< 陸 >
満天の星空に、肉眼ではほぼ丸にしか見えない
どこぞの食い意地の張った少女は今年の冬は湿気が多いと雑談の合間に口にしていた気がするが、それでもやはり季節柄、空の水分が少ないのか、その光は目に痛いほどに鋭く地上を照らしている。
かつて見上げていた空よりも、随分高い位置にそれらを感じるのは、きっとここがいままでのように山の上にはないからだろう。
は、と吐き出した息は白く、過去を思い出そうとする思考へと無理やり靄を抱かせた。
(……寒ィ)
結婚祝いだと強制的に参加させられた夕飯は、
一度部屋に入ったもの明け方から昼間に仮眠を取っていたせいか、どうにも寝付けないため、酒が入った身体を醒まそうと外に出たが、明るすぎる月明りに一層睡魔が遠ざかるような気がしてくる。
「なんじゃ、
背後で扉が開く音が聞こえ、肩越しに振り返ると同時に声がかかった。見遣った先にいたのは、枯れ木のような小さな老人。酒をちびりちびりと飲んでいる姿ばかりが思い出されるが、その外見や言動に騙され侮ると、きっと痛い目を見るだろう相手。
「オイ
「お前に
この
そもそも、如何に女といえど自身よりも上背のある孫娘を軽々と運んだのはほかでもない彼だ。やはり見た目通りの印象で対峙すれば、痛い目を見るのは火を見るよりも明らかである。
(ま、じゃなきゃいくら小っせェからって、あのでこっぱち抱きかかえて部屋まで運ぶなんて芸当、出来るわきゃねェか)
背後から照らされる月明りで、自身の影が石畳の床へ伸びている。
「こんな時分にそんなところでなにしとる。寝んのか」
「あァ?」
「あぁ、まだ腹減っとるんか」
「違ェ。変な時間に、」
「なら酒か」
「てめェと一緒にすんじゃねェよクソ酔っ払い」
「じゃあなにか。
「見たくもねェわクソが」
「はっ! まさか、お前
「んなわけあっかッ!」
言葉の終わりを待たずに被せてくる
「なんじゃ。なら、はよいわんかい。もし夜這いなんぞする気なら、今夜、新しく
はー、と握りしめた拳に息を当てながら、横目に睨んでくる老人の
「はっ、そんなに大事な大事な孫娘だっつーのに、よくもまぁ得体の知れねェ【
ふわりと空気を孕んだ布が、宙に揺れる。
けれど、次の瞬間それはまるで幻のように霧散した。
節立った指が掴むものは、ただただ冷たい夜の風ばかり。
「なんじゃい。気づいとったんか」
横目にその様子を目に収めていた
「そりゃこっちの台詞だ、クソ
「お前、嫁の祖父に向かってようもそんな口利けたもんじゃの」
「……はっ、祖父」
少年の声が嘲笑に弾ける。それを受けた老人の皺だらけの
「血が繋がってねェどころか、【妖】でも孫として育てるうちに情が芽生えたってか?」
「犬っころでも飼えば情が移るもんじゃろ。孫として育てりゃ当たり前じゃ」
「……一体、なに企んでやがる」
「お前がそれをいえた義理かい」
「はっ、どうだかな」
鼻先で笑いを弾けば、老人もまた同じような笑みを浮かべた。
「ただ……まぁ、これだけはゆーといてやってもいいかの」
「……んだ」
「儂ぁ赤子のころのお前を、一度、見たことがある」
「……ッ!?」
今ごろ夢の中にいる少女をして「悪人ヅラ」といわしむる
少年は苛立ちから、再び眉間に皺を寄せる。
「――そう、いうたら……どうする?」
老人のその言の葉に、舌打ちの後に「クソ
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