第14話 短い旅
僕は何とかここでの出来事を思いだそうとしたが、それはまったく記憶から抜け落ちているようだった。
「非科学的な言い方になるが、君達はお互いの魂を呼び戻しあったんだと、今では思っている。他に説明のつく言い方が無いんだ。まあ、そういう事があったからね、ステーションで君達が仲良くしている様子は、傍から見ていると、何と言うか、納得のいくものだったよ」
艦長はそう言って僕に笑いかけた。
それは、何か懐かしい感じのする、優しい笑顔だった。
「艦長はここの職員だったんですか」
「そうだ。ずっと君達を見ていた。ステーションの艦長に任命されたのは、君達の移動と同じ時期だったんだ」
僕は何か言おうとして口を開いたけれど、何も言葉が出なかった。
取っ掛かりにするべき言葉を探して、下を向いた。
一度にいろんな事を見せられ、知らされて、それらをどうまとめるべきなのか、考えが追いつかなかった。
「考えるな」
艦長が言った。
「過去の記憶と一緒にステーションに縛られている事は無い。お前はもう未来に生きてるんだ。ユータ。もう一度だけ考え直せ。俺と一緒に地球に降りろ。そして、エリザを支えてやれ」
「考えるなとか、考え直せとか、どっちなんですか」
「うるさい。自分で考えろ」
「言ってる事、無茶苦茶ですよ」
「そうだな。じゃあ、黙って俺についてこい」
僕はぽかんと口を開けて、何も言えなかった。
結局、艦長は僕の返答も聞かない内に地球へ降下する準備を進めた。
その中に僕も当然のように組み込まれていて、始めからそのつもりだったのだと言うのが分かった。まんまと乗せられた感がしないでも無かったが、僕にしても、もう抵抗や反論をする気は起きなかった。
「エリザを支えてやれ」と言った艦長の言葉は、僕の中で何度も繰り返されていた。今まで思いつかなかったけど、それはとても大事な事だと、理解出来た。受け入れる事が出来た。
僕らの乗った船は、地球に向けて短い旅に出た。
おそらくは一方通行に終わる旅に。
そして、船は何の問題も無く地球圏に到達した。
一旦、衛星軌道に乗り、それから大気圏への突入になる。
地球を眼下に見下ろして、何度か地上の管制センターと通信を交わし、それから大気圏突入シーケンスに入る予定だ。
「大気圏を突破すれば、戦闘機が出迎えと護衛を兼ねて近くに来る予定だ。見物だぞ」
艦長はそんなことを言って、僕の気を和らげようとしていた。
僕らはコックピットの中、操縦席のすぐ後ろに並んで座っていた。
船が高度を下げ、いよいよ衛星軌道を離脱する。
機体が大気に触れ、その摩擦で周辺の空気が赤く燃え始めた時だった。
パイロットが異常を告げた。
「艦長。当機の進路上に高速に接近する飛行物体があります」
「何だ? 出迎えには早過ぎるな」
「識別確認しました。これは、ミサイルだ」
その光は、コクピットの向こうに見えていた。
まっすぐこっちに向かっている。
ああ、そうなのか。
溜息のような思いと、
ただ一人、彼女の名前が頭に浮かんだ。
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