第4章 森の守護者⑥……猿飛佐助

「なッッ!?」


 驚きの声をあげたのはガレス。

 そりゃそうだ。自慢の槍をこんな手で受け止められたんだから。


「これが戸隠忍術、槍止めの極意!如何かな?」


 トリモチに塗れ鋼糸で絡み取った槍を顎で指し、この俺猿飛佐助は嗤ってみせた。

 竜巻を呼び、真空の刃を飛ばす神槍とて、空気穴をトリモチで塞がれてはただのでかい針だ。

 そして針には糸。刺さる直前で束ねた鋼糸を絡みつかせ、高く掲げればそれはもう針ですらない。


「ま、まだ……」


 焦ったガレスが槍を強く引く。これで勝負は決まった。


「そりゃ!」


 槍を押さえたまま、回し蹴り一閃。足先は少年の顎を確実に捉え、強い衝撃を与える。


「く…あ……」


 衝撃で脳みそが激しく揺らされ、意識が飛ぶのが見て取れた。

 少年が、糸の切れた傀儡のように膝から崩れ落ちる。


「坊や、槍は道具だ。使えなくなったならすぐにでも捨てっちまいな!」

 聞こえねえかもしれねえが、一応忠告。

 あの時、槍を捨てて距離を取り、剣に持ち替えるべきだった。


「ま、お堅い騎士様にそりゃ無理か」


 意味もなく独り言ちる。


「さて……」


 忍び刀を抜き、ガレスの首筋に当てる。


「仕上げだ……」


 ニヤリと嗤う。たぶん、悪い顔をしている。

 刀にゆっくりと力を込める。

 ゆっくり、ゆっくりと……。

 ……。


「ああ、止め止め!」


 ゆっくりとか言いつつ、ちっとも力が入らねえ。

 まあ子供を殺すなんて、俺らしくねぇよな。


「とは言っても、このままじゃあ何だな」


 というわけで、この餓鬼を木に縛り付ける事にした。可哀想だが殺されるよりずっとマシだろう。


「これで一段落っと」


 自慢の槍と一緒に縛って、ちょっと飾り付けたら何か変なオブジェが出来た。

 あどけない顔でスヤスヤしてるのが最高に良い。笑える。


「だがまあ、時間を食った」


 モードレッドとミザリィーは無事に逃げたかな?

 才蔵と十蔵の事は心配してない。あいつらは死んでも役目を果たす。


「さて、あの娘らはこっち……」


 そっちの方向から、騎馬が一騎見えた。

 白馬に乗った白金の騎士。小脇に女を抱えている。


「ありゃあ……モードレッド?」


 そう思った瞬間、氷雪が飛んで来た。


「どわぁぁあ!何だよおい!!」


 慌てて躱す間に、騎馬は通り過ぎる。ついでとばかりに、木に縛られたガレスの縄を斬って連れ去っていった。

 疾風のごとき速さだった。


「痛って、不味いなこりゃ……」


 草むらでひっくり返りながら、眼で騎馬を追う。


「とりあえず、追うか!」


 跳ね起き、駆ける。


「間に合わねぇかもな……」


 あの騎士、走りに迷いが無かった。



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