第11話 銀の猟犬

  オーパスが着信を告げた。


  電池残量二割と表示された液晶を見ると、フワリからだ。


「もしもし」


『もしもしフワリだよ』


「こっちに着いたの?」


『うん。一時間かかって、やっと空いている駐車場見つかったよー』


  電話越しの声が同時にため息を発したように聞こえた。


『ゲート前も人凄かったけど、中も人多いね。それでユーくん今どこにいるの?』


「今は海軍ブースに向かってるよ」


『海軍ブース……ごめんそれどこだろ?』


「あれ? ゲートの係りの人からパンフレットもらえなかった?」


『あっもらった。ごめん、すっかり忘れてたよ。えーと」


  なかなか見つからないのか、何度も紙が擦れる音が聞こえてくる。


「フワリ姉疲れてない? そこで待ってて、迎えにいくよ」


「ん、大丈夫だよ……あった海軍ブース! フワリ今からそっちいくからそこで合流しよ」


「大丈夫なの? じゃあ海軍ブースで待ってるよ。イージス艦の前で待ち合わせでいいかな?」


『イージス艦、イージス艦……見つけた。うん。すぐ行くからね』


  「分かった。じゃあ後で」


  フワリ姉。大丈夫かな。あっやばい!


  通話を終えた携帯端末オーパスを見ると、電池残量が一気に減っていた。


  電池が切れたら困ると、ユウタは走って海軍ブースに向かう。その途中で、


「ん……あれ? シルバーハウンド‼︎」


  誰かに見つめられているような気がしてそちらに顔を向けた。


 普段ならトラックが止まっているであろう場所には様々な軍用車両が並んでいる。その緑一色の中に、銀色のSUVを見かけたのだ。


  が、見間違いだったのか、それともユウタの視線に気づいたのか、人が視界を遮った一瞬のうちに、まるで幽霊のように消えてしまう。


  あれ? いないや。まさか姿を消したとか?


  ユウタはシルバーハウンドを見かけた所を、試しに写真で撮って見るが、それらしいのは写っていなかった。


  大声を出したからだろうか、周りの人がこちらを見ていることに気がつく。


  ユウタは頰を赤らめながら、その場を離れた。


 まあ素人に見つかったらプロ失格だよね。いけないこんなところで油売ってる場合じゃないや。フワリ姉が来るまでに到着してないと!


  ユウタは見間違いだろうと結論づけて次のブースへ。




 海軍ブースにも沢山の人がいたが、決めておいた待ち合わせ場所には、ピンクのショートボブの幼馴染の姿はない。


 まだ来てないな。うーん。


 ユウタはSNSを起動させ、フワリに短いメールを送る。


「えっと『フワリ姉。先に船内の写真撮ってるね』っと」


  フワリから『うん分かった』と簡潔な返事が帰って来た。


  ユウタはすぐさまカメラを起動して、港に威風堂々と佇む船に向かった。


 港に停泊しているのはコンテナ船ではなく、海軍の艦艇達だ。


 空母によく似たヘリ搭載型護衛艦や、潜水艦にイージス艦。


  ユウタは写真を撮りながら、イージス艦の方へ近づいて行く。


  今回のイベントではイージス艦に搭乗することが出来――流石に機密情報があるので全ては無理だが――間近で兵器の見学や写真を撮ることができる。


  ユウタはオーパスを構えながら艦内を歩き回る。


  八角形のレーダーが特徴的な艦橋に、プラズマミサイルが装填された垂直ミサイル発射システム。


  レーザーで敵ミサイルを迎撃するLファランクスとピンポイント砲撃や近距離戦で役立つレールラピッドカノン。


  とにかく、ユウタは撮っていいものを写真に収め、脳裏に焼き付けるように、瞬きも忘れて見つめ続ける。


「はあ、撮った撮った。はあ〜」

 

  ユウタは電池が切れる前に写真を撮り終えたくてほとんど走るように歩いた。


  そのせいで運動不足が仇となり、息が上がって肩が上下するのを止められなくなっていた。


  船を降りても、待ち合わせ場所にはフワリの姿はない。


  一瞬探しに行こうかと思ったが、メールが来て後少しで着くらしい。


  ユウタはそこで待つことにしたが、手持ち無沙汰になってしまう。


  そこで、今日撮った写真を見返していると、新たなメールが届く。


  一瞬、フワリかと思ったが、送り主の名前が違っていた。


『よう、イサム。今何してる?』

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