第17話 先輩たちも強い
闘技場に突如現れた狼の魔物・リュカオン。驚愕と恐怖の声が上がる中、唯一動きを見せたのはアレスだった。
「何っ、リュカオンだと!?俺が成敗してくれる!」
今にも玉座から飛び出しそうな主を、テンシェイは慌てて押しとどめた。
獲物を捉えた神獅子を鎮めるのは、人間の身体能力を超越した他には特別な能力など一つも持たぬテンシェイには一苦労である。
低く唸り出す主を、渾身の力を込めて玉座に押し付けた。
「落ち着いてください!師匠っ……エルノンさんたちが討伐に向かってますから!」
ぎろり、と、獣のようにぎらついた双眸がテンシェイをねめつけた。俺を出せ、行かせろ、と言っている。襲い掛かる寸前の獣のような主に、テンシェイは背筋を凍らせた。
下を見れば、テンシェイの師・
「
「アステリズ・インパクト!」
「ヘリオス・オブ・ホーリネス!」
エルノンの拳とフィーロンチューネの脚が交錯すれば、シーロッドの持つ太陽の杖から放たれる光の雨が降り注ぐ。三人の攻撃を受け、リュカオンは悲鳴を上げた。
しかし、黙ってやられたままでいるリュカオンではなかった。己の命が短いことを悟ったリュカオンは、最期の足掻きと言わんばかりにその四肢、大きな尾を滅茶苦茶に振り回した。それらの生んだ衝撃波で、闘技場はことごとく破壊された。
民は散り散りに逃げ惑った。
アポロンとアテナの姉弟が咄嗟に光の結界を観客席の前に張り、何とか死者が出ることは防いだ。
「ああ……なんということ……」
一瞬で戦場と化してしまった闘技場を見下ろし、豊穣の女神デメテルは顔を覆って嘆いた。
主の悲しみ嘆く姿を見ていたジュンは、相変わらずの無表情で三対の翼を広げた。
その行動を不思議に思ったデメテルは、不安げな顔で側近を見た。
「ジュン、何をする気なのです……?」
「……デメテル様が悲しい原因、斬る」
荒れ狂うリュカオンに、エルノンら三人は手を焼いていた。
「もー何なのよ!さっさと殺られなさいって!」
リュカオンの尾をかわしながら、フィーロンチューネが苛立ちの声を上げた。
「全く……。少しは黙って戦えよ」
子どものように文句を垂れながら長く暗い茶髪を揺らし戦う側近を見た鍛冶の神は、呆れたように溜め息を吐いた。
「なーに文句言ってんだい、ちったあ黙って戦いな」
「そうです。リュカオンを倒すことに集中しましょう」
ぶうぶう文句を言うフィーロンチューネを、エルノンとシーロッドが冷静にたしなめた。三人は会話をしながらも、器用に戦い続けている。しかも攻撃は的確にリュカオンの急所を突いている。先輩三人の戦いぶりを見て、テンシェイは思わず凄い、と呟いた。
何度目かの攻撃を受けたリュカオンは大きくよろめいた。止めを刺すため、エルノンは真っ先に飛び出した。リュカオンの頭に、エルノンの影が落ちる。
「もらったああああっ!」
エルノンは勝利を確信し拳をリュカオンの頭頂部目掛けて振り上げる。
「ギャアアアアア――――ッ!!」
リュカオンは大地を揺るがすような断末魔を上げ、絶命した。どうと轟音と土煙を上げ、闘技場を荒らした魔物は動かなくなった。
魔物の絶命と共に地面に着地したエルノンは、苦笑しながらリュカオンの頭を見上げた。
「最後の最後でいいとこ貰ってくんじゃないよ、ジュン」
「……デメテル様が悲しんでたから斬った」
エルノンの隣に立つジュンの手には、先程まで握っていた魔剣ティポタクシフォスが無い。何故なら、それはリュカオンの頭に突き刺さっているからだ。
エルノンの拳がリュカオンの届く寸前、神々の席から飛び降りたジュンがティポタクシフォスを突き立てたのだ。
大天使エルノン、能天使フィーロンチューネ、主天使シーロッド、智天使ジュンの活躍により、突如として現れたリュカオンは退治された。
大会は、アポロンが闘技場の上空に作り出した光の舞台で再開されることになった。
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