第14話 シルバーバック起動
銃を突きつけられた女性も、周りにいた政治家や軍関係者はもちろん。ユウタも事態を飲み込めない。
観客の中にも緊急事態とは思わず、何かのパフォーマンスかと、
その中で即座に動いたのが、政治家や軍関係者の後ろに立っていたボディガード達だ。
彼らはVIPの盾になる様に前に出ると、ジャケットで隠していた拳銃を両手で構え、ステージ上のシュウゴに狙いをつけようとする。
シュウゴはそれより早く動き、進行役の女性の首に左腕を絡ませて自らの盾とし、右手に持った銀色の銃を人質のこめかみに押し付ける。
ボディガード達は人質が邪魔で撃つことができず、警告を発することしかできない。
「人質を放しなさい!」
進行役の女性は今の状況を信じられないのか、顔面蒼白で目は大きく見開き、口を半開きにしたまま全身を震わせていた。
各テレビ局のカメラが、ステージ上で行われている出来事を無慈悲に包み隠さず、お茶の間に流し続ける。
「要求はなんだ⁈」
ボディガードの質問に、シュウゴが面倒くさそうに口を開く。
「要求? お前たち下等な人間に要求することなど何もない……私は
まるで子供のような口調で、嬉しそうに夢を語ったシュウゴは、曇り空を見上げる。
「これは復讐だ。生まれてからずっと私を縛り付けるこの星と、大した知能もない人間に対する復讐だ! シルバーバック。先ずはあいつらを殺せ」
ボディガード達とシュウゴの睨み合いはすぐに終わった。
政治家や軍関係者の頭上が大きな影に覆われたからだ。
見上げると、目前に死を意味する巨大な鉄の拳が迫っていた。
シルバーバックの拳によって悲鳴をあげる間も無くVIP達は押しつぶされ、砕けたアスファルトと混ざり合う。
びしゃりと、進行役の女性の全身が赤く染まる。
それが何か理解した途端、女性は一生に一度も出すことのないような長い長い奇声をあげて崩れ落ちた。
目を背けたい光景を目の前で繰り広げられても、観客達は見えない手によって首を固定されたみたいに、目を逸らす事も出来ない。
シュウゴは、石像のように固まり息をするのも忘れたかのように静まり返った人々に目を向ける。
その時、ユウタはシュウゴの目を見た。
人を殺した事に対して何も感じていないように見えた。今目の前にいる人々は虫か何かにしか見えていないのだろう。
シュウゴは左腕の腕時計を介して、シルバーバックに命令する。
「前進しろ。邪魔するものは全て破壊し、見つけた虫けらは一匹残らず、殺せ」
命令を受けて、シルバーバックは人類を守る存在という隠れ蓑を取り払い、殺戮ロボットとして動き出す。
ゴリラのように拳を地面につけて歩きながら、観客達に一歩近づいた。
そこで、やっと、観客達は自分に迫る脅威と認識したのだろう。
悲鳴を上げて殺戮ロボットから少しでも遠くに行こうと逃げ惑う。
足の遅い人を押しのけ、倒れた人を踏みつけ、はぐれた子供達が泣き喚く。
阿鼻叫喚の会場に、非常事態を告げるサイレンが会場中に鳴り響いた。
後に続くのは機械的な音声のアナウンスだ。
『侵略者の襲来が確認されました。宇宙から東京に接近中です。市民の皆さんはすぐさま最寄りの地下シェルターに避難してください。繰り返しお伝えします……』
目の前に迫る鋼鉄の死神から流れるのに必死で、会場にいた人々には、そのサイレンもアナウンスも耳に入ることはなかった。
そんな中、ユウタは一歩も動けない。
すでに周りの人々はどこかへ逃げて誰もいなかった。
ユウタは今起きていることが信じられずに動けなかった。
目の前では、シルバーバックを足止めしようとした防衛軍の装甲車両が潰され、中から脱出した兵士を鉄球のような拳で吹き飛ばしていた。
更には侵略を告げる警報とアナウンス。ユウタの頭は現実を見ようとはしていなかった。
そんな時、手に持ったままだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます