第6話 傘を忘れる

  フワリがカーナビを指差す。


「ユーくん。テレビつけてもいい?」


 ユウタは相変わらず窓の外を見たまま返事した。


「どうぞ」


「ありがとう。AIさん。テレビをつけてください」

 

  フワリはAIにさん付けしている。


 けれど最近はロボットのペット――寿命などで死ぬことがなく、修理すれば何十年も一緒にいられる為――が普及しているので、違和感を感じる人は極少数だ。


「畏まりました」

 

  AIが指示を受けて運転席と助手席に挟まれたカーナビをテレビに切り替える。


  フワリはチャンネルを変えながらユウタに質問。


「ユーくん。何か見たいのある? あっ、アニメやってるよ」


  アニメという言葉に反応して首を動かすと、子供達に大人気の長寿忍者コメディが放送されていた。


「いや、特に見るのないから、フワリ姉が好きなのでいいよ」


  実はユウタも小さい頃から見てるので大好きだが、今は忍者ものを見る気分ではない。


  フワリは「そう」と少し寂しそうな声音で言ったが、好きなのか忍者コメディのチャンネルを変える気配がなく最後まで見ていた。


  その番組が終わり、フワリはチャンネルを変えて次はニュースを見る事にしたようだ。


  若い男性アナウンサーが堅い口調で最近起きたニュースを伝えていく。


 ユウタは右から左に聞き流す。


『……昨日亡くなった諸星博士は、六十五年前の惑星脱出計画の探査船事故の唯一の生存者で、宇宙防衛軍の設立に深く関わっていました。関係者は深い悲しみに包まれ……』


  次々とニュースが紡がれていく。


『核兵器廃棄計画により一年前に発射されたロケットは、無事に太陽を目指していることが確認されました。成功を受けて、今後も定期的に太陽に向け、封印されている核兵器を搭載したロケットを発射していく予定だということです』


  窓に映るフワリはニュースを聞いて難しい顔をしていた。


「早く天気予報始まらないかな」


  ニュースは続く。


『ふくふく、失礼しました。福福ふくつ産業のOFシリーズが警察に導入されることが決まったようです。今まで警察はコストの問題で導入を見送っていましたが、専門家によると、最近の犯罪の増加に対応する為……』


  車内の二人には特に関係ないニュースが続き、アナウンサーの声が車内に広がる。



  『では、今日の天気予報お願いします』


  天気予報のコーナーになり、画面に女性天気予報士が現れた。


 それを見てフワリの姿勢が、わずかに前のめりになる。明らかに興味があるのがユウタにも分かった。


「やっと始まったー」


『希望市の今日の天気は晴れ。ですが、今日防衛軍のイベントが行われる東京港は、午後に急な雨が降る可能性がありますので、行かれる方は傘を忘れないようにしてください』


「雨降るって。ユーくん傘持って来てる?」


 ドアに頬杖をついたままユウタは返事する。


「持ってきて――」


そこまで言ってから、バックパックの中に傘が入ってないことを思い出す。


「……あっ忘れた」


  アンヌには、忘れ物はないと大口を叩いて出たのにこれである。


「持ってきてないの? でもフワリが持ってきてるから、雨降ったら一緒に入ろうね」


 ユウタはフワリとの相合傘の姿を想像した。


 フワリ姉と一緒に傘の下に入る。ソウガ君に見られたら絶対からかわれるぞ。


「コンビニで傘買ってもいいかな」


「いいけど、傘貸すよ」


「ありがとう。でも、二人で入ったら濡れて風邪ひいちゃうよ。だから近くのコンビニで傘買ってくるよ」


「そう? じゃあ、AIさん。近くにコンビニありますか?」


  AIが運転手であるフワリのリクエストに応じる。


「検索中、検索中、ここから五分の距離に一軒発見しました」


「そこに向かってください」


  ユウタとフワリを乗せたエレカは近くにあるコンビニに向かう為、四つ共全く同じ装飾の窓のないビルに囲まれた交差点を曲がった。

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