第7話 嫌な事から目を逸らす
エレカは狭いコンビニの駐車場にスムーズに停車する。
「フワリも一緒に行こうか?
「大丈夫だよ。すぐ戻ってくるから」
「
ドアを開けたユウタは、背面にガーディマンのイラストが描かれたオーパスをフワリに見せた。
「ちゃんと持ってる」
ユウタは返事を待たずにドアを閉める。
閉めた後で、一瞬怒ってるかなと思い、ちらりと車を見る。
フワリはニコニコしながら視線を下げていた。
どうやらテレビを見ているようだ。ユウタは胸をなでおろす。
コンビニの入り口に向かっていると、側の駐輪場の電動自転車に腰かけた四人の男子に目が止まった。
四人とも面識がなく誰かは分からない。
別にこっちのことは知らないだろうけど、関わり合いになりたくないな。
そう思うのも無理はない。三人が一人を囲んでいるという状況だからだ。
ユウタは、そこで三人が一年上の上級生であることを思い出した。
以前、学校の廊下を歩いていた時、すれ違いざまに睨みつけられた事があった。
三人はいかにも弱々しい雰囲気を放つメガネをかけた男子一人に顔を近づけて何か話しているようだ。
雰囲気から、友達には見えず、誰の目からも、いじめられているようにしか見えなかった。
それを見た人は気づかぬふりして通り過ぎていく。
ユウタもコンビニに入ろうとした直前、メガネの少年と目が合いそうになったので、できる限り自然に目をそらす。
三人から身を守ろうとしているのか、カバンを、まるで盾のように胸の前で持っているのが目に焼きついた。
ごめん。僕じゃ何もできないんだ。
コンビニに入ったユウタは、早足で目的の物を探す。
ビニール傘は、見た目も性能も二十世紀から変わらず嵩張るものだ。ただ値段はかなり安いので急に必要になった時に重宝されている。
入り口前に沢山置かれている一本を手に取り、レジに並ぶ。
レジは二つあるが、店員は一人しかいない。
なのに五人も並んでいる。
どうやら先頭の客がカゴ二つ分も買ったので、それを捌くのに時間がかかっているようだ。
もう。早くここから離れたいのに!
と、叫びたかったが、そんなことをしても、周りから変な目で見られるので心の中に留め、仕方なく最後尾に並ぶ。
並んでいると、嫌でも視界に入ら入り口から、あのメガネの少年が、顔を伏せたまま入ってきた。
ユウタは無視しようと目を逸らすが、視線は勝手に彼を追っていく。
やっと大量の買い物をした客が出て行き、列が動き出す。
外にはメガネの少年に詰め寄っていた三人が歯を見せて笑い、時々、何かを指差す。
一瞬自分の方を指差してると思ったが、そんな事はなく、メガネの少年を指し示していた。
彼らが何を頼んだのかは分からないが、メガネの少年の全身から漂う暗い雰囲気から、ユウタには何と無く察しがつく。
もしかして、万引きしてこいとか言われてるんじゃ……。
そうだとしたら説明がつく。メガネの少年はレジで忙しそうに作業する店員の方と商品棚に視線を送りながら、店の奥、店員に見えにくい死角へカニ歩きしていく。
そして棚が邪魔して、ユウタからも見えなくなってしまった。
早く終わらせてどっかいってくれよ。
ユウタは、店員に声をかけられるまで、棚で隠れて見えなくなったメガネの少年に、届くはずのない念を送り続けていた。
「ありがとうございましたー」
ユウタは買った傘を手に持ってコンビニを出る。
出がけに見ると、メガネの少年は商品棚の前で顔を伏せていた。
両手は固く拳を握りしめていて、震えているようにユウタには見えた。
駐輪場には先程の三人がいて、早くやれよといった表情でメガネの少年を見ているようだった。
三人の一人がこっちを見たので、慌てて背中を向け、フワリの元へ急いだ。
「あっ、お帰り。遅かったね」
ドアを開けると、そこにはいつも通りのフワリがいて、少年忍者が活躍するコメディアニメを観ていた。
「う、うん。ちょっとお客さん多くて並んでた」
ユウタはコンビニで見た事は言わず、早口でまくし立てながら買った傘を後部座席に放る。
「? ユーくん何かあったの? 様子変だよ」
フワリはユウタの事になると勘が冴えるようだ。
ユウタは努めて平静を装うが、声が上ずる。
「何にも! 何にもないよ。早く行こうよフワリ姉」
「……分かった。じゃあ車出すからシートベルトして」
「うん」
ユウタは心の中で早くここから離れたいと思いながらシートベルトを締める。
そういう時に限ってなかなか上手くいかず、金具がぶつかる音だけが車内に響く。
「あれ? なんで、上手くいかないんだよ。よし入った! さあ早く離れ……じゃない。行こう」
「うん。じゃあA Iさん。東京港までお願いします」
「畏まりました」
駐車場から発進したエレカはコンビニで起きたことなど知る由もなく動き出す。
……嫌なもの見ちゃったな。早く忘れよう。
ユウタは車内でずっとその言葉を唱え続けていた。
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