臆病少女と憑依少女 4
それからまた、別の日。
遠くに運動部の活気ある声が聞こえてくる。各々の部活動が始まっているなか、わたしは
なぜ、こんなところにいるのか?
わたしが脅して呼びつけたのだ。放課後にはほとんど人通りのない、旧校舎のトイレへと。
わたしは便座に座らせた依織を見下ろして言う。
「よく来たね、依織」
「あ、あ、あんなの撮られてっ、く、来るしかないじゃないですか……」
「あんなのって、こんなの?」
スカートのポケットから出したスマホを操作して、依織に画面を見せつける。
先日撮った、上半身の衣類をすべてたくし上げて半裸に剥いた依織の写真。桜色に灯った中心が、大きく育った乳房をひときわ彩っている。
「け、消してください! なんでそんなもの――」
「消すわけないよね。君には二度も罪があるんだから、それ相応の奉仕で償ってもらわなきゃ」
「さ、最初のは許してくれたのに!」
彼女は悲痛そうに顔をしかめて、こちらへ詰め寄る。わたしはスマホの角で脳天を叩き、彼女の姿勢を戻させる。
「許してるわけないでしょ。窃盗罪って知ってる?」
「私、本当に盗んでない! あっ、盗んでない、です……」
「まあ、いまとなっては関係ないけどね」
「え……」
スマホをポケットに入れて、もう片方のポケットから黄色い柄のハサミを取り出す。それを右手に持ち替えて、彼女の鼻先で小さく振った。
「ゲームやろっか、ゲーム。君なんかオタクっぽいし、ゲームとか好きでしょ?」
「オタクじゃないし、私、別にアナログゲームは――」
「うるっさいな」
彼女の一番上で留められたブラウスのボタン糸を、ハサミでちょきんと切る。ボタンがタイルの床に落ちて、隠れていた鎖骨の一部が晒される。これだけで彼女はひどくうろたえて、晒された肌を手で隠した。
こんなどうでもいいところまで真面目だから、こいつは陰キャでウブなんだ。だから、わたしにいじめられるのだ。
彼女はわたしを上目遣いで睨みつける。威圧しているのだろうが、それが逆にわたしのなかの欲情を誘う。
「ルールは簡単。わたしの質問に答えるだけ」
「ゲームでもなんでもないじゃないですか」
ブラウスの二番目のボタンが切り落とされた。彼女は小さく悲鳴をあげて、口をつぐんだ。
「ただ、質問の答えで君が嘘をついたら、そのたびにハサミで素肌以外のなにかを切る。そして君は好きなタイミングで、切られたくないものを脱いだり外したりしてもいい。途中で気が変わることもあるだろうからね」
「な、なんですかその理不尽な野球拳――」
わたしがハサミの両刃で空を切ると、「ごめんなさい……」と弱々しい声が漏れた。
「勝利条件はわたしが飽きること。君が勝ったら、あの写真を消してあげるし、君のやったこともすべてチャラにしてあげる。ただし、君が負けたら……わたしの好きにさせてもらう」
「……はい」
「それじゃ、切られたくないものはさっさと脱いで。早く始めたいから」
「…………」
彼女は少し考えてから、リボンタイとブレザーとスカートと上履きを脱いで、眼鏡とヘアゴムを外す。まとまっていたおさげが解けて、肩にふわりと放たれる。
まさか自分からここまで脱ぎに行くとは思ってなかった。思わず、小さく笑ってしまった。
彼女はボタンが二つほど取れたブラウスと白ソックスと下着だけになった。近視で凄んだ目が、ゴキブリでも見るような視線でこちらを刺す。
「……お願いします」
「たくさん着てた方が有利なのに……よほど正直者の自信があるの?」
「あなたに信用がないだけです」
「その減らず口、どこまで叩けるか見ものだね」
わたしはブラウスの第三ボタンに、ハサミの刃を当てる。
これから依織の恐怖と恥辱に歪んだ顔をみるのかと思うと、ゾクゾクしてきた。最近、彼女のことを考えると、恥部に湿る感触を覚えて熱くなる。
「じゃあ、ひとつ目。君は幽霊を見たことがある?」
「あります」
ボタンを切り落とす。彼女は明らかにうろたえて、床に転がったボタンをじっと見つめている。
「どうして……」
「嘘つくなって言ったでしょ。そもそも幽霊はいないよ」
「そんな……」
「嘘つきの君は、もっと着ておくべきだったね。そうでもしないと、すぐにゲームオーバーになってしまう」
「最初から、そのつもりで……」
「君が正直になればいいだけじゃない? 君がずっと正直者でいれば、わたしは君を裸に剥かなくて済むんだから」
それからも、わたしは理不尽な質問を繰り返した。
「君はわたしのスマホを盗もうとした?」
「違います! 取り憑かれてて、気が付いたら持ってただけで……」
「嘘つき。幽霊なんかいないと言ってるでしょ。君はわたしのスマホを使って、わたしの個人情報を売ろうとしたんだ」
ボタンが落ちる。
「君はわたしのブラウスの匂いを嗅いで欲情していた?」
「だから、あれも霊が――」
「しつこいな君も。いい加減、学習しなよ。君は自分の意思でわたしのブラウスを嗅いで欲情していたんだ。じゃなきゃ、あんなもの嗅ぐわけがない」
ボタンが落ちる。
「君はわたしが嫌い?」
「……はい」
「嘘だね。君は先ほど欲情していたと言っていた。嫌いなやつに欲情するわけがないでしょ」
「それは月島さんが――」
「はい嘘つき。追加で減点」
ボタンが落ちる。
ボタンが落ちる。
「君はわたしを憎んでいる?」
「…………」
「沈黙はルール違反。減点」
「じゃあどうすればいいんですか!」
「質問の答えとは関係ないことを言ったね。ルール違反につきさらに減点」
「なんで……」
ボタンが落ちる。
ボタンが落ちる。
「君はわたしを理不尽だと思っている?」
「はい」
「即答するのがなんかムカつく。二つ減点しよっか」
「……もう最初のルール関係ないじゃないですか」
「また口答えした。追加で減点」
「…………」
ボタンが落ちる。
ボタンが落ちる。
ボタンが落ちる。
ブラウスの前ボタンを全部切り落とした。キャミソールが晒されて、次はキャミソールを切り開いていくのかと思うと、はやる手をおさえられそうにない。
次の質問をしようとしたところで、依織はため息をついてブラウスを脱ぎはじめた。
「あれ、降参?」
「最初から勝たせる気なんてないでしょ」
ブラウスを床に放って、続けてキャミソールを脱ぐ。意外とあっけなくて、一瞬拍子抜けする。
「もう変わんない。裸だってすでに撮られてるし、一枚が何枚に増えたって変わんない。早く撮って、さっさと帰らせて」
「……いきなり態度がでかくなったね?」
「クズに使う敬語なんかないでしょ」
自棄気味にそう言われ、脱いだキャミソールを無気力に落とされる。クズという言葉に、どこかがずきりと痛む。
どうして、痛むのだろう。まあいい、知ったこっちゃない。
依織が背中のブラホックに手を伸ばしたところで、開いたハサミを首に押し付ける。彼女の手の動きがピタリと止まる。
「ストップ」
「……なんで?」
「そのまま、写真撮らせて。じゃなきゃ殺す」
「…………」
侮蔑の眼差しを注がれながら、左手でスマホを取り出して撮影する。
上下白の安そうな下着。よほど人に見せたことがないのが見て取れる。まだ脱いでない白ソックスも相まって、アンバランスさを醸して雰囲気がある。
「脱いでいいよ」
「……脱がなかったら?」
「下着を切る」
「…………」
刃とスマホカメラを向けられながら、依織は下着を脱いで全裸になった。その間も、わたしは何枚か撮る。
依織は顔じゅう赤くして、脱いでもなお恥部を隠していた。そのまま何枚か撮ってからハサミで彼女を脅し、股を開いて恥部を晒すような構図を強要した。
下の毛はほとんど剃られていない。それが彼女の貞淑さをあらわすようで、どこかそそられる。また写真を撮った。
スマホ画面越しに、うつむいた彼女が小さく嗚咽していることに気づく。
また、愛おしい気持ちになった。彼女がわたしのせいで泣いているのかと思うと、頭の中が言いようのない熱に満たされ、下着のなかがうずく。
「そういや、わたしの勝ちだったよね。下着、もらっちゃおうかな」
「……もうどうにでもして」
依織が股を閉じて、泣き顔を隠すように両手を覆う。前髪はくしゃくしゃになり、惨めったらしさがなお際立つ。
それをにやにやと眺めながら、床に落ちたブラジャーとパンツを拾い、自分の鞄に放り込んだ。それは衝動のままに、自然な動作で行われた。
「それじゃあ、また明日。下着以外は残してあげるから、それ着て帰りなよ」
わたしは軽快に個室を出る。手に入れた写真と下着のことを想い、足が急かされる。
自室に着いてすぐに使用済み下着の上下を取り出し、ベッドに身を投げ出す。
今日はもう勉強どころじゃない。わたしのなかのあの熱が、いまだに冷めようとしないから。
制服のポケットから出したスマホを枕の横に放る。寝転がりながら横着に、ブレザー、スカート、リボンタイと床に放っていく。パンツを片足だけ外して、キャミソールごとブラウスをたくし上げてから、わたしはスマホを開いて依織の写真を表示させる。
画面のなかの依織は、裸身を晒して恥辱に顔を歪ませていた。撮った時の記憶が、彼女の悲痛な声が鮮明に蘇ってきて、頭の中を埋め尽くす。
ブラジャーの内側を顔へと寄せて、深呼吸するように嗅ぐ。獣っぽく酸い匂いが、逆に彼女の存在を感じさせてそそらせる。
依織のパンツを恥部のあたりへ持っていき、そのまま左手を上衣のなかへやる。乳房を指先で優しく愛撫して、欲求のままに身をくねらせていく。恥部をベッドに広げた依織のパンツに擦り、そのまま腰を動かした。
彼女の
もっとも、それはわたしの妄想のなかの彼女だったが。
「嫌いなわたしで、嬉しそうに喘いじゃって……変態は、どっち、なんだか……」
こちらも荒い息をこぼしながら、恥部をいじるうちに頭が真っ白になる。そのまま、恥部に集まった意識が一気に開放される。
「……っ!」
溢れた露が依織のパンツに染み込む。途端に、いきなり虚脱感に襲われた。
「い、おり……」
スマホ画面の光が消えて、手からすべり落ちる。途端、後悔が湧き上がってきた。
どうしてわたしは、彼女を犯す妄想をしているのだろう。死んだ親友に似てて、彼女が苦しむのが嫌だった。だから、最初だってわたしは彼女に注意したはずなのに……
ふいに思い出した親友の姿は、依織に変わっていた。思い出されるのは、わたしに犯され、辱められ、喘いでいる、そんな依織の記憶。
すべてが塗り替えられていく。
悩むほどに忘れたかったもののはずなのに。人の記憶は、こうも儚いものなのか。
「だい、すき……」
いつの間にか頬に流れていた涙の理由を、わたしは理解できなくなっていた。
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