第5章 戦国と幻想の決戦③……猿飛佐助
奇襲は成功。
この俺、猿飛佐助が先導したんだから当然だな。
幸村様と合流した俺は、御舘様の指示で道案内することになったんだが、まさかそれに全軍の半数以上が付き従う事になるなんて。流石の俺様も驚いたぞ。
だが、そんなことでしくじるような俺じゃない。
見事、幸村様を一番槍に導いてやった。
「佐助、狙うは左軍の大将首。どいつだ?」
槍で存分に敵兵を突き殺しながら、幸村様が問いかける。
我らと違い、歴とした史実の真田幸村だ。
まだ若い。だがその知略と武勇は抜きん出ており、すでに後の”日ノ本一の兵”の片鱗は輝くほどに見えていた。
ただ本来の名は真田源次郎信繁で、幸村は後世講談によって付けられた名である。
幸村と名乗っているのは、俺たちと同じように何か幻想に沿うような色をこの世界に付けられたのだろう。
何れにしても、俺たちの主には違いない。
「恐らく左軍の将はランスロット。奴めの顔は知っております!」
忍び刀で敵兵を斬り払いながら、答える。
「案内せい!」
「承知!」
飛び上がると同時に焙烙玉を地面に叩き付ける。
爆風と共に巻き上がった上昇気流に即席の凧で乗って、天高く舞い上がる。
さて、ランスロットは……あれ?
「幸村様、後ろぉ!!」
一直線に幸村様に突撃する槍騎士。その顔には見覚えがあった。
「何奴!?」
「我こそは左軍大将ランスロット!この戦で一番の勇将とお見受けした、勝負!!」
日本語で問うて、英語で返ってきた。
お互い、何を言っているか判るはずもないのに、不思議とかみ合っていた。
「今ランスロットと申したか!ならばこの真田源次郎幸村、お相手いたす!」
訳も分らずお互い名乗り合っているのは、いくさ人の本能が成せる業か。
幸村様も槍を構えて、ランスロットに向け真っ直ぐ突撃する。
互いの騎馬が交差したとき……。
「見事!」
「流石!」
二人の槍はかち合い、粉々に砕け散った。
「ならば!」
「剣だ!」
二人同時に剣を抜いて飛び上がる。
空中で鍔迫り合う。
ランスロットが振るうは聖剣アロンダイト。
対する幸村様が振るうは妖刀村正。
両刃、打ち負ける事なく弾き合う。
地に降り立つ二人。
今のところは互角。だが、ランスロットには精霊の加護がある!
「アロンダイト!!」
ランスロットの剣が輝きを増す。同時に周囲の気温が凍えるほどに下がった。
「我が剣の氷雪、受けてみよ!」
幸村様を、氷の吹雪が襲う。触れる物全てを凍らせる極低温の嵐。
だが、この攻撃は確か……。
「抜けば玉散る氷の刃か……」
幸村様が微笑う。やはりそうか!
「守れよ、地蔵菩薩!」
今度は幸村様の首飾りが光る。それは、不惜身命の六文銭!
真田家の家紋にして守護の象徴。
「守護の法、離水火災!」
叫び輝く幸村様を、アロンダイトの氷雪が包む。
白い嵐が過ぎ去った時、そこには無傷の幸村様がいた。
流石のランスロットも驚きを隠せない。
「騎士に”精霊の加護”あらば武士に”神仏の守護”あり!貴様らだけの特権ではないぞ!」
今のは地蔵菩薩の守護。六文銭とは三途の川の渡し賃。いついかなる時も死ぬ覚悟を持って生きる彼らを、地獄の菩薩である地蔵が守るのだ。
”離水火災”とはその加護の一つ。水難や火災を免れる守護の法だ。
「それともうひとつ。佐助、降りてこい!」
すぐさま俺は幸村様の側に降り立つ。
「佐助、あのことを教えてやれ!」
敵に親切に教えてやることもないが、主の命なら仕方ない。
「ランスロット!貴様の持つ氷の剣、それと同じ物を幸村様は知っている!」
「何だと!?まさか、アロンダイトはこの世に二つとない聖剣だぞ!」
「村雨、それがその剣の名だ!」
かつて、里見の八犬士と我ら真田の十勇士がやり合ったことがある。
その時、幸村様は敵の最強の剣士犬塚信乃と戦い、その氷の剣が発する氷雪を何度も退けたのだ。
「覚悟しろ、貴様の剣は幸村様には通じぬぞ!」
言って後ろに下がる。最低限のことは教えてやった。
「さて、今度はこちらの番だな!」
幸村様の六文銭が再び光る。
「天龍護念!」
幸村様の躰を龍の幻影が包む。地蔵菩薩の守護によって龍が幸村様に乗り移ったのだ。
「行くぞ、氷雪の騎士!」
幸村様と共に、龍の幻影がランスロットを襲う。幻影と言えどその爪は肉を裂き、その牙は骨を砕く。
一度に幸村様と龍、同時に相手にする事になる。
幸村様必勝の法。だが、ランスロットは難なく捌いていた。
「なるほど、今度は私が教える番だな……」
幸村様の刀を弾き、ランスロットが大きく退がった。
「貴公のその業、知っているぞ!」
何だと……。
「佐助!」
「は、奴は幸村様の天龍護念を知っていると申しております!」
「どういう事だ?」
「判りませぬ。しかし……」
その時、ひとりの騎士が割って入って幸村様に斬りかかった。
「何奴!?」
幸村様が村正で受け止める。同時に龍が、その騎士に襲いかかった。
「!?」
だが龍は、その騎士から湧き上がった獅子の幻影にその牙を遮られた。
「ユーウェイン!」
「ランスロット!この男は俺に譲れ!」
なるほど、円卓にも幸村様と同じような業を使う騎士がいたのだな。
「そうか、そういう事か。ならば纏めて相手してやろう」
いや、無茶だ。ここは俺が加勢を……。
「その必要はない!」
また、別の声。その声の主が、幸村様と切り結ぶ騎士ユーウェインを丸太のような金棒で吹き飛ばした。
「貴様、何者だ!」
素早く立ち上がったユーウェインが、誰何の声を上げる。
「三好清海入道。横槍を入れる無粋な輩を叩きのめしに来た」
我らが十勇士の一人。羅漢の如き豪腕の巨人、三好兄弟の兄だ。
しかしこいつらも、言葉が解らないのによくも話を噛み合わせるな。
「兄者、こいつの始末は俺にやらせてくれ」
弟も来た。三好伊三入道、兄とそっくりな羅漢。手に持つ武器も同じく金棒だ。
「いや、おまえは奴をやれ」
そう言うと、清海は一歩退いた。
その瞬間、鞭のようにしなる赤熱した刃が元いた場所を叩いた。
まるで、百足か蠍の尾。刃が節のように連なった異形の刃だ。
「我が名はトリスタン。我が愛剣”龍の舌”と共に見参仕る!」
また増えた。奴も円卓の一席だ。
「では、纏めてお相手いたそう!」
トリスタンが、長大な剣を鞭のようにしならせて辺り一面を薙ぎ払い出した。
「むふう……」
流れるような連撃に、三好兄弟が押されている。
「不味いな。ここは俺が……」
「いや、それには及ばず!」
飛び出そうとする俺を制して、一つの影が前に立つ。
そして投げ放たれる鎖分銅。
それは寸前でトリスタンに避けられたものの、しかし機先を制しその刃を一時退けた。
「何奴!?」
「由利鎌之助と申す!貴殿の相手は拙者だ!」
言って、再び鎖分銅を投げる。
「猪口才な!」
トリスタンも応戦。鞭剣と鎖分銅は、お互いまるで生き物のように打ち合う。
一見互角。だが、打ち合いながら接近した鎌之助が、もう一方の手で持つ鎌でトリスタンを斬りつけた。必殺の鎖鎌だ。
「卑怯な!」
「懐に隙があるのが悪い!」
こいつら、本当に言葉通じてないのか?
まあひとまず、強敵トリスタンは鎌之助に任せて問題ないだろう。
こちらはさっさとユーウェインを片付け……ん?
「その勝負!まったあぁぁーーーーッッ!!」
我が軍の兵を吹き飛ばしながら、騎士がひとり真っ直ぐ突っ込んできた。
ありゃ何だ?なんかやたらデカイ槍を構えて突撃して来た!
まあとにかく、我が軍を真っ二つに裂きながら走ってきた騎士は、そのまま清海と伊三に突っ込み、持っていた槍を二人に叩き付けた。
いや、叩き付けたというレベルではなかった。
パイルバンカー。一度スライドして下がった穂先が、爆発と同時に猛烈な勢いで射出されていたのだ。
おかげで、あの羅漢が二人がかりで止める事になったようだ!
「よくぞ止めたぞ巨人共!我が名はパーシヴァル!戦士として、いざ尋常に勝負!」
「待て、パーシヴァル。奴らは俺の相手だ!」
こいつも槍の騎士も円卓か。何でウチばかり強敵が集まって来るんだ?
春日とか馬場とか、もっと有名なのは他に居るんだぞ!
「何、面白くなって来たじゃないか……」
幸村様。嬉しそうに、本当に嬉しそうに言った。
「今日だけで手柄首がどれだけ挙げられるのか、楽しみだ……」
携える村正から、妖気が漏れる。
「さて、征くぞ!」
漏れ出た妖気を、幸村様は難なく御した。常人なら今ので狂っている。
仁将と呼ばれる幸村様。されどいくさ人の例に漏れず、心に鬼を飼っているのだ。
「不思議なものだ。貴様の剣に邪気はない。だが何故そのような男が、そんな邪悪な魔剣を持つ?」
幸村様に対するランスロット。決着を付けるのか?
「清濁併せ呑むのが将というもの。物事の片面しか見えぬ貴様らには解らぬ事さ」
幸村様の代わりに答えておく。我が主はその器の差、見せつけてくれるさ。
「泥水など飲めんよ。ならば湖のランスロットの名にかけて、我が清水で洗い流してくれようぞ!」
アロンダイトが冷気を帯びる。
「犬とも言え、畜生とも言え、武士は勝つことが本にて候……」
村正が妖気を帯び、龍が牙を剥く。
「では改めて……」
「参る!!」
円卓の騎士と真田十勇士。
宿縁を刻む戦いは、まだ始まったばかりだ……。
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