第6話 【わたしのおかげ】

 焼き尽くされた家の前で、わたしは立ち竦んでいた。

 そこにあったはずの我が家、いつも可愛がってくれたおばあちゃんや、大好きだったおかあさん、おとうさん。

 みんないっぺんに居なくなってしまった。

 そう言われてもその時は、何の事だか分からなかった。

 何が起きたのかも理解出来ずに、呆然と焼け跡を眺めていた。

 誰かがわたしの肩に手を置いた。

「おかあさん」

 そう思って振り向いたけど、居たのは隣に住んでたおばちゃんだった。

 おばちゃんは泣いていた。

「ごめんね。おかあさんじゃなくて……」

 と言って、わたしを強く抱きしめた。ごめんね、と繰り返しながら。

 何でおばちゃんが謝るのか、不思議だった。

 それから、いろんな事がたくさんいっぺんに起きて、わたしはいつの間にか『遠い親戚』というおじさんとおばさんに連れられて、知らない街へ移った。

 それからしばらくして、キラキラしたレストランで見た事もないようなご馳走を食べさせてもらえた。

「あなたにはお礼を言わなくちゃいけないわ」

 とおばさんが言った。

「どうして?」

 とわたしが聞くと、

「あなたのおかげで生活に潤いが出るのよ」

 とおばちゃんは言った。

 わたしは、その言葉が嬉しかった。とても温かい言葉に思えた。

 その日はホテルに泊まって、ふかふかしたベッドでぐっすりと眠った。

 そして次の日、わたしは宇宙へ上げられた。

 政府の管理する宇宙航空基地で慌ただしい手続きを終えた後、わたしは制服を着たお役人の前に突き出された。

「支給金の振り込みはいつになるんだ」

 おじさんが役人に聞いた。

 役人は苦い顔をして「あっちで聞いてくれ」と言ってどこかを指さした。

 おじさんはすぐにそっちへ向かっていった。

 おばさんはわたしの頬を指先で軽くつまみ、

「ありがとうね。ゆっくりおやすみなさい」

 といっておじさんの後を追っていった。

 それが別れの言葉だった。

 おじさんも、おばさんも、一度も振り返らずに行ってしまった。

 走り始めたスペースプレーンの中で、わたしは急に悲しくなった。

 座席の正面には壁一面に広がるくらいの大きなスクリーンがあって、そこに滑走路周辺の外の風景が映し出されていた。

 機体が離陸すると、地面は瞬く間に離れていった。

 地上のひとつひとつの建物が、もう形も分からないくらいに小さくなっていってしまった時、わたしはやっと理解した。

 もう二度と、おかあさんにも、おとうさんにも会えないんだという事を。

 火事で家が焼けてから、その時になって初めて涙が流れた。

 一度涙が溢れると、いつまでもいつまでも溢れ続けた。

 大気圏を離れても、わたしはずっと泣き続けていた。

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