
「一応ありますよ。
だから一応登録はしておいてください。
夜明け前には、ここに戻ってきます。」
「何だ?
し残したことでもあるのか?」
あれ?
俺、そんなことしないよ。
自慢じゃないけどまだDTだから
「いや、錬金術ギルドでも情報収集をと思いまして。」
「錬金術?
この時間に開いてるのかしら?
いや、緊急事態だから王宮の依頼で魔道具の放出とかやってるかも。
薬師の部門では、多分魔力ポーションの放出をしていると思うし・・・。」
「まぁ、取り敢えず行ってみます。
また後で。」
「うん、必ず来てよ。
待ってるから。」
俺は王都の錬金術・薬師ギルドへ急いだ。
特に、先ほどコーデリアさんから聞いた3年程前の研究がどうなったかを聞きたいからだ。
その間にも俺のインベントリの中で秘密作戦の準備を推し進めている。
結果から言うと錬金術・薬師ギルドでは左程研究は進んでいなかった。
但し、
今回俺が準備のために
このフェロモンと思しき液体の複製をするのだが、かなり複雑な有機物なので俺のインベントリの中の複製工場でもかなり進度は遅い。
無機物ならば比較的楽に複製もできるんだが、多分複製魔法の特性なんだろう。
いずれにしろ必要な情報は集まった。
俺のインベントリで準備が整うのを待つだけだ。
夜明けまで多分二時間ほど。
どれだけ俺の準備が整うかが勝負の分かれ目だ。
俺は冒険者ギルドに戻った。
ギルドは相変わらず混みあっていたが、実際に集まった魔法を使える有志はわずかの様だった。
サブマスターの声掛けでホールの片隅に集まったのは俺を含めて9名だけだった。
そこへギルドマスターがやってきた。
「皆、ご苦労。
王都の危機に際して良く集まってくれた。
今回ばかりはSランクであろうが魔法を使えないものはほとんど役立たずだ。
恐らく君らの結界魔法だけが身を守る唯一の手段になるだろう。
それも魔力が
集められるだけの魔力ポーションは集めた。
一人当たり30本、上級ポーションが5本、中級が25本だ。
これが切れたなら最寄りの待避所に逃げ込んでくれ。
飛蝗の真っただ中では入口の扉の開閉もままならなくなるはずだから引き際をよくよく考えて行動してくれ。
冒険者ギルドが任された配置は王都城壁の北西端に当たる看守塔だ。
他に王宮魔術師団からも二人ほど派遣されて来るらしいが、余り当てにはならん。
魔術師団の主力は、王宮内に配置されるらしい。
まぁ、それでもいないよりはマシだ。
俺とサブマスターも配置に入る。
締めて11名が今回の主力戦力だ。
で、一応、それぞれの得意魔法を聞いておきたい。
端から、名前と冒険者ランク、それに得意魔法の申告を頼む。」
「俺は、ガイゾル、Aランクで火属性魔法が得意だ。」
「俺は、ゼンダー、Bランクで火魔法と雷魔法が使える。」
「私は、ミーリャ、Aランクで結界魔法が得意。」
「俺は、マルコス、Cランクで火魔法が使える。」
「私は、ジーナ、Bランクで火魔法と空間魔法が使える。」
「俺は、クルーシア、Cランクで火魔法は得意だが、結界魔法も使える。」
「俺は、ロジャー、Cランクで火魔法だ。」
「俺は、ラスカル、ロジャーの弟だ。同じくCランクで火魔法が得意。」
「俺は、リューマ、Eランク、一応全属性の魔法が使える。」
ギルドマスターが眉をひそめながら言った。
「ほう、何か、毛色の変わった奴が居るなぁ・・・。
今回の場合、Eランクじゃ、ちょっと頼りないんだが、お前、冒険者に登録して何年だ?」
「フレゴルドで登録してかれこれ50日ほどでしょうか。」
「ン?フレゴルド?
そうか、お前が、リドビッチの知らせてきたリューマか。
じゃぁ、期待してもいいな。」
「私は、サブマスターのキャラハン、元Aランクで火属性魔法と土属性魔法が使えます。」
「そうして最後は、俺だな。
ギルドマスターのリックだ。
元Sランク、風属性と火属性魔法が得意だ。
今回は俺の指揮に従ってもらう。
各自、ポーションを受け取ったら出発だ。
北西端の看守塔に向かう。」
半時後俺たちは王都城壁の北西端にある看守塔で待機していた。
あと半時もすれば明るくなり始めるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます