第3話 ギルドへ

 ギルドと呼ばれている機関は、傭兵と依頼主の仲介役ちゅうかいやくをしている。


 そのギルド本部の受付横に、ドンと置かれた大きな掲示板。そこにはおびただしい数の依頼内容の書かれた紙が貼ってあった。


「さてさて、どれが一番気前が良いかなぁっと。うぅん、分かっちゃいたけど中々高額な依頼は無いよな……」


 ぼやくアレンと掲示板を遮るように、ギルドの女性役員が現れた。つややかな黒髪を肩の辺りで切りそろえた、若くて美麗な女性だ。


「お、お姉さん。見ない顔だね。新入りかい? もしよかったらこれからお茶でも……」


「どいていただけますか? 仕事の邪魔ですので」


「ぷぷっ」


 アレンが言葉を遮られながらナンパを失敗する様子を見て、アリシアが小さく吹きだした。


「……おい、しばき倒すぞこの野郎」


「やれるもんならやってみてくださいよ、この現金泥棒」


「言ったな? 俺はやるときはやる男だぞ!」


 賑やかに言い争いを始めた二人を置いて、ギルド役員のお姉さんは掲示板に新しく依頼の書かれた紙を貼った。


「お、また新しいのが増え……? っっっっっ!」


 突然目の色を変えてその依頼用紙をものすごい勢いで剥がし取った彼に驚いたアリシアが声をかける。


「ど、どうしたんですか急に」


 するとアレンはにんまりと口元に笑みをたたえながら、たったいま剥がした依頼用紙をアリシアに突き出した。


「読めってことですか? えっと、『領地りょうちの近隣にあるベルアの森に恐ろしい魔物が住み着いたようだ。先日、飼っていた家畜が全て襲われた。もし腹を空かせたそいつが次に襲うとしたら私の屋敷しかない。なぜなら、私が大金持ちでナイスでビューティフルな貴族だからだ。きっとそうだ。恐ろしい、恐ろしくて夜も眠れない! というわけで傭兵ギルドの諸君に依頼を出すことにした。この魔物を倒し、私の暮らしに平穏をもたらした物には、ドミナント金貨二枚を報酬として支払おう。私にとっては端金はしたがねだが、諸君らには大金であろう? 健闘を祈っておるぞ』」


 読み終えたアリシアは眉にしわを寄せた。


「なんだか腹が立つ内容ですね。普通言いますか? 自分で自分のことをナイスでビューティフルって」


「おうおうおう違うぞアリシアさん、引っかかるところはそこじゃな~い。もっとよく読んでくれ?」


「なんですかその人を馬鹿にしきった顔は。やめてください……。えーっと、そうですね。ドミナント金貨二枚を端金って言ってくるあたりも、鼻にかけた感じでむかつ──えええっ!? 金貨二枚ッ!?」


「しーっ! ばっか野郎静かにしろ! ほかの奴らが集まってくるだろうが!」


 アレンは両目をこれでもかと開いて絶叫するアリシアの口を押さえて黙らせた後、くっくっく、と肩を揺らす。


「こいつはラッキー中のラッキーだ。こんな簡単な依頼で大金が転がり込むんだ。貴族もたまには役に立つじゃねぇか。さっさと受付済ませて出発するぞ」


 アレンは声を潜め周りの様子をうかがうと、そそくさと受付に向かう。途中、アリシアの方を向いてにやりと笑った。


「残念ながら、お前とのつきあいももう長くねえってこったな。すぐに金を返せそうだ。こいつはついてるぜ」

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