第9話 圧倒的な力

「まさかあいつ、追いかけて来やがったのか⁉」


 ズシンズシンという音が、こちらに向かって近づいてくる。


「ど、どうするんですかアレン⁉」


 慌てるアリシア。今の二人は完全に丸腰まるごしだった。


 のっそりと。


 森から姿を現したオーガが、二人の姿を見て残忍な笑みを浮かべる。みつけた、と、言わんばかりに……。


「大丈夫だ、俺に任せろ」


 アリシアを背にかばい、オーガと彼女の間に立つアレン。


「こいつにはもう一つ能力があってな。余裕だ。だけど」


 アリシアの方を振り返ると、アレンは腕輪を見せながら不敵な笑みを浮かべた。


「あー、そうだ。お前こそ──嫌いになるなよ?」


 そう言い残し、アレンは足を踏み出す。


「さっきはよくもいたぶってくれたな」


 両手をひらひらと振り近づいてくるアレンに、オーガは下卑た表情をした。丸腰の獲物がやって来たぞ、と。


「こっからは仕返しの時間だ。」


 右腕を構えるアレン。


「──『我が身を喰らえ、憎悪ぞうおの龍』」


 それは、過去の自分が欲した物を手に入れるための言葉。自分の身をおびやかす相手を打ちほろぼす、、圧倒的な、『力』。


「お前の力、もうちっとばかし借りるぞ」


 一瞬、アレンの腕輪が光ったように見えた。


 そして、アレンの見た目に変化が起きた。右腕が、腕輪を中心に少しずつ黒いうろこのような物に包まれていく。それは鎧のようにも、呪いのようにも見えた。


「さあ、来いよ」


 残忍に笑うアレンに、オーガは持った大剣を両手で構え、振り下ろした。


 ズン! と衝撃が走り土埃が舞う。


「アレン‼‼」


 悲鳴にも似たアリシアの声が響く。


 果たしてアレンは。オーガの大剣を、その硬質化こうしつかした鉤爪かぎづめのような手で受け止めていた。


「グオオオ⁉」


 驚いた様子のオーガ。アレンは受け止めた大剣を掴むと、そのままオーガごと軽々と投げ飛ばした。


 宙を舞った巨体が重力に導かれるがままに落下する。地面に打ち付けられたオーガが頭を振りながら立ち上がる。アレンは、未だにその笑みを崩さずたたずんでいた。


 まるで、力を振るうのが楽しいと言わんばかりの獰猛どうもうな笑み。


「グオオオオオオオオ!」


 咆哮を上げ、オーガがアレンの方へと走り出す。勢いそのままに大剣を振り下ろす。


 刹那せつな、アレンの体がかすんだ。大剣が切り裂いたのはアレンの残像ざんぞう


 その残像はオーガの背後に収束した。


「こっちだノロマ!」


 隙だらけのオーガの背中に跳び蹴りを喰らわす。面白いくらい簡単に、またも巨体が吹っ飛んだ。


 まるで冗談のような光景がアリシアの前で繰り広げられていた。二回りほどの体格差のあるオーガの攻撃を、アレンが簡単にいなしている。


 力任せで繰り出される大剣の乱舞らんぶを、右手でことごとく弾きながらアレンが笑う。


「飽きた。しまいだ」


 オーガから繰り出されたなぎ払い攻撃に、正拳突せいけんづきを放つ。ガラス細工のように呆気なく、大剣が砕け散った。


 武器を失ったオーガが、両手を握り合わせ、ハンマーのように振り下ろす。それに向かってアレンは拳を振り上げ、アッパーで対応する。


 メキメキメキィ‼ とオーガの腕から異音が響き、内側に火薬でも仕掛けていたかのように、皮膚が弾け飛んだ。


「グオオオオオオオオオオオ」


 悲痛なうめきをあげるオーガに、アレンが跳躍する。


 オーガの頭の高さまで飛ぶと、渾身こんしんの一撃をその頭に打ち込んだ。


「────」


 頭を吹き飛ばされ、声を上げることもなくオーガの巨体が地に沈んだ。

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