ジェムストーンズ1人目【ガーディマン】〜大切な人を護る為に甘えん坊は立ち上がる〜

第9話 高校一モテる男

「ユウタ。お前こんな所で何してんだよ」

　自分が一番偉いと信じて疑わない。自信溢れる声がユウタの名前を呼んだ。

　 彼の名前は執児（シツジ）爪牙（ソウガ）。

　ユウタと同じ高校に通い、同学年で同じクラス、更に小学校から同じ学校という腐れ縁の悪友だ。

　 ツイストパーマで立たせた黒髪は、まるで剣山のように鋭い。

　 獣の牙と見紛う八重歯を覗かせた不敵な笑みを浮かべながら、オレンジ色の瞳をユウタに向ける。

　 黒の革ジャンの下に白いタンクトップとダメージジーンズという出で立ちは、

　 滲み出る闘犬のような雰囲気と相まって、秋という肌寒い季節でも違和感を感じさせない。

　 身長は百七十三センチとユウタより二十センチも高い。

　タンクトップが浮き上がるほどの鍛えられた筋肉によって、八頭身というモデル体型でありながら、洋画のトップスターのようだ。

　 ユウタは、ソウガの両側にいる腕を絡ませる女性が気になった。

「ソウガ君こそ。何してんの？ それに、その……お二人は？」

　 ソウガは面倒くさそうに応える。

「んん？ ああ、この二人？ 俺と付き合いたいってうるさいから、今日会う約束したんだよ」

　 ソウガは学年一、いや高校一モテる男であった。

　 全校女子のみならず、女性教諭にまで告白された事があるらしい。

　 長くは続かないのか取っ替え引っ替えで、毎日隣に立つ彼女が変わっている。

　 ただ本人曰く、向こうが一方的に寄って来るとか。

　 今まで彼女などいた事がないユウタには、別の世界の事のようで、頭がついていかない話だった。

　 ユウタが半ば放心状態の中、ソウガは続ける。

「でだ。今日港でイベントがあるらしいって事で来てみたら――」

　 ユウタがソウガの言葉の後を継ぐ。

「入れなかった？」

　 ソウガは頷いて犬歯のような鋭い八重歯をむき出しにした。

「ああ、『チケットがないと、入場できません』だってよ。もう少し融通聞かせろよな」

　 係員の口真似をしたのか、ソウガの右腕に絡みつく女性の一人が「似てる似てるー」と笑った。

「ユウタ。並んでるってことはお前もイベントに参加するって事か？」

「うん」

　 ユウタがチケットを見せると、今度は左腕に絡みついたままの女性が上から目線でこんな事を言ってきた。

「ねえソウガ。そのチケットもらっちゃったら？ この子、大人しそうだから文句なんて言わないでしょ」

　 それは、困るんだけど……。

　 ユウタはそう思っても、女性二人の口撃に対して反撃ができない。

　 そもそも化粧が濃すぎて、何歳なのかもよく分からない。

「ねえ。あんたそのチケット寄越しなさいよ」

「そうよ。私達が有意義に使ってあげるから」

　 二人から匂う香水のキツイ匂いが、ユウタにとっては毒薬のようで気持ち悪くなる。

　 二人の女性が攻める間、ソウガは自分の出る幕ではないと思っているのか、口を出さず、オレンジ色の瞳でユウタを見据える。

　 チケットを見せたまま固まっていたユウタは、負けないように何とか声を絞り出す。

「ご、ごめんなさい。これはあげられません。今日はその一緒に参加する人もいるし……とにかく駄目です。ごめんなさい！」

　 ユウタの反撃に、女性二人の化粧で整えられた見せかけの仮面が剥がれた。

「何こいつ生意気なんだけど」

「そうよ。ソウガからも何か言って……あっ」

　 女性の威勢の良さが途端に風船のように萎む。

　ソウガは何も言わず、眼光鋭く二人の取り巻きを睨みつける。

　 たったそれだけで二人の女性は顔から汗をかき、せっかく塗り固めた化粧が化けの皮のように剥がれていく。

　 ソウガはそんな二人からユウタを見る。

　 その瞳は女性に注いでいた鋭い針とは全然違う親しみが込められていた。

「ユウタ。一緒に行くっていうのは誰だ？」

「フワリ姉だよ。フワリ姉も今日のイベント楽しみにしてるんだ。だからこのチケットは……」

　 ユウタは視線に耐えられずに下を向く。

　 チケットは取られまいと、両手でしっかりと包み込む。

「おいおい。俺がお前の楽しみを邪魔するわけないだろうが」

　 その一言にユウタの顔に笑みが戻っていく。

「そんな泣きそうな顔するなって。そんな弱っちい雰囲気出すから、ナメられるんだぞ！」

「ごめん」

「あ〜謝るのもなしなし。余計弱っちく見えるだけだからよ。いいか？ 嫌な事があったら、ハッキリと大きな声で嫌だって言うんだ。分かったな」

「うん」

「もし、それでも駄目なら、俺様に言いな。そいつを――」

　 ソウガは少しも躊躇うそぶりを見せずに、沢山の人がいる中で大声で言い放つ。

「――ぶっ殺してやるからよ」

　 ソウガの一言を聞いて、衝撃が強すぎたのか、絡みついていた女性たちが離れる。

「じゃあなユウタ。また学校で会おうぜ！」

「う、うん。また学校で」

　 ソウガはジーンズのポケットに両手を突っ込んだまま、ゲートとは反対方向に向かって歩き去る。

　 その姿を見て女性たちも追いかけるが、ソウガは全く相手にしていなかった。