第4章 森の守護者②……猿飛佐助

 西に反乱の気配があれば行って火種を焚き付け、東に侵略の気配があればその背後に敵を作る。北に財宝があれば即座に盗み、南に陰謀があれば台無しにしてやる。

 水の上を走り土に潜り火を抜け、風となって消えていく。

 俺は忍び。忍びの中の忍び。

 猿飛佐助、その人だ!

 まあこの世界では、そういう事になっている。

 何のために戦国日本に生まれ変わって、イギリスくんだりまで来て手裏剣投げてるか分らんが、それはそれで今を精一杯楽しむのみだ。


「という訳で、そらよ!」


 ガレス少年の周囲に糸を張り巡らし、その上を駆け巡って彼の全方向から手裏剣を投げてみた。


「何が”という訳”だよ!」


 少年が掲げた槍に猛回転を掛けた。槍から巻き起こった暴風に、周囲の手裏剣は全て弾き飛ばされた。


〈思ったより、範囲が広く長いな〉


 まだそばかすの残った可愛らしい顔で、中々にやる。


「逃がさないよ!!」


 少年が槍をこちらに向けて一気に回した。

 カマイタチが来る!

 真空の刃は眼で見ることは出来ない。本来は躱す事も防ぐことも出来ないが。


「そりゃ!」


 爆弾一丁。炸裂した地面は土埃を起こし、中を突き進む真空の刃を露わにした。


「そんな手で!!」


「手品はこれからだぞ、坊や!」


 カマイタチを避けながら、曲芸のように棒手裏剣を二本投げる。


「そんな物!!」


 少年は槍で軽く払う。


「甘いな」


 ニヤリと嗤う俺の貌を見て、少年が異変に気が付いた。

 払った筈の手裏剣、それが槍から離れず引っ付いたままだったのだ。


「磁石で作った特製手裏剣だ。おまけでトリモチと火薬付き!」


―――ドゴンッッ!!―――


 言ってすぐに爆発した。

 盛大な煙が立ち昇る中、少年は槍で暴風を起こして一挙に姿を現わした。


「テメェ、舐めんな!!」


 怒りに燃える少年の声に、俺は内心ほそく笑む。

 仕込みは上々、後は刈り取るのみ。


「こいつをーーーーーッッ、喰らえーーーーーーーーーーッッ!!」

 なんと槍から発生させた竜巻が、草木を薙ぎ払いながら暴獣のように襲いかかってきた。


「こ~りゃ、思ったよりヤベーかも!」


 全速で横に逃げるも間に合わず、あえなく木の葉のように吹き飛ばされた。


「痛ッつー!」


「もらったぁッッ!!」

 無様な姿で地面に転がる俺に向かって、ガレスは真っ直ぐに槍を構えて回転させた。


「え、何?」


 躰が浮いた。

 そのまま飛んで槍に引き寄せられる。真空を作る程の槍が、人間一人を易々と吸い寄せるほどの暴風を起こしているのだ。

 一方、ガレス少年は槍裏から吐き出される風によって、飛ぶように突進してきた。


「何それ、ずっこい!!」


「狡くないから観念しろ!!」


 なんか変な会話になりつつも、決着が迫る。


「どりゃあああーーーッッ!!」


「あわわわわ!!」


 一挙に槍が迫る。慌てるようにして俺は、懐から特製爆薬を取り落とす。

 落とした爆薬は、そのまま風に乗って槍に吸い寄せられ、軽く爆発して終わった。

 いよいよ目前まで槍が迫り、絶体絶命の危機となって俺は……。


「な、何故!?」


 嗤った。自分でも分るほどこの上なく邪悪な笑み。

 その時、風は消え失せていた。




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