第2章 悪夢の騎士①……霧隠才蔵

「ボ、ボクをどうするつもりだ誘拐犯どもめ!!」


 毛布にくるまったモードレッドは、この俺、霧隠才蔵に対し不満そうに喚いていた。時間的には、橋から落ちて約二刻(4時間)といったところである。

 想定外のトラブルはあったものの、念のために用意していた船で脱出した俺たちは、首尾良く彼女をロンドン北西部のチルターン丘陵まで連れ出すことが出来た

 ここまで来れば、一端追っ手の心配は無くなる。

 彼女が全身ずぶ濡れだった為、ひっぺ返して毛布に巻いて焚火を起こしたのだが。


「乾かしてるんだが?風邪引くなよ」


「バカーー!!」


 とうやらご不満のようだ。

 因みに、言い忘れていたが俺たちは三人とも英語が出来る。俺の生きた時代は昔と違って、学校だけで英語が話せるくらいには教育改革が進んでいた。


「簀巻きにして木から吊して何が乾かすだーーー!」


 蓑虫みたいに木に吊されたモードレッドがウネウネと暴れる。

 因みに、暴れる度にサラシから解放された胸のメロンがぶるんぶるんと揺れて壮観だった。

 鎧を着ている時は目立たなかったんだが、着痩せするというよりサラシで無理矢理抑えていたようだ。


「逃げられても風邪引かれても困るからな。それに一応、君のためでもあるんだか

ら少し我慢してくれないか?」


 服を干しながら、出来るだけ丁寧に言った。


「いいからボクを解放しろ。それと下着の臭いを嗅ぐな変態!」


 変態とは失礼な。男装してる癖に女物のパンツに香水までつけて穿いているのが悪いのだ。


「相変わらず女の扱いがなっちゃいないね~。そんなんだからモテねぇんだぞ才蔵」


 間の抜けた声が聞こえた。


「佐助か、遅かった……ん?」


 暗闇から足音一つも立てずに声だけ掛けてきた佐助は、その忍び装束と同じ真っ赤な口紅を頬に貼り付けてまま姿を現わした。


「佐助、この非常時に女と楽しんできたのか?」


 やや、怒気を込めて睨む。


「いや、俺は止めたんだがな……」


 もう一人現れた。ロンドン塔に残って援護射撃していた十蔵だ。手はず通りなら撃てるだけ撃って敵を引きつけた後、斜めに張っていた鋼線を使って一気に脱出。それから佐助を拾ってもう半刻(1時間)は早くここに来ている筈だったんだが。


「例のあの女だよ……」


 だよね。この女好きが放って置く筈無いよな。


「貴様ら、一体何の話をしている!?」


 痺れを切らしたモードレッドが割って入った。


「お~!モードレッドちゃんにはまだ紹介してなかったね!」


 親指で十蔵を指す。


「このムサい帽子の髭が筧十蔵。鉄砲の名手ね。そしてそして~」

 闇にひょいと飛び込む。


「こっち、こっち~」


 そして、闇の中から輝くほどの美女を伴って現れた。

 金髪碧眼、目尻がツンと尖った大きな眼、高く整った鼻、紅のたっぷりのった厚めの唇。透けるような白い肌と信じられないほどの起伏を備えた体をドレスに包んだ、正に美女という文字を擬人化したかのような女がそこに居た。


「ハ~イ!こちらの美女はミレディーちゃん。仲良くしてねぇ~」


 ウキウキ顔で彼女の手を引いてきた佐助。当然、その頬に付いた紅は彼女の唇と同じ色をしていた。


「モードレッド卿。お初にお目に掛かります。紹介にあずかりましたミレディー・ド・ウィンターと申します。以後、お見知りおきを……」


 キチンと礼に適った挨拶を済ませるミレディー。慇懃とした態度だが、それがより警戒心をかき立てる。

 正直に言おう。俺はこの女を信用してない。


「会わせるのはもう少し先だった筈だ。佐助、どうして連れてきた?」


 この女は何を考えているか分らない。協力者ではあるものの、決して油断できる相手ではないのだが、それをこの女たらしは……。


「か~たい事いいっこなしよ。別に会わせるだけなら早い方が良いじゃん。俺も早く逢いたかったし!」


「おまえ、また勝手に……」


「い~じゃねぇか。作戦前寝てたおまえと違って、俺は橋に爆弾仕掛けたりとか大変だったの!この位の役得とか別に良いじゃん!」


「だからと言って……」


「ハーイ、そこまで」


 ミレディーが人差し指でチョンっと俺の唇を塞いだ。同時に投げかけられた軽い笑みは、恐ろしいまでに蠱惑的だった。


「前倒ししたのは状況が変わったから。私にとってもあなた方にとっても急ぐ必要が出てきたのよ!」


「状況が変わった?何だ?」


「それは後。まずは約束の履行が先よ」


 言ってミレディーはモードレッドの前に進み出た。


「モードレッド卿。あなたにお話があるの」


 先ほどとは打って変わり、自身の優位を確信した強い口調だった。


「貴様、フランス人だな!」


「ふふ、そう見えて?」


「誤魔化すな!いま戦争中のフランス女がボクに何を問う!軍事機密か?円卓の内情か?いずれにしてもボクは何も話す気は無いぞ!」


「ふふ、震えちゃって可愛いのね。大丈夫よ、私が聞きたいのはそんな事じゃない」


「なに?」


「あなたの事よ!」


 モードレッドの頬を優しく撫で、男なら一撃でとろける程の笑みを浮かべた。


「ボクの……だと?」


「そうあなたの事。でもちょっとこのままじゃ話づらいわね」


 俺の方を見て、顎でクイっとモードレッドの方を示した。


「才蔵」


 呼ばれて俺は、渋々とモードレッドを吊した縄をほどいた。分っているが、いま文字通り顎で使われたのだ。


「一応、逃げないように気をつけてね」


「分ってる!」


 モードレッドを下ろした俺は、彼女を簀巻きのまま背中から抱きかかえるようにして座った。


「あ……、おまえ何を!」


 顔を真っ赤にしてモードレッドがもがいた。親子か恋人同士がやるような座り方だ。そりゃ恥ずかしいだろうが、致し方ないんで我慢してもらう。


「暴れるなモードレッド。これ以上暴れるなら……」


「何!?」


「オッパイを揉む!!」


「!?」


 ビクっとして、モードレッドの動きが止まった。ただでさえ先ほどから腕に豊満な胸が当たりまくっているのだ。これ以上は俺も我慢の限界となる。


「へんたいー」


「へんたいー」


 佐助と十蔵が揃ってヤジを飛ばした。


「うるさい死ね!」


 子供みたいな返ししか出来ないのは、自分でも余裕が無い証だと思う。


「ふふ、お陰で話しやすくなったわ」


 こういう時に大人の対応されるとムカつく。


「さて、それじゃあ改めて……」


 少し真剣な表情となった。


「モードレッド、あなたは誰?」


「!?」


 おかしな質問だが、それを聞いて俺たち全員が戦慄した。


「ふふ、驚いているようね」


 それはそうだ。この質問の意味することは三つ。

 ひとつ目は、ミレディーが転生者の存在を知っているという事。

 ふたつ目は、このモードレッドが転生者である事。

 みっつ目は、転生者に課された世界のルールをミレディーが無視出来た事。

 ひとつ目とふたつ目は容易に想像できるため難しい事じゃ無いが、みっつ目は転生者がどうしても乗り越えられない、何度も俺たちを阻んできた禁忌だ。

 転生者が生前持つ未来の知識や技術。そういった世界を変えうるものを使う事は疎か口に出す事さえ不可能である。そして更に、自身や他者が転生者である事を言及する事も同様に不可能であった筈。

 理由は分からないが、俺たちは一度としてそのルールを破れなかった。

 それをこの女は易々と乗り越えた。


「ごめんなさい。ちょっと意地悪な質問だったかしら?答えたくても答えられないものね」


「……」


「でもこれで、あなたにこそ話があるというのは信じてもらえた?」


「いや、それだけじゃボクである理由にはならない」


「そうね。それじゃこの世界の話から」


「この世界?」


「そう、この世界よ……」


 ミレディーの話に、モードレッドだけでなく全員が聞き入っていた。


「この世界は恐らく神様が作った。そんなの当たり前と思うかもしれないけど、そうじゃなくて、元になる世界が別にあって、その世界の複製として複数の神々により人為的、いや神為的に作られた世界なのよ」


「神々が……。いや、だけど神が何故そんな事をする?」


「理由は分らない。でも目的はわかる」


「目的?」


「そう、その目的は最強最極のいくさ人ミーレスを選び出す為よ」


「最極のいくさ人ミーレス?何故そんなものを?」


「さっきも言ったけど理由まで分らないわ。でもそのブリテン代表として長い歴史の中から選ばれたのはあなた達円卓の騎士団」


 モードレッドの眼に力が入った。改めて最強を背負う重責を感じたのだろう。


「でも、ここでひとつ問題があるわ。それは、アーサー王も円卓も騎士も元の現実世界では存在していないという事」


「な、何を……」


「無理に否定しなくても良いわ。もちろんアーサー王も円卓の騎士達も元になった人物がいるのは知っているわよ。でもそれはあくまで元になっただけの小さな存在。後世、吟遊詩人が詠って画家が描いた伝説の騎士達には遠く及ばない存在ね」


 こっから先の話は、俺たち自身の話でもあるだろう。


「だからそういう幻想の存在、ここでは”幻想人”と呼ぶわね。彼らを呼び出す時、それに相応しい器を持った人物を選りすぐって、それぞれ幻想の殻を被せて転生させる。そうして生まれてきたのが貴方達幻想人ね」


「貴方自身は違うのか?」


「ふふ、それは秘密よ」


 笑いながらも表情を読み取れない。完璧なポーカーフェイスだった。


「話を戻すわ。今の話から、幻想人達が特別な存在だというのは分るわね。でもそれは別の言い方をすると特例。元来、実在したいくさ人を比べ合うこの世界において、特別に出演する事を許されたただのゲストよ」


「言いたい事は分る。つまり全員が幻想人である円卓の騎士は異常だということだろう」


「半分正解ね。残り半分はもう少し考えれば分るわよ。ヒントはそうねえ。あなたがこの特別ルールを悪用するならどうするか考えてみて?」


「……幻想人の中身、転生者を各時代から選りすぐってドリームチームを結成する」


「正解!通常、ひとつ土地に複数の時代の英雄を呼び出す事は出来ないのよ。同じ土地をめぐってケンカしちゃうからね。でもブリテンにおいてアーサー王と円卓の騎士は誰もが憧れた存在。自身にその役が廻ってきたなら、英雄であればあるほど喜んで演ずる筈だわ」


 今の話、逆に考えると円卓の騎士達は全て時代を超えた傑物だという事になる。

 あれ?俺たち真田十勇士と違わね?少なくとも俺は一般人だぞ?


「それで、その円卓の中でも何でボクなんだ?」


「モードレッド。その名を聞いて誰もが裏切りの王子を思い浮かべるでしょうね」


 腕の中で、モードレッドの躰が強ばり、震えるのを感じた。ミレディーは、あえてこの娘の心を抉るように言ったのだ。ならばと俺は、抱き締める腕に少し力を入れ、毛布の上からその手を握った。少女の震えが止まった。


「でもそれはあくまで物語での事。そういった余計な部分を省いて残るのは、アーサー王の後継者という未来」


 その瞬間、モードレッドがミレディーを睨んだ。


「その重要な役に、貴方は女の身で選ばれた。それは、史上稀に見る女傑だという事になるわね」


「買いかぶりすぎだ。現にボクは処刑される寸前だったんだぞ!」


「でもまだ生きてる。神は見放してない証拠よ。だからこそ、その貴方に提案があるの」


「提案?」


「貴方に王になってもらうわ。私たちの力で。そして王になったあなたとフランスは盟を組むわ」


「ぷ、あーはっはっは」


「おかしい?」


「おまえたちは何故、ボクが処刑される事になったか知らないんだな」


 実を言うと俺は知らない。極秘扱いすぎてその情報に手が届かなかったからだ。


「これを見ろ!」


 モードレッドは頭をグイっと右に逸らして、その白い首筋を皆に晒した。

 そこには、牙を突き刺したかのようなふたつの傷痕が残っていた。


「バンパイア……」


「そうだ!ボクは一度嚼まれている!この醜い傷痕によって近い内に吸血鬼となる筈なのだ!」


「吸血鬼になるには、何度か嚼まれないといけない筈よ。待ちかまえて返り討ちにすれば助かるじゃない」


「無理だ!ボクも兄弟も円卓の騎士だぞ。そのボク達が何故撃退出来なかったと思う?」


「何故?」


「その吸血鬼は、”夢の中で血を吸う”からだ!」


「夢だと!?」


 思わず声に出た。


「本当に夢の中なのか?」


「疑うのか!」


「そうじゃない……」


「……ぷっ!」


 佐助が吹き出しやがった。


「ぶひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃ!」


 釣られて十蔵も笑い出した。


「何が可笑しい!嘘でも妄想でもないぞ!」


 モードレッドが怒るのも当然だが、これは違う。


「いや~、違うって。君を笑ったんじゃなくて、後ろの仏頂面を笑ったんだよ」


「そうだな。ひゃひゃひゃ」


 何を?といって、モードレッドがこちらを振り返った。

 彼女の瞳に、苦虫顔の俺が映るのが見えた。


「いいから笑うな!」


 不機嫌を抑えることなく言い放つ。


「まあモードレッドちゃん、心配しなくて良いよ。夢での話ならそいつが何とかしてくれるから」


「夢での?はぁ?」


「勝手に決めるな!夢での俺は忙しいんだ!」


「夢が忙しい?何の話をしている?」


「物のついでだろ?問題あるまい。それに……」


 嘲笑ではない。佐助も十蔵も、親しみと信頼の笑みを浮かべた。


「おまえが、こういう事やらねぇ訳ねぇだろ?」


 返事はせずに、ポリポリと頭を掻いてみせた。


「だからさっきから何の話をしている!」


 一人取り残されているモードレッドが、不満の声を上げる。


「もう良いさ。俺が守る……」


 彼女の頭をワシワシと撫でながら俺は言った。


「約束する。俺が夢の中の吸血鬼を殺す!」


「人の夢に入り込むのは悪魔の業だ。おまえは悪魔なのか?」


 まん丸く見開かれた瞳に、不安と恐れ、それと願いの色が入り交じって見えた。


「俺は悪魔じゃない」


 諭すように語りかける。


「忍び。冥府魔道を生きる人外の化生だ!」


 一応英語で言ったのだが、たぶん意味は伝わってないだろう。


「話はまとまった?」


 こちらにもひとり、取り残されていたミレディーが話に割り込んできた。


「待て、ボクはまだ何も承諾してないぞ!」


 先ほどに比べると明らかに声音が弱い。迷っている証拠だ。


「結論はまだ良いさ。俺が生きる時間を作るから、君はただ暫く守られてはくれないか?」


 こういうのは、いざという時の逃げ道を作ってやると良い。それで人はなし崩しに承諾するものだ。


「いい加減、次の議題に行きたいしそれでいいでしょ」


「う、うぅん……」


 曖昧な返事だがひとまずこれで承諾とする。


「それじゃあ、最初に言ってた状況の変化だけど……」


「おー、忘れてた。それ大事」


「フランスとブリテンが和睦したわ」


「ぶっ!!」


 調子に乗って口を挟んだ佐助が飲んでた水を噴きだした。


「なして?アーサー王とカール大帝は不倶戴天の宿敵で、百年は続く戦争を始めたばかりって言ってたじゃん?」


「状況が変わったって、言ったでしょ。しかもその半分は貴方たちの責任よ」


「俺ら?何んかへました?」


「マーリンよ。占星術か何かでブリテンに不穏の影が蠢くのを察知したみたい」


「うわ、人の努力を無にするインチキ野郎。これだから魔術師は嫌いだ!」


「それと残り半分はこちらの事情」


「こちら?フランス側?」


「そう。南東部のアヌシー湖付近で不審な一団を見かけるようになってね」


「スイスとイタリアの国境付近か?スイスは同盟国だから共和制ローマの威力偵察?」


「そっちは北東の神聖ローマ帝国と決戦中。こちらに手を出す余裕なんか無いし、何より見た事もない格好だったみたいよ」


「それってどんな格好?」


「う~ん、私も直に見た訳じゃ無いから上手く説明出来ないけど、あえて特徴を言うなら」


 地面に何やら書き始めた。


「こんな模様の入った旗を掲げていたそうよ」


 そこには漢字一文字で”毘”と書かれていた。


「……」


「……」


「……」


「えっと……その……」


「何やってやがる!越後の龍ッッッ!!」


 3人の絶叫が見事に唱和した。




「それじゃあ、その上杉謙信って貴方達のお客さんなの?」


「いや~、そうじゃないけど、こっちはこっちで不倶戴天の宿敵な訳よ」


「ふ~ん。まあともかく、後ろが不安になったシュルルマーニュはアーサー王からの一時講和を受諾。元々一時帰国を願い出ていたガウェインは早期帰国する事に。あたな達も会ったでしょ?」


「会ったというか、酷い目に遭った」


「それはガウェイン兄さんの台詞だと思うけど……」


 会話に口を挟むようになったのは、少し元気が出た証拠だ。


「まあそういう訳で、追っ手にはガウェインが着いて、アーサー王も本軍を率いて戻ってくる。モタモタしてられないわよ!」


「急ぐか?しかし経路はどうする?」


「確かバダミア湖だったわよね。とすると当初の予定だったバーミンガム方面は無謀ね。ガウェインの本拠地よ!」


「大きく西に迂回してウェールズから抜けるのは?」


「そ~りゃ駄目だ。時間が掛かりすぎてアーサー王本軍が帰って来ちまう」


「なら、同様に東側への迂回も駄目ね。となると……」


「バーミンガムを避けた出来るだけ中央寄りの道。レスターからノッティンガム。リーズとマンチェスターの間を通ってヨークシャーに飛び込む。いざとなれば森に逃げ込める経路だな」


「それしか無いわね」


「急ごう、ガウェインが手配書をバラ巻く前に一気に抜けるぞ!」


「ちょっと待って!」


 制止したのはモードレッド。せっぱ詰まった眼をしていた。


「本当に、本当に夢の中でも守ってくれるのか?」


 その声には、少女の悲痛な思いが込められていた。


「本当だ。約束したろ」


 精一杯の優しさを込めて言った。


「そうか……なら……寝させて……もう何日も寝て……」


 言い終わらない内に寝息を立てだした。寝たら化け物が襲ってくるんだ。今日の処刑はそれからの解放も意味していたんだろう。


「お休み。俺もすぐに行くよ」


「おう、すぐそこに馬車を用意している。早いとこおまえも寝ちまいな」


「すまないが道中の御者と見張りを頼む。俺はまたひと仕事してくる」


「分ってる。それより夢で嬢ちゃんに会ったら……」


 佐助が軽く俺の胸を叩いた。


「優しくするんだぞ」


 りょーかい。



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