第10話 バッテリーが心許ない
ユウタがゲートの入り口に着いた時には、フワリと別れてから二時間も経っていた。
ゲートにいた係員にチケットを見せてハンコを押してもらい、背負っていたバックパックを空港にあるようなX線検査機に通す。
問題なしと判定され、ユウタは返された荷物と一緒に会場のパンフレットをもらって、ゲートを通る。
イベント会場は、外の入り口よりも沢山の人でひしめきあい、まさしく足の踏み場もない状態だ。
それを見てユウタの口から、自然と声が漏れる。
「……フワリ姉と合流できるかな」
昨日充電しないで寝てしまったので、バッテリーの電源が心許ない。
これから大量の写真を撮るのに途中で電源が落ちるのは避けたかった。
後でフワリ姉から掛けてくるから、それまで待とう。
ユウタはイベントを楽しむ事を優先する。
会場には様々な兵器が展示されていて、ユウタのみならず男の子なら興奮しないわけがない。
パンフレットを見ているだけなのに、ユウタの黒い瞳に興奮の証である星が光る。
まずゲートを通った時にもらったパンフレットを見ながら、ユウタが最初に行ったのは一番近い空軍のブースだ。
そこには人類が地下から脱出して、大空を守ってきた歴代の戦闘機が並んでいる。
ユウタはオーパスをカメラモードにした。
特撮をよく見るユウタは、小学生のように目を輝かせて、つい声を出してしまう。
「本物のイーグルにラプター! 遂に本物見られた! うわぁどっちもカッコいいなぁ」
イーグルはF-15の愛称で、その大柄なボディと、どこか愛嬌のある丸みを帯びた機首からは想像もできない戦闘力を持ち、
十八年前に現れた、怪獣メカキョウボラスに深手を負わせた武勇伝は今も有名だ。
F-22はF-15の後継機で、猛禽類を意味するラプターの名の通り、ステルス性能を発揮する直線的なボディは、まさしく戦うために生み出された飛行機といった感じだ。
その二機の後を継ぐのが、防衛空軍の現役戦闘機。
「E-ペッカー!」
他の客と同じかそれ以上に、シャッターを切りまくる。
E-ペッカーは日本とヨーロッパで共同開発された機体だ。
その姿はシャーペンのような細長いボディに、垂直尾翼と、三角定規のような大きなデルタ翼。
前部に取り付けられた小さなカナード翼で構成された一人乗りの主力戦闘機だ。
全長は十四メートルと、前の二機に比べて小柄だが、その分運動性は高く最高速度もマッハ三と退役した二機を大きく引き離す。
武装はビームバルカン一門とプラズマミサイルで、そのボディは対ビーム装甲になっている。
これは先の戦いで異星人の円盤に歯が立たなかった教訓を生かして作られたからである。
ユウタは写真を撮りながらも、半ば伝説になっている戦闘機があることを期待して、辺りを見回したが見つからなかった。
空軍ブースでの見学と写真撮影を終えたユウタは、バックパックの肩紐を両手で持って走らりながら陸軍ブースへやってきた。
そこには防衛日本軍の主力とも言える歩兵の装備に迫撃砲や榴弾砲が展示されている。
ブースの中で沢山の人が並んでいた。
そこでは歩兵となって敵と戦うVRシューティングがプレイできるようだ。
ユウタは興味があったが、そこを並ぶのは後回しにして、展示されている車両や装備を写真に収める。
74式に90式発見! このズッシリとした安定感と重量感が堪らないよね〜。
見ていると自然に目尻が垂れ下がっていく。
ユウタが陸軍ブースで一番楽しみにしてたのか、歴代の主力戦車たちだ。
お椀をひっくり返したような丸っとした砲塔と、大きな転輪が特徴の74式。
74式と対照的に、全体的に角ばった筋肉質な印象を抱かせる90式。
どちらも特撮映画に幾度も登場していて、その奮戦する姿から、怪獣との戦いに必要不可欠な存在だ。
ユウタは74式と90式を写真に撮りながらもう二台の戦車を探す。
10式とDH-ティーガーはどこにいるんだろう?
その時、後ろから重低音で唸るエンジン音が聞こえてきた。
音のする方を見るとそこには人だかりができている。
何が起きているのかは分からないが、皆が注目するほどの行事が行われているに違いない。
ユウタは人にぶつからないように気をつけながら、何が行われているか確認する。
そこでは、今まさに競争が始まっていた。
探していた10式戦車がエンジンを限界まで回転させて履帯を軋ませながら、全速力で直線コースを走っていく。
ユウタのところからでは対戦相手は見えない。
10式戦車の前にはいないので、後ろにいるのかと思ったがそこにもいなかった。
対戦相手の長い二問の砲身を見て初めて、10式戦車と並んでいたことに気づく。
緑と茶の二色迷彩に砲身含めて全長十五メートルの戦車だ。
最高時速七〇キロの10式戦車を、静かなエンジン音で軽々と追い抜いてゴールした。
見学していた人から拍手が沸き起こり、ユウタは拍手の代わりにシャッターを押しまくる。
日本、ドイツ、ロシアで共同開発されたDH-ティーガーは、無人砲塔を装備した事で全高が低く車体がコンパクトになり、二人の乗員で操ることができる。
最大の特徴は無人砲塔に装備されている割り箸を縦に割ったような細い主砲だ。
それは新開発された二問のレールガンだ。
反動の軽減、更なる弾道の高速化、それによって命中率と装甲貫徹力が飛躍的に高まり、以前に活躍してきた戦車砲全てを時代遅れとしてしまった。
DH-ティーガーを写真に収めて満足気な表情のユウタは、海軍ブースに向かおうと陸軍ブースから出ると、
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