第25話 命令されっぱなし
「ゴーレムどもがご迷惑をおかけしました。やはり、見張りは本物の人間に任せるべきだわ」
女性はセレネと名乗った。フェアトが捜していた、ヘラの腕輪を購入したという人物である。
彼女の話によると、門番をしていた岩のような男二人は魔物のゴーレムだという。
ゴーレムとは、身体を岩石や泥で構成された魔物で、その姿は今回のように人間だったり、他の魔物の姿を真似ることができる。どの個体にも共通しているのが、その物理的な力の強さだ。大商人であるセレネの父が、見世物小屋から面白半分で購入し、こうして門番に据えたらしい。
ゴーレムの攻撃を避け続けていたところでセレネの介入により助かり、今はこうして屋敷の応接間に腰を落ち着けていた。
フェアトは、ヘラの腕輪の事件のことをかいつまんで話した。
話を聞き終えたセレネは慌ただしく立ち上がった。そして、少々お待ちください、と言い残して、応接間から姿を消した。
しばらく待つと、セレネが小走りに戻ってきた。その両手の上には、布にくるまれた腕輪が載っていた。とにかく腕輪が無事なようで、フェアトは安心した。
「ヘラ様の腕輪だとは知らず……申し訳ありません」
「いえ。こうして無事なので、貴方が謝ることじゃないです」
腕輪を受け取ったフェアトは、早々にアステリ家を後にした。まだ自分には、腕輪を元あった場所に戻すという任務が残っているのである。
腕輪を無事取り戻したことを主に報告すべく、フェアトはまずソフィア神殿に向かった。
主は神殿の前で、不安そうにしている炉の女神の頭を撫でていた。
フェアトは主の前まで来ると、膝を折り、腕輪を捧げ持った。
「ご苦労様でした。さあ、早くミテラの宝物庫に戻すのです」
自分を労って微笑む主の目は、腕輪奪還を命じたときと同じく有無を言わさぬものだったため、フェアトは速やかに立ち上がり、ヘラのミテラ神殿へ走った。
何の前触れも無しに訪れた知恵の女神のところの
可能な限り気配を殺し、フェアトは無事宝物庫へ侵入することに成功した。
ヘスティアは、腕輪は小さな祭壇に置いてあったと言う。少し奥へ進めば、祭壇は静かに鎮座していた。
そっと、音を立てぬように置く。腕輪から手を離した瞬間、フェアトの全身を安堵の情が駆け巡る。ついには脱力し、一つ深い溜め息を吐くとその場に座り込んでしまった。
しかし、いつまでも異なる神の神殿の中にいることはよくない。
フェアトは力の入らない身体に鞭を打ち立ち上がると、慌ただしい神官たちの間を駆け抜けて神殿の外へと出た。
ソフィア神殿に戻り、アテナと、やはり不安げにしていたヘスティアに無事に腕輪を戻したことを報告した。アテナは今度こそ瞳に労りの色を載せて微笑み、ヘスティアは安心して脱力してしまった。
「ヘスティア、どうしたのです。早く神殿に帰りなさい」
不思議そうな顔をしたアテナに、ヘスティアはふにゃりと笑って返した。
「えへへ……何か、力が入んない」
脱力しきってしまい、立ち上がることもかなわないヘスティアを、フロガ神殿に送る任務をフェアトが与えられたのは言うまでも無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます