3-6 王都滞在中の出来事 その二(晩餐会)
◇ 王都七日目
翌日晩餐会の日、日中に特段の予定は入ってきていなかったので、それこそ、王都の各種ギルドを渡り歩き、商店街を見て回った。
「素材屋」という雑貨屋に面白いものが種々置いてあったので、俺はかなりの買い物をした。
商社時代の中国人観光客程ではないものの爆買いというやつかもしれない。
フレゴルドではちょっと手に入りそうにない薬品の素材、錬金術の素材などを購入したのだが、その支払額合計が凡そ金貨50枚を超えていたし、その後見つけた魔法書等の購入費は金貨30枚を超えていた。
勿論、店を出たらすぐに人気のないところでバックパックの中に収納してしまうから店の者にしか爆買いの実態はわからないはずだ。
そうして午後の三の時過ぎには、衣装師がやってきて俺の着付けをして帰って行った。
俺は、王宮からの迎えの馬車が来るのを待って、王宮へ向かった。
晩餐会は午後五の時から始まるのだが、その30分ほど前には、俺は控えの間に入って他の出席者と挨拶を交わしておくのが儀礼なのだ。
俺の褒章式典に参列していた所謂お偉方が多数いて、俺はその人たちとの挨拶を繰り返していた。
中に見知らぬ者が数人いた。
おそらくは今日のゲストである隣国エシュラックのハイラル王子のお付きの人ではないかと思えるのである。
ジェスタ王国の偉いさん達とは少し毛色の変わった服装だったので、鑑定をかけると正しくそうであった。
一人は、おそらくは政治家と思われるエシュラック王国元老院四席参事バーロン・ヴァン・ディーモットという人、年齢は52歳だから、ハイラル王子一行の中では一番の長老でもある。
元老院があると言うことは貴族院もあるのかもしれない。
次いで、金ぴかの鎧を身に着けているエシュラック王国近衛騎士団副隊長ネッド・ティフ・クライスラー。
おそらくは礼式に使うための鎧らしく、全身を覆うフルフェイスの鎧ではない。
いかつい体型をした34歳の男である。
三人目は、エシュラック王国王宮魔法師団三席魔法師カイル・スヴォン・レーベルという27歳の男であるが、少しおかまっぽい男である。
まぁ、それでも王宮魔法師の中で三番目の実力と言うならば結構な魔法師なのだろうが、ステータス見てちょっとがっかり、MPが234、知性は82、スキルなし、ユニークスキルも勿論ない。
属性も「火」と「風」が共にLV3止まり。
これって本当に優れた魔法師なのかなぁ。
因みに称号には「蒼炎の魔導士」ってのがついている。
まぁ、あまり使ったことのない俺の「闇」属性とどっこいどっこいなんだから大したことはないのじゃないかと思うのだけれど・・・・。
良くわからん。
因みにバーロン参事は「二枚舌」というユニークスキルがあり、知性は165と中々のモノ。
つまりはタヌキで嘘が得意なオヤジと言うことだ。
ネッド近衛騎士団副隊長は、シレーヌ隊長とほぼ同じぐらいの力を持っていそうだ。
気を付けなければならないのは、「女泣かせ(DV)」と「瞬間湯沸かし器」と言う称号がついていることだ。
余り関わり合いになりたくない連中のようだが、儀礼に則って一応の挨拶は交わしておいた。
向こうは一応形式的な挨拶はしたものの、明らかに俺の素性から軽く見ているようだ。
まぁ、これについては仕方がないだろう。
俺自身もこの場にいること自体納得できてはいないのだから。
やがて時間が来て侍従の先導で晩餐会会場に入り着席する。
晩餐会の席は王宮側で決められており、俺は侍従の案内で席に着いた。
幅2m、長さ24mほどの長いテーブルに対面で座るようになっており、参列者は総勢で20名を超える。
内、4名が王子を含むエシュラックの関係者。
国王陛下と王妃殿下の正面にハイラル王子、その左隣に第一王子、その左隣にバーロン参事、ハイラル王子の右隣に第一王女、その右隣にネッド副隊長、更にワーナー・ヴィン・デヴィアン伯爵を置いて、その隣にカイル魔法師の順である。
国王陛下の右隣が第二王女のコレット、その隣が俺の席だった。
因みに王妃殿下の右隣には第二王子が着席している。
俺の席は全体の席から見てもかなり上席に当たり、居心地は余り良くないのだが、招待された俺としては如何ともしがたい。
結局食事の間ずっとコレット王女の話し相手になっていたような気がする。
時折、第二王女のほぼ正面に居るバーロン参事がコレット王女に話しかけるのだが、世代の差があってか話が続かない。
バーロン参事はやむなく彼の左隣に居るグリッド・フォン・エーレンデル公爵と話をしているようだ。
ハイラル王子はと言えば、国王夫妻と第一王子第一王女に囲まれてコレット王女に話しかける機会が無かった。
時折、コレット王女の方に視線を向けるので、それなりに好意を持っているのだろうと思う。
因みに俺がこの晩餐会に参加していた際のステータスは、以下のとおりである。
名前:リューマ・アグティ
種族:ヒト族
年齢:17歳(23歳)
性別:男
職業:冒険者E
錬金術師-II
薬師-II
エンチャンター-II
レベル :22《106》
HP(生命力) :662
MP(魔力) :681
STR(筋力) :116
DEX(器用さ) :168
VIT(丈夫さ、持久力) :128
INT(知性) :502
MND(精神力) :192
LUK(運) :29
AGI(敏捷性) :91
CHA(カリスマ、魅力):26
言語理解 :5(ホブランド統一言語ほか)
【スキル】
剣術 :LV4
槍術 :LV2
棒術 :LV2
格闘術 :LV8
弓術 :LV4
生活魔法 :LV5
鑑定術 :LV10
隠ぺい術 :LV8
射撃術 :LV12
隠密術 :LV4
マップ・探索術:LV14
エンチャント :LV3
治癒魔法 :LV6
スキルコピー :LV3
宮中儀礼 :LV2
舞踏術 :LV2
【ユニークスキル】
錬金術 :LV22
魔法創生 :LV19
インベントリ:LV8
【魔法属性】
火:LV8
水:LV10
木:LV12
金:LV10
土:LV10
風:LV10
光:LV10
雷:LV5
聖:LV8
闇:LV4
無:LV14
【加護】
アルノス神の加護(アップ率上昇)
【称号】
魔弾の射手
冒険者期待の星
錬金術師期待の星
薬師期待の星
王都へ向けて出立前に、入手した屋敷の手入れ、魔道具の制作、ポーション制作、武具のエンチャント、冒険者ギルドの依頼達成など多岐にわたる仕事をこなしたことで、かなりのステータスアップを遂げている。
やっぱり、アルノス神の加護が相当大きく働いていることは間違いない。
だって、俺がこの世界に降り立ってからまだ2か月ほどしか経っていないんだよ。
にも拘らず、実質レベルが100を超えているけれど、この国の軍人でもこれ程にレベルの高い者がいないことがわかっている。
一番強いのが近衛騎士団副隊長のサミュエル・バーンズさんだが、それでもレベルは42と俺の半分以下。
シレーヌ嬢もあれから研鑽したのかレベル26にはなっているけれど俺の四分の一では実戦経験に勝っていても勝負にならないだろうと思う。
まぁ、俺も公称はレベル22だから、表立って余り大きな顔はできないんだけれどね。
レベル百超えは、冒険者であればSSSレベルの筈であり、世界に二人ほどしかいないと聞いたことがある。
晩餐会で特筆すべきは、何を勘違いしたのか正餐の席上で俺に喧嘩を売ってきた馬鹿がいた。
エシュラック近衛騎士団副隊長のネッド・ティフ・クライスラーである。
彼の席は俺とはかなり離れており、会話にもならないはずなのだが、晩餐会もそろそろ終盤という段階で傍若無人にも大声を上げて俺と第二王女を罵ったのだ。
これには出席者一同が呆気にとられた。
王家主催の晩餐会での礼儀には完全に反しており、ましてや王家の第二王女を誹謗するなど有ってはならないことであった。
ネッドの前の席に居たゾーイ侯爵があからさまに不快の表情を見せ、注意を促したが、ネッドは聞く耳を持たなかった。
俺が鑑定をかけると、ネッドに酩酊という状態異常が現れていた。
明らかに葡萄酒の飲み過ぎである。
酩酊して大人しくなるならいいのだが、ネッドの場合は酒乱の気があり、暴力と暴言がついて回るタイプのようだ。
ハイラル王子を含めてエシュラックの三人がネッドを宥めようとするが、ますます気勢を上げて収まる様子もない。
隣の席の第一王女は蒼白な顔をして完全に引いている。
俺は立ち上がってハイラル王子に声をかけた。
「エシュラック近衛騎士副隊長におかれては、どうやら酒毒に当てられたご様子。
失礼ながら、これ以上の騒ぎが続くことはエシュラック・ジェスタ両王国のためにならずと思料いたします。
恐れながら、ご本人の意思に関わらず、エシュラック近衛騎士副隊長にこの場から退去願っても宜しいでしょうか。
無論副隊長に怪我などは負わせません。」
ハイラル王子は、頷きながら言った。
「この場を収められるならばどのような方法でも良い。
この男を大人しくさせてくれ。」
俺は頷いてから、ネッドに手のひらを向けた。
例によって至って簡単な方法である。
ネッドの呼気から酸素を抜いて酸欠状態にしたのである。
一瞬でネッドはテーブルに突っ伏した。
それから衛兵を含めた四人で、ネッド副隊長を会場から運び出し、宿舎となっている迎賓館に運び込ませたのである。
酸欠は直ぐに解いたが、秘密裏に麻酔効果のあるガスを服用させてあるので明日の朝まではぐっすりと眠る筈である。
実は俺のデータベースから麻酔ガスのデータを引き出して、比較的効果の高い笑気(亜酸化窒素)とセボルフラン(ハロゲン化麻酔ガス)の混合ガスを創造魔法で産み出してインベントリに保管してあるし、笑気だけならその場で合成もできるのである。
但し、使用量を間違えると死に至ったり、後遺症を発したりする場合もあるから注意が必要で無闇には使えない。
まぁ、王家の晩餐会を台無しにするほどの不敬罪を働く奴に使用するのは何の躊躇いもないがね。
目が覚めた時に奴がどんな反応をするかは不明だが、取り敢えずの問題排除はできた。
ネッドを退去させた後も20分ほど晩餐会は続けられ、最後は和やかな雰囲気で終了できた。
席上、バーロン参事から、如何様な方法でネッド副隊長を大人しくさせたのかと聞かれたが、オリジナルスキルなので詳細は明かせませんと丁重にお断りした。
第二王女のコレットは。以前にも闇ギルドの刺客二人に対して俺が同じような魔法をかけていたことを承知していたが、敢えてそれを口に出さないだけの賢明さを持っていた。
実のところ、王家主催の晩餐会であのような無礼を働いた場合、ジェスタ貴族ならば厳罰は免れない。
下手をすると斬首の刑が科されることになる。
今回の場合、他国の国賓一行の一人ということで、大目に見て貰えたようだが、どう贔屓目に見ても帰国してからネッドの処罰がエシュラックで課されることになるだろう。
良くて身分剥奪、悪ければ牢獄に永の収監ということになりかねない。
ハイラル王子がどのような目的でジェスタ王国を訪問して来たのかは知らないが、いずれの目的であっても出直しが必要なほどの失態と言わざるを得ない。
そうして、翌日午後には、エシュラック王国一行の予定が急遽変更され、ハイラル王子は帰国の途に就いたのである。
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<7月16日から17日にかけて、とても多くの方にこの物語を読んでいただけたようです。読んでいただいている方々に厚くお礼申し上げます。
1月11日から投稿を初めて、概ね七ヶ月で5,000PV程だったのが、僅かに三日ほどの間に倍の10,000PV超えになりました。
作者本人が一番びっくりしていますが、皆様のご期待に添えるよう今後とも頑張りたいと存じます。
2020年7月18日 @sakura-shougen >
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