第24話 石の魔物は聞く耳持たず

 アステリ家は、大きな石造りの豪邸である。当然その門の前には門番が二人立っていて、微動だにしなかった。沈黙しているのに、その巨大で屈強な体躯は威圧感を放っている。さしずめ彼らは岩である。

 フェアトは恐る恐る、岩の片方に己の名と用件を告げた。

「……力天使デュナミス様ですか。屋敷へ入る前に、全ての武器を預からせてもらいます」

 肉弾戦を得意とするフェアトの武器は、己の腕と脚である。武器など主の護衛で短剣を持たされたくらいしか無い。

 それを言えば、岩はのろまな動作で頷いた。

「では、その両手両足を落としてからご案内しましょう」

 そう言いながら振り下ろされた腕を、フェアトはとっさに避けた。短慮な、と叫びたかった。これではかの戦神と同じ【脳筋】ではないか。いや、こいつらは彼を遥かに上回る。頭には筋肉などではなく、岩が詰まっているのだろう。

「確かに手足が武器だとは言ったけど!だからってそれを落とすなんて、どういう考えしてるんですか!」

「ご主人様に危害を加える可能性のある物は排除します」

 聞く耳持たぬ、である。フェアトは説得を諦め、岩二つが再び沈黙するまで回避に専念しようと決めた。

 岩の腕力は凄まじく、拳は石畳を破壊し、その下の茶色い大地が顔を出した。

 アステリ家の門前は、小さな戦場と化した。

 翼で空へ上がれば、いくら巨大な岩とて上空には届かないだろうが、その翼は使えない。

 ひたすらに避け続けるフェアトであったが、常人を上回る能力をもつ身体の天使エンジェルでも限界というものはある。フェアトの動きが鈍ってきた。

 それに比べ、岩の方は全くつかれた様子を見せない。体力が底無しかと思うほどだ。

 このままでは殺られる。フェアトはそう直感した。

「ゴーレム!待つのです」

 女性の、凛とした声が辺りを叩いた。その一言で、岩二つは動きを止める。

 声の方を振り返れば、蜂蜜色の髪を結い上げた、美しい女性がこちらを険しい目で見据えていた。

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